(目的税と補助金は、制御可能なシステムとして設計すべきです)
1)日本の法人税減税とファーウェイ
既に書きましたように、2019年12月のウォール・ストリート・ジャーナル紙は以下の推計をしています。
「2008年から 2018年の間に、中国政府は最大750億ドルの補助金、信用枠、減税などの資金援助をファーウェイに提供しました。その結果同社は、ライバルより30%安い価格を武器に世界最大の通信機器企業にのし上がっています」
同じ時期に、日本の安倍政権は、3度にわたり、法人税減税をしていますが、減税分は投資に回らずに、内部留保が増えています。
つまり、日本の法人税減税は、日本の通信機器企業の新規投資を呼び起こさなかった一方で、中国のファーウェイは、補助金と減税によって、ライバルより30%安い価格を武器に世界最大の通信機器企業にのし上がっています。
ファーウェイの売り上げが増えれば、日本企業の売り上げが減る可能性があります。
実際に、2008年から、最近のスマホの世界シェアは以下の通りです。
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2008年の全世界の携帯端末出荷台数
2 サムスン 韓国 16.2%
3 LG 韓国 8.3%
4 ソニー・エリクソン (日、ス) 8.0%
6 リサーチ・イン・モーション カナダ 1.9%
7 京セラ 日本 1.4%
9 HTC 台湾 1.1%
10 シャープ 日本 1.0%
- その他 - 14.1%
2013年の世界スマホ出荷
1 サムスン 韓国 31.3%
3 ファーウェイ 中国 4.9%
4 LG 韓国 4.8%
5 レノボ 中国 4.5%
2018年の世界スマホ出荷
1 サムスン 韓国 20.80%
4 ファーウェイ 中国 14.7%
3 シャオミ 中国 8.7%
3 DPPO 中国 8.1%
2022年5月の世界スマホ出荷
1 サムスン 韓国 28.0%
3 シャオミ 中国 13%
4 ファーウェイ 中国 7%
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ウォール・ストリート・ジャーナル紙が分析した2018年頃に比べると、最近のファーウェイのシェアは落ちていますが、2008年にはランクに入っていませんでしたので、中国のファーウェイの振興政策は成功したと言えます。
日本の法人税減税は、日本の電機メーカーが、世界のスマホ市場でシェアを広げる効果は全くなかったことがわかります。
2)色のつかない課税
税制の基本は、色のつかない税であると言われます。
この反対は、目的税です。税毎に使用目的が決められてしまうと、政府には、予算の調整権がなくなってしまうので、目的税を避けるべきであるといいます。
今まで、政府は、消費税の増税の度に、年金・医療などの社会保障の安定財源に使うと説明してきました。
消費税を増税する一方で、法人税の減税を3回繰り返してきました。
そこで、消費税の増税分は、法人税に転用されたのではないかという議論が出てきます。
これに対する反論は、社会保障費の増大分は、消費税の増税分を超えているので、消費税が、社会保障以外には使われていないという説明です。
しかし、この説明は、全ての税は、目的税であるという前提を受け入れないと成り立ちません。
法人税が減税されなければ、税収が減らなかった分は、赤字財政の補填に使われ、長期的には、社会保障の安定財源に寄与します。
企業が内部留保を増やせば、経済(お金)は回らなくなるので、経済成長が、落ち込みます。
2022年11月には、防衛費を捻出するために、法人税を増税する案が出てきています。その検討は、有識者会議が行うようですが、3回の法人税の減税が、投資を誘導しなかったわけですから、エビデンスからみれば、有識者会議には、次の2つの疑惑があります。
(1)有識者会議は政策立案能力が(少なくとも中国と比べて)不足している
(2)有識者会議が利害関係者会議になっている
これは、有識者会議のメンバーを批判しているのではありません。
エビデンスに基づけば、有識者会議というシステムに問題があるので、パーツを交換すべきだというだけです。
筆者は、中国のファーウェイ補助金システムは、李克強グループが作成したと推定しています。
日本の「政府+有識者」グループは、経済政策で、李克強グループの後塵を拝したことになります。
最近、テスラの自動運転自動車が中国で事故を起こしました。
自動車のトラブルがあれば、部品を入れ替えます。現在の部品の性能が十分でなければ、改善した部品に入れ替えます。
こうしたメンテナンスをしない自動車は、恐ろしくて、誰も乗らないでしょう。
日本経済は30年間故障し続けています。事故は多発して、労働生産性はあがらず、税金はあがり、年金は減額しています。
日本経済は、30年間悪い所を取り替えず、変わらない日本を続けてきました。
李克強グループに対して、競争優位になるためには、何が必要かという検討や議論は封印されています。
日本経済という自動車は半ば壊れたまま走り続けています。
