2022/01/01のJIJI.COMによると、次のようになっています。
経団連の十倉雅和会長は年頭インタビューに応じ、2022年度の景気について「ぜひとも3%を超える成長を期待したい」と述べ、下請け企業がコスト増を価格に転嫁できるよう大企業に取引の見直しを求めた政府の意向を踏まえ、「中小企業を含めて成果を(賃金に)還元しようと訴えていく」と、賃上げの裾野拡大に協力する考えを示しています。
賃上げについては、12月の始めから議論していますので、いささかうんざりしています。
また、経済成長をしたいという発言は、経団連も、政府も、毎年いっていますが、毎年実現していません。
こうした場合には、今までのどこに問題があったかをエビデンスで評価して、次は、この問題点をクリアして、一歩前進しますと説明するのが、科学的な態度ですが、そうした視点は見られません。
そもそも、賃上げを問題にすることはナンセンスです。企業は利益を生まなければ、存続できませんので、利益が多く出れば、多く配分できますが、利益が出なければ、配分できません。
この点で、考えれば、賃上げを問題にするよりも、労働配分率を問題にすべきです。
労働配分率を、ネットで調べた結果、令和3年11月の内閣官房新しい資本主義実現本部事務局の「賃金・人的資本に関するデータ集」に関連するデータが載っていることがわかりましたので、ピックアップしてみます。
図1が、問題の労働配分率ですが、大企業は低く、中小企業は高いです。
小規模な企業ほど、賃金が安いですが、労働配分率が高いので、それ以上、賃上げができないことがわかります。
図2は、労働配分率の国際比較です。日本の労働配分率は低いことがわかります。
図2と図1を比べると、図2は、大企業のみではないかと思われます。
大企業は、労働人口の半分以下しか、かかえていませんが、労働人口で重み付平均を求めれば、図2より高い数字になるはずだからです。
図3は、労働配分率の産業間比較です。これをみると、情報通信企業の労働条件がよくないことがわかります。
12月30日にも、みずほ銀行でトラブルがありましたが、IT企業は、労働配分率が低いため、優秀な人材を集めていない可能性があります。
図4は、人材投資です。これから、日本企業は、人を育てていないことが明白です。
図5は、労働生産性の格差ですが、図5には問題があります。
大企業と中小企業の2000年の労働生産性を共に100にしていますが、これは、不適切です。
図6は、OECDのデータですが、企業規模によって、労働生産性には、2倍以上の差があります。
つまり、中小企業は、労働生産性が低いため、労働配分率が高いにも関わらず、一番賃金が安くなっていて、これを解消するには、春闘ではだめなことがわかります。
労働生産性をあげるためには、企業規模を大きくする必要があり、もっとも効果がある方法は、最低賃金の底上げです。
図7は、大企業の賃金体系ですが、年功型が強く、かつ、女性の賃金が低くなっています。
これは、明らかに、同一労働、同一賃金でありません。また、少子化を促進する要因にもなります。
経団連は、大企業の賃金体系の社会責任について、説明すべきです。
図8は、GDPの伸び率です。これは、2010年から2019年を比較しています。図中のタイトルは不適切です。GDPが伸びたといっても、生活実感はありません。
確認のために、日本生産性本部の購買力価(PPP)のデータをみると、次のようになっていました。
日本の1人当たりGDPの推移をみると、2010年以降(2010~2020年・実質ベース)で6%上昇した。これは、米国(+10%)やドイツ(+7%)を下回ってはいるものの、カナダ(+2%)や英国(+1%)、フランス(±0%)、イタリア(-8%)といった国よりも、物価を調整した実質でみれば1人当たりGDPが上昇したことになる。
図8で、間違っていないことがわかります。
図8では、経済成長率は、就業者数の増加と労働生産性の上昇に分解されています。
就業者数の増加は、労働参加率で評価されています。
「労働参加率」とは、生産年齢人口(15歳~64歳の人口)に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合です。
つまり、生産年齢人口で、働いていなかった人が働けば、労働参加率があがります。
しかし、労働参加率があがっても、生活は楽になりませんので、経済成長の実感がわきません。
問題は、労働生産性の向上であることが確認できます。
参考までに、先進7か国の一人当たりGDPランキングを図9に示します。
図10は、設備投資額、図11は、研究開発投資額ですが、国際比較では、日本は、最低水準です。
図4と合わせると、日本企業は、人、設備、研究開発のいずれにも、国際水準の投資を行っていませんので、このままでは、経済成長が回復することはないと言えます。
