ワンフレーズとツーフレーズ
2021/11/01の産経新聞によると、「首相は1日の記者会見で『賃上げ税制の抜本的強化や、補助金の要件として賃上げを求めることで、企業による賃上げを強力に促していく』と述べ、税制などの優遇措置で賃上げを促進していく考えを強調しています。
しかし、この政策には効果はありません。
日本の賃金を上げていくには、賃金の安い中小企業に賃上げをしてもらうことが必要不可欠です。しかし、中小企業の6割以上が赤字企業で税金を払っていません。つまり、優遇税制の効果は、相対的に賃金の高い「大企業優遇」にしかなりません。
2021/10/26の IT mediaで、 窪田順生氏は、「菅政権時の成長戦略会議には、『最低賃金の引き上げ』を強く主張していたデービッド・アトキンソン氏や新浪剛史氏がいて、三村明夫日本商工会議所会頭と時に激しい議論をしてきた。が、(岸田首相の)『新しい資本主義実現会議』では、三村会頭以外のメンバーはすべて消えている」と指摘しています。
つまり、岸田政権になって、中小企業に対して「保護政策」に逆戻りしています。
一番賃金の安い人賃金を上げるには、最低賃金のアップしかありません。
2021/10/18の東京財団政策研究所のコラムで、森信茂樹氏は次のようにいっています。
賃上げ「企業」への減税策だが、それだけの財源を活用するなら、「勤労者」へ直接減税する方が手っ取り早いのではないか。欧米諸国の多くが導入している制度に、勤労税額控除(給付付き税額控除)がある。中低所得者に、勤労を条件に減税や給付を行うもので、勤労意欲を高める効果を発揮している。
しかし、加谷珪一氏は、「年収400万円のサラリーマンにおける現実の所得税率は1・8%程度しかなく、事実上の無税に近い」といっていますので、森信茂樹氏の発言は、大企業のサラリーマンに対する優遇税制であって、中小企業のサラリーマンには、効果がありません。
今回のタイトルは、「ワンフレーズとツーフレーズ」です。この場合は、勤労税額控除が、ワンフレーズで、勤労税額控除と最低賃金が、ツーフレーズです。
2020/09/03の東京財団政策研究所のコラムで、森信茂樹氏は、次のようにいっています。
第二次安倍内閣では、2度にわたる延期を挟みながらも、消費税率を5%から10%に引上げ、その分を財政赤字削減にほとんど回すことなく、使途を社会保障高齢化3経費から、子ども・子育て、教育無償化など全世代型社会保障へと拡大して充足していった。
しかし、この記述は、法人税の減税を、意図的に外しています。「消費税率を5%から10%に引上げ、その分を財政赤字削減にほとんど回すことなく」と書かれていますが、第二次安倍内閣は、消費税は、福祉目的税である説明してきました。しかし、消費税の増税と同時に、法人税の減税が行われています。その結果、消費税の一部は、法人税に代わって、財政赤字削減に投入されています。お金に色はついていませんので、どの税が、どこに使われたかという議論は、無意味です。議論は、トータルの税収で行う必要があります。
今回のタイトルは、「ワンフレーズとツーフレーズ」です。この場合は、消費税が、ワンフレーズで、消費税と法人税が、ツーフレーズです。
ワンフレーズは、情報を隠している可能性があります。わかりやすくはありませんが、ツーフレーズで考えることが必要です。
森信茂樹氏は、大企業の立場を代弁する東京財団政策研究所に属していますので、その立場は明快です。
問題は、森信茂樹氏の発言を、識者の意見として、無責任に、引用する新聞があることです。
2021/10/18の東京財団政策研究所のコラムで、森信茂樹氏は、「所得に関しては、アベノミクス期には400万円から700万円の(世帯)収入階級の分布が減少し、700万円超と300万円以下の階級に二分化したことが明瞭にわかる」と指摘しています。しかし、消費税には、逆進性があり、その補正を行わずに、更に、大企業が中心に払っている法人税を、減税したのですから、「階級の二分化」は、事前に、わかっていたはずです。つまり、「階級の二分化」は、政策の目的でもあったはずです。
法人税の減税は、企業が海外に移転することを防止するというふれ込みでしたが、既に、主な工場は、海外移転済みで、効果が確認できていません。また、最近になって、OECDは、各国が法人税の引き下げ競争はしない方向で調整しています。
今回の選挙では、トヨタ労組は、自民党支持に転じました。「税制などの優遇措置で賃上げを促進」は、選挙協力の見返りで、大企業の減税を行うための「錦の御旗」に見えてしまいます。
政治には、利害関係は付きものです。しかし、市場による競争機能をゆがめると、労働生産性の低いゾンビ企業が生き残って、経済を破壊してしまいます。例えば、トヨタ労組が、雇用を優先して、EVを避けて、エンジン自動車にこだわれば、かつてのGMのようになることは必須です。
また、2021/11/07の日経新聞の1面によれば、40歳未満の自民党の支持率は、63.5%です。この40歳未満の自民党の支持者が、大企業の減税を希望していたのであれば、正常な選挙です。
しかし、ツーフレーズでものを、考えられずに、ワンフレーズにのってしまったのであれば、残念な選挙と言えます。
2021/06/30のIT mediaで、窪田順生氏は、あまり安い賃金に耐えられずに、『「月給9万円」低賃金放置 アニメ産業、中国に人材流出』(6月24日 毎日新聞?)という記事を引用しています。人材の流出は始まっています。
岸田政権は、最低賃金問題を避けているように見えます。
https://news.yahoo.co.jp/articles/9f6499e4ffa36bc24ca0b3ea7de40d451441df85
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岸田新総理の「分配」と「成長」を読み解く-連載コラム「税の交差点」第91回 2021/10/18 東京財団政策研究所 森信茂樹
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3834
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3522
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賃金は本当に上がるのか? 安いニッポンから抜け出せない、これだけの理由 2021/10/26 IT media 窪田順生
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2110/26/news065.html
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「安いニッポン」の本当の恐ろしさとは何か 「貧しくなること」ではない 2021/06/30 IT media 窪田順生
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2106/30/news055.html
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実は中間層は「ほぼ無税」、なのに格差が「下方向」に拡大する異常な構図 2021/11/03 ニューズウィーク 加谷珪一
https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2021/11/post-163.php
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