日本は、望んで、貧しくなったのかもしれない~株式の勉強(2)

今回も、日本企業の特殊性に関する話題です。

選択しないという選択肢はない

大学生を見ていて、出来の悪い学生には、共通点があります。

それは、次の2点です。

(1)自分が、何になるのかはっきりした職業ビジョンがないか、メンターがいない

(2)職業選択は、開かれていて、いつでも自由にできる

大学の入学するときに、学部と学科を選んでいますので、その時点で、就職できる職業は、ある程度限定されます。学年が進むと再受験できる可能性は減りますので、次第に選択の幅が狭くなります。それにもかかわらず、出来の悪い学生ほど、自分の適性にあった職業があって、いつでも(就職の直前まで)、職業を自由に選べると考えます。

この対局にあるのが、医学部を受験して、医者になる学生です。

医学部を受験するには、進学校を選ばないと合格確率が、著しく下がります。また、大学受験時の成績も、あるレベルが必要です。

このため医学部を受験する学生の多くは、中学校の受験時から、医者になることを、職業ビジョンとして持っています。

中学校から、大学受験まで、6年間あり、大学卒業まで、4年あります。医学部は、6年ですが、ここでは、4年目までで時間を揃えて比較します。

そうすると合計10年間を職業ビジョンを持たずに、職業選択は、自由だと考えて、格段の勉強をしない学生と、医者になるために、10年間努力した学生がいることになります。

この2者の学力に、差がついてしまうことは、当然と言えます。

医学部受験レベルの学力があって、大学受験時に、職業ビジョンを医者から変更することは可能です。その場合には、真の意味で、職業選択の自由があります。しかし、その自由を確保するには、医者になるのと同じレベルの継続的な勉強を続ける必要があります。

この話をしたのは、「選択を先延ばしにすることで、選択の自由を確保することはできない。そう考えるのは、出来の悪い学生と同じ、勘違いでしかない」ことを説明するためです。

選択を先延ばしにすることは、最悪の対応で、それよりは、一旦、選択を明確にしておき、必要であれば、後で、変更する方が良い対応です。

北京オリンピックを外交的ボイコットするか、否かについて、政府は、当初は態度を当面は保留すると言っていました。政府は、最終的に、大臣を派遣しないことで、グレーゾーンの対応ができたと考えているようですが、それは、出来の悪い学生と同じ、考え方です。

今の政府の政策は、親中です。グレーではありません。自民党の中には、親米を唱えている議員もいます。こうした議員は、自分は、反中だと思っているかも知れませんが、自民党の中にいることは、親中に賛成していることになります。反中であれば、自民党を抜けなければなりません。

これは、ドイツのヴォールマットのような政党選択ツールを考えてみれば、「自民党=親中」になるので、自明です。

先送りにした課題は、少子化、高齢化、などなど、数えきれません。

1994年の選択

日本経済は、失われた30年ともいわれます。分岐点は、バブル崩壊後の1994年頃です。

1994年には、ソ連の崩壊と中国の開放政策によって、日本より、安価な労働力が、世界経済に供給されはじめます。

1994年頃までは、インターネットもIT産業もありませんでした。

1994年頃まで、日本が良い製品を安く世界の売り捌くことで、大きな貿易収支の黒字とGDPの成長を成し遂げます。現在の日本の大企業は、その頃までに大きくなった企業であって、GAFAのように、1994年以降に創業した大企業はありません。

1994年頃には、日本の後を追って、工業化に成功した国が出てきましたので、今までの延長線上で、良い製品を安く売り続けることはできないと考えられていました。大量生産向けの画一的な教育では、独創的な製品を生み出す人材を供給できないと考えられ、ゆとり教育が、始められます。

つまり、「安価+低付加価値+大量生産」から、「高価+高付加価値+少量生産」に、産業構造の転換を図るべきだと考えられました。(注1)

しかし、日本は、産業構造の転換に失敗して、経済成長が30年間止まっています。

一般には、日本は産業構造を転換する努力したけれど、運の悪いことに、失敗したと考えられていると思います。

例えば、独創的な人材をつくるというゆとり教育は、目の付け所はよかったと言った評価です。

2021/01/09の東洋経済で、野口悠紀雄氏は、この産業構造の転換問題を次のように指摘しています。(以下は、筆者の抽出要約)


中国の工業化に対応する2つの方策がありました。

第1は、輸出品の価格を切り下げて、中国の低価格製品に対抗する「安売り戦略」です。

第2は、中国が作れないもの、あるいは中国製品より品質が高いものを輸出する「差別化戦略」です。

日本は、1996年の「ものづくり白書」に見られる、「賃金を円ベースで固定し、円安にすることで、ドルベースの価格を安値にして、輸出を拡大する『ボリュームゾーン』と呼ばれる第2の『安売り政策』」を採用しています。


つまり、政府には、「産業構造の転換をする意図はなかった」ことになります。

そのように理解すると、新卒一括採用、OJTを続けたこと、大学の組織が変わらなかった(IT系人材を育成しなかった。大学改革を行なわなかった)ことは、産業構造を転換をしない意図の反映でした。