ただし、図4,図10、図11では、企業規模のデータはありません。
中小企業は、人、設備、研究開発に投資する力はありませんので、これらの図に中小企業が含まれていれば、そのことが、数字を引き下げている可能性があります。
図7でも指摘しましたが、「賃金・人的資本に関するデータ集」では、企業規模の問題が、意図的に避けられている可能性があります。
まとめますと、経済成長を止め、賃金上昇を抑えている原因は、中小企業の低い労働生産性に原因があります。賃上げを大企業に求めることは、ナンセンスです。大企業の労働配分率、特に、情報通信企業の労働配分率はあげるべきでしょう。しかし、再配分の問題になっている貧富の差の解消は、中小企業の低い労働生産性を解消しない限り、解決できません。
「DXで、中小企業の労働生産性を上げる、そのために、補助金をばら撒く」という議論もありますが、それは、不可能です。理由は簡単で、中小企業には、データがありませんので、科学的な改善計画を立てて、DXをすすめることが不可能であるからです。
データのないところに補助金をつぎ込むのは、病名もわからずに、薬を飲み続けるようなものです。効果が出る確率は、極めて低いです。
追記:
2021/01/03の産経新聞によると、大阪府が庁内のIT関連業務を民営化させるため、民間企業と共同出資する新たな事業会社の立ち上げを検討しているそうです。地方公務員の給与体系では高度なスキルを持つ人材に見合う報酬を支払うのは難しく、採用人数が確保できないからだそうです。
ちなみに、大阪府の実態が書かれていました。
大阪府の知事部局の職員約7500人のうち、スマートシティ戦略部(約90人)の専門職にあたる「行政情報職」は約30人だ。
府庁内では現在、各部署が個別にIT事業者と取引し、約240ものシステムを運用しているが、各サーバーの稼働率はわずか10%前後。調達や管理など一連の業務を新会社が一元的に担うことでシステムを標準化し、無駄をなくす狙いがある。
2021/01/03の読売新聞は、高等専門学校のカリキュラムの改訂を紹介しています。
政府は半導体の国内生産能力を高めるため、高等専門学校(高専)での専門人材の育成に取り組む方針を固めた。2022年度中にも九州にある八つの高専を対象に、半導体の製造や開発に関する教育課程を新たに盛り込む。世界的な半導体不足のなか、技術の担い手を増やし、かつて世界をリードした「日の丸半導体」の復権につなげたい考えだ。
問題は、大企業や、公務員の年功型賃金体系(=同一労働非同一賃金体系)にあります。上記で見たように、情報通信産業の労働配分率は、極端に低いです。
情報通信産業企業の多くは、ダーク企業で、優秀な人材を集められていません。
優秀な人材を集めるには、ITエンジニアで、業績を上げれば、30代で億万長者になれる社会システムをつくる必要があります。
世界中が、科学技術大学の充実に、シフトしているなかで、大学より専門性の低い、高等専門学校のカリキュラムの改訂をおこなうことは、最初から、IT立国のレースに参加していないことになります。
高等専門学校で、全ての教材と授業を英語で行える(これが、IT技術習得の最低条件です)ところが、いくつあるのでしょうか。
年功型賃金体系の大企業と公務員の身分制度の維持に、固執すると経済は崩壊します。特に、女性賃金格差は、異常です。このままでは、日本沈没は、まじかです。
-【独自】「日の丸半導体」復権へ、九州8高専に専門課程…政府方針 2021/01/03 読売新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/dca3b13923590c60ce7c1605bfbe0f3bd2df82b8
https://news.yahoo.co.jp/articles/d9636d8513114d84727c3ab39b92bf07d96b77e0
- 3%超成長に期待 賃上げ「中小含め成果還元」 十倉経団連会長 2022/01/01 JIJI.COM
https://news.yahoo.co.jp/articles/067fcf020392ead006d35e462efbe61f3fd94057
- 賃金・人的資本に関するデータ集 令和3年11月 内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai3/shiryou1.pdf
2019年 OECD 経済審査報告書 https://www.oecd.org/economy/surveys/OECD-Economic-Surveys-Japan-2019-presentation-Japanese.pdf
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/report_2021.pdf