この先何が起こるかは、火を見るよりも明らかです。
現状では、色のつかない税が組める可能性は低いです。予算編成も前年をベースに修正するだけですから、付いている色は、ほんの少ししか変わりません。
そうなると目的税を如何に合理的に組み立てるかを考えるべきです。
2008年から 2018年の間に、中国政府は最大750億ドルの補助金、信用枠、減税などの資金援助をファーウェイに提供しました。
このことから、「減税、補助金、信用枠」は連動して、企業経営に影響を与えることがわかります。
例えば、政府は、台湾積体電路製造(TSMC)とソニーの子会社が熊本県で建設する工場に最大4760億円の補助を、半導体大手キオクシア(旧東芝メモリ)などによる国内半導体工場の建設に最大929億円の補助金を出しています。
補助金と現在は、企業経営上は、どちらも超過利潤になります。
「超過利潤に両得なし」の法則が成り立てば、イノベーションは起こらないことになります。実際に、TSMCの工場は、1世代前の規格のICを製造するもので、イノベーションにはならないことが、最初からわかっています。
現状では、減税した金額が、投資に使われず、内部留保になっているケースが多いことがわかっています。
その点では、補助金の方がまだましと思われます。
中国では、「減税、補助金、信用枠」を連動して、効果を上げるように設計されています。
ということは、減税や補助金を単独で検討することは不合理です。
補助金よりも、信用枠や低利の貸付の方が、超過利潤の弊害を産みにくいと思われます。
低金利政策は長く、続けられていますので、今更、信用枠や低利の貸付は不要です。
企業の内部留保が増えると、それを吐き出せという議論や、内部留保は目的あって積んでいるので、余剰金ではないという反論が出たりします。
これは、どちらも典型的なバイナリ-バイアスです。
ここで問題になっているのは、3回の減税によって増えた内部留保(超過利潤)です。
この部分が、投資に回らなければ、減税は当初計画した効果をあげていないことになります。
減税時の時と話が違う訳ですから、3回の減税によって増えた内部留保(超過利潤)は吐き出せという論理が成り立ちます。
しかし、フィードバック・システムの基本的な考え方は、目的量が目的値に近づかなければ、制御量を変化させるだけです。
このシステムは、系の安定性の条件を求める難しさはありますが、概ね有効に機能します。
目的税はフィードバック・システムであるべきです。
法人税減税をフィードバック・システムにあてはめれば、目的量は「減税によって増えた内部留保による新規投資」で、制御量は税率になります。
簡単な制御システムは次のようなものです。
(1)ステップ1:減税によって内部留保を増やします
(2)ステップ2:投資されない「減税によって増えた内部留保」に課税することで、投資を促します。
つまり、最初から、2つのステップを税制に組み込んでおけば問題は起こらなかったはずです。
これは、大学の学部レベルの制御工学なら、数式が出てくる部分の前、最初の方で扱う内容です。
日経新聞は、TSMCの補助金についても、「政府、補助金最大4760億円、国内産業へ効果 検証必要」と書いています。
自動車で言えば、フィードバックシステムが機能していない自動車は、暴走状態です。自動車を作る時に、とりあえず走らせておいて、ブレーキは走りながら製作する企業はありません。
政府の補助金政策と法人税の減税政策は、自動車を先に走らせておいて、ブレーキを後で作る方法です。
これで経済が制御できるとはとても思えません。
筆者は、減税や補助金をやめろといっている訳ではありません。
現在の減税や補助金システムの作り方があまりに稚拙で、それが、日本経済の停滞を生み出している可能性を指摘したいのです。
引用文献
携帯端末(携帯電話・スマートフォン)世界シェア2008年 - ノキア、サムスン(韓国)、シャープ(日本)2009/02/10 MEMORVA
https://memorva.jp/ranking/sales/mobile_share_2008.php
2013年の世界スマホ出荷、10億台突破!アップルは輝きを取り戻せるか?2014/01/09 iPhonemedia
https://iphone-mania.jp/news-19511/
2018年の全世界スマホ出荷台数シェア、2位のアップルにファーウェイが肉薄 2019/01/31 BCN+R
https://www.bcnretail.com/market/detail/20190131_103280.html
世界40カ国、主要OS・機種シェア状況 【2022年5月】
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000093.000034654.html
TSMC熊本工場を認定 政府、補助金最大4760億円、国内産業へ効果 検証必要2022/06/18 日経新聞
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61834950X10C22A6EA5000/