「安売り戦略」は、「安価+低付加価値+大量生産」の旧態依然の企業構造ですから、経済成長するはずはなく、経済成長よりも、体制維持を選んだといえます。

つまり、日本経済は、落ち込むべくして、落ち込んだことになります。

1994年の選択の影響

円ドルレートは変動していますので、短期的にみれば、円高にみえる場合もありまが、長期的に見れば円安が進んでいます。注意すべきは、野口悠紀雄氏の言っている円安は名目ではなく、実効レートであることです。

日本は、円安に誘導して、消費税を上げた時には、法人税を減税し、正規雇用を非正規雇用に変えています。その結果、企業は労働者の犠牲の上に、利益を確保します。

2021/12/13の東洋経済で、リチャード・カッツ氏は、日本人の賃金が停滞の原因を次のように、指摘しています。(以下は、筆者の抽出要約)


1995年から2017年の間に、生産性、すなわち労働時間あたりのGDPは豊かな11カ国で30%成長したが、時間当たりの報酬(賃金+福利厚生)は、その半分の16%しか伸びていません。日本の生産性の伸びは、11カ国平均と同じ30%でしたが、労働者の賃金は1%減少しています。減少している国は、日本だけです。

日本が、異なる最大の要因は、低賃金の非正規労働者が急増です。1980年代には労働人口の15%だった非正規労働者が、最近では40%まで増えています。正社員の平均時給は2500円ですが、派遣社員は1660円、パートタイムは1050円にすぎません。


低賃金の労働者を生み出すと、低賃金の労働者が、老後を迎えるときに、生活することが困難になり、社会不安の元になります。筆者は、将来、この問題が発生して、治安の良い日本が失われることを危惧しています。

2022/01/06の東洋経済で、 リチャード・カッツ氏は、世帯の過半数を占める高齢者について、将来ではなく、現在既に、問題が発生していると、次のように指摘しています。(以下は、筆者の抽出要約)


財務省は、高齢化が進むにつれ、社会保障費や医療費などの支出がGDPに占める割合が大きくなっていくと主張しています。しかし、高齢者への支出は、増加して、2013年には対GDP比12.5%でピークに達した後、横ばいになり、2019年には12.4%に減っています。

高齢者の数が増えているにもかかわらず、支出が減少している理由は、プリンストン大学経済学部のマーク・バンバ教授と、コロンビア大学経済学部のデビッド・ワインスタイン教授が指摘するように、財務省が高齢者1人当たりの支出を大幅に削減したためです。高齢者1人当たりの社会保障費は、1996年のピーク時の192万円が、2019年には149万円と5分の1減少しています。

高齢者1人当たりの医療費補助は、1999年のピーク時の52万円が、2019年には44万円と15%削減されています。

これらの削減が、原因の1つになって、65歳以上の1人暮らしの女性の貧困率が50%近くにまで上昇しています。また、2018年には、主に3000円相当の万引きの疑いで4万5000人(1989年は7000人)の高齢者が逮捕されています。逮捕者の多くは収監されませんが、刑務所に入る人の3分の1以上(1960年には5%)が60歳以上で占められています。多くは1年ほど刑務所で過ごした後、解放されますが、その後同じ罪で再び刑務所に戻ります。刑務所には温かいご飯、ベッド、医療があって、仲間がいるからです。

社会保障と医療費補助が減った上に、預金金利が下がった結果、退職者の家計支出の40%が貯蓄の取り崩しになっています。多くの人は、寿命を迎える前に貯金を使い果たしてしまうと思われます。


この状態では、消費を中心に景気がまわることはありません。 宇沢弘文氏は、GDPに占める労働分配率の長期的な安定性が、マクロ経済の健全性の前提条件であること明かにしています。

こうしてみると、「成長から分配へ」といって、政府が、大企業の賃上げに介入し、効果のない税制をいじり回すことは、ナンセンスです。

また、「65歳以上の1人暮らしの女性の貧困率が50%近」いとう数字をみると、パートタイムかつ女性差別の低賃金による「安売り戦略」は、経済問題の以前の倫理問題です。

日本経済を成長させるキーポイントは、パートタイムの最低賃金の上昇と、産業構造の転換です。

最低賃金の上昇は、本来は、景気の回復に伴っておこるものです。最低賃金を上昇させても、直接、景気が回復する訳ではありません。最低賃金の上昇は、ゾンビ企業を淘汰することで、産業構造の転換に効果があると考えらえます。

この点については、2021/11/03の東洋経済に、最低賃金の上昇を支持する デービッド・アトキンソン氏が記事を書いているので、それを紹介しておきます。

注1: ソフトウェア産業では、大量生産と少量生産の区別がありません。「高価+高付加価値+自動カスタマイズした大量生産」が可能です。これが、IT企業が、大きな利益を上げている理由と思われます。

https://toyokeizai.net/articles/-/500552

  • 日本の問題をはき違えている「財務省」の大きな罪 2022/01/06 東洋経済 リチャード・カッツ

https://toyokeizai.net/articles/-/500817

  • 日本人の賃金が停滞し続ける「日本特有」の理由 2021/12/13 東洋経済 リチャード・カッツ

https://toyokeizai.net/articles/-/475188