最低賃金と変化の起こし方(4)

ESG投資と最低賃金

2021/11/07の日経新聞5面に「下請け取引 年1万社調査」というタイトルで、「政府が、『下請けG

メン』とよぶ調査員を大幅に増員する」と出ています。現在は、120人で、4000社を調べているそうです。

これは、驚くべき時代錯誤と思われます。

2021年には、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングと「無印」を展開する良品計画が、人権問題が指摘されている中国・新疆ウイグル自治区の綿を使用しているのではないかと疑われました。

2019年には、米国の複数のテクノロジー企業が、コンゴ民主共和国の子供たちが採掘したコバルトから利益を得ているとして非難されています。

2006年に当時の国連事務総長のアナン氏が機関投資家に対し、ESGを投資プロセスに組み入れる「責任投資原則」(PRI)を提唱しました。国連の責任投資原則(PRI=Principles for Responsible Investment)とは、「環境、社会、ガバナンス課題と投資の関係性を理解し、署名機関がこれらの課題を投資の意思決定や株主としての行動に組み込む際に支援を提供することを目的」とするものです。

署名機関とは、PRIに賛同することを署名した機関投資家を指します。

 

2021/05/29のiPhone Mediaは、アップルの対応を次のように伝えています。


なお、物議を醸すことの多いレアメタルの採掘環境についても、Appleは53カ国の842社のサプライヤーと279社の製錬所・精製所に対して評価を行っています。Appleによれば、対象となったスズ、タンタルタングステン、金、コバルト、リチウムの製錬所および精錬所(人権および労働者の権利侵害が指摘されることの多い部門)はすべて、第三者監査を受けた。


アップルが、EGS評価を受けて、不合格になると、資金を引き揚げられてしまいます。ESG評価の対象は、米国内ではなく、世界中です。このために、アップルは、第三者監査を、材料の仕入れ先に入れています。

ESG投資の枠組みでは、下請けのESG評価に問題があれば、親請け会社のESG評価も失格になり、資金が請け会社から引き上げられてしまいます。これは、「下請けGメン」による違反の取り締まりより、はるかに、厳しい罰則です。

これに対応するためには、企業は、(親受け、下請け共に、)積極的に、情報公開を行い、第三者監査を受け入れるようになります。

そうしない企業は、資金調達が困難になるからです。

 

EGS投資の問題は、既に、以下で論じています。

ESG投資とトヨタと水平分業 2021/10/21

 

EGS投資は、法律順守より、厳しい縛りになります。

ESG投資では、今後、最低賃金や、労働時間の順守だけでなく、男女の給与格差なども、取り上げられるでしょう。

ESG評価の基準は、各国の法律ではなく、国際基準になるからです。

例えば、中国・新疆ウイグル自治区の綿の生産が、中国の法律に触れていなくとも、欧米の基準を満たしていなければ、ESG評価の基準では、失格になります。

こうした視点でみれば、最低賃金が、日本の法律を満足していても、第三者監査が、その最低賃金は人権問題になるほど、低いと評価する可能性もあります。

 

「下請けGメン」の増員が、第三者監査を避けるためであれば、別ですが、そうでなければ、EGS投資を考えれば、「下請けGメン」の増員は、もうすぐ、不要になるはずです。

 

 

 

  • 米人権団体、アップルら5社を提訴--コバルト鉱山で児童労働 2019/12/18 CNET Japan

https://japan.cnet.com/article/35147015/

https://iphone-mania.jp/news-371055/

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B2%AC%E4%BB%BB%E6%8A%95%E8%B3%87%E5%8E%9F%E5%89%87

  • 責任投資原則 PRI

https://www.unpri.org/download?ac=10971

 

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