人口減少と産業構造(14)

社会構造の変化の予測(4)

4)開発計画と所得倍増計画フレームワーク

開発計画は、最近では、表に出ることが少なくなりました。開発計画の代表は、全総で、1960年頃、池田内閣の頃にできています。田中内閣の日本列島改造論も、開発計画の上に乗っています。原発などのエネルギー政策も、開発計画のバリエーションです。今世紀に入って、今更開発でもないだろうということで、開発計画は、利用計画に名称が変更になりましたが、中身はほとんど変わっていません。

開発計画は、池田内閣の所得倍増計画とセットで始まります。所得倍増が終わったあとでも、開発計画が更新されます。そして、原発にみるように、計画の評価がなされることなしに、更新が進みます。評価がされたら、核廃棄物の処理問題が解決するまでは、原発は中断になっていたでしょう。全総は、土地利用計画とも結びついています。地価の上昇や、スプロールは1960年代には、既に、問題になっていましたが、有効な対策を打つことなく、バブルの原因となります。

開発計画で所得倍増が、実現できたのは、資金と安い労働力の供給があったからです。予算配分と許認可によって、政府が、民間をコントロールすることで、経済成長を実現しています。

東京を中心に、放射状に鉄道を建設を、宅地造成とセットで行う手法は、2006年のつくばエクスプレスでも採用されています。人口減少社会でも、新しいライフスタイルを提案できていないのです。

ここで、考えなければ、ならないことは、政府が、土地利用計画(これは規制です)、予算の重点配分、許認可で、経済発展するというフレームワークです。今、これを所得倍増計画FW(フレームワーク)と呼ぶことにします。

所得倍増計画FWでは、技術は、輸入するもので、独自開発は、効率が悪いので、原則しません。輸入した技術を改善するための技術開発投資はしますが、これは改良型の技術です。短期的には、この戦術も効果がありますが、技術のパラダイムシフトが起こるときには、取り残されます。所得倍増計画FWは、1960年頃の日本のデータ取得を反映しています。この頃は、計画を立てるために必要なデータがないので、データをとってエビデンスに基づいて、フィードバックするループがすぐには、作れませんでした。所得倍増計画は、経済発展を急ぐために、データを無視して、つかみで計画を立てます。これが、その当時は、政治決断だったわけです。先進国になった時点で、データをとってエビデンスに基づいて判断するように切り替えるべきでしたが、所得倍増FWから抜け出せませんでした。

データをとってエビデンスに基づいて判断する方法は、科学的な手順です。データがない、または、データが手にはいらない場合には、データがないので、感情的な判断に頼るしかありません。感情的な判断は、扇動することができます。扇動によって予算配分を政府の都合の良い方向に持っていくことが政治になってしまうと、データ公開は、権力の基盤を揺るがすので、行われません。こうして公文書などが公開されなくなります。

よく日本は同調圧力が強いと言われます。これは、日本人の国民性のように扱われることもあります。しかし、データが公開されていなければ、同調しないと拘束されるリスクがあります。なぜなら、行動の正当性を示すエビデンスがないからです。

所得倍増計画FWは、交付金などの中央集権のシステムを内蔵しています。

所得倍増計画FWは、バブルで崩壊しています。

まとめます。

所得倍増計画FWは、非常に多岐にわたるので、簡単に論ずることは困難です。

しかし、

1)データサイエンスの視点から、科学的な判断と感情的なデータに基づかない判断を区別すること

2)そのルールのスタートが1960年頃であるか

を判断することで、所得倍増計画FWの影響を識別できると考えます。

デービッド・アトキンソン氏は、1960年頃できた中小企業を保護する法律が、労働生産性の低い企業を残し、日本経済の足枷になっていると主張しています。それは、正しいのですが、問題解決には、どうして1960年頃に、この法律ができたのかを理解する必要があります。

所得倍増計画は、農業から工業への労働者のシフトによる労働生産性の向上により実現します。1960年頃、労働生産性の向上が無視されていたのではなく、政策の中心課題でした。そう考えると、この時期に、中小企業を保護する政策がなぜ、できたのかは謎です。農業は、規模拡大による生産性の向上を目指しますが、結果としてできたのは、多数の兼業農家でした。農家戸数が減って、規模の拡大が進むのは、今世紀に入ってからです。兼業農家を可能にしたのは、米の価格支持政策と農業機械購入に対する補助です。ですから、ここには、中小企業保護と同じシステムがあります。

1960年代の労働生産性の向上は次の3つに分解できます。

1)工業内の労働生産性の向上

2)農業内の労働生産性の向上

3)農業から工業への労働者のシフト

1960年代の所得倍増は、3)により成功しますが、実は、1)と2)は、失敗であった可能性があります。3)が止まれば、1)と2)だけの効果になりますので、経済は停滞します。これが、現状ではないでしょうか。 1)と2)は、自民党の政治基盤であったとも言われています。現在は、1)と2)で働く、有権者数は減少していますので、変化は始まっています。

失われた30年になって、書店を見ると「経済の高度成長は、復活できる」といった趣旨の書籍がよく売れています。しかし、1)2)3)を分けて考えれば、経済停滞の原因は、高度成長期に、既に、内包されていたと思われます。

人間では、よく団塊の世代と言われますが、団塊の世代が、本格的に、仕事についた時期は、所得倍増計画FWの開始時期に重なります。団塊の世代がリタイアしたように、所得倍増計画FWにもリタイアしてもらう必要があります。

(以下、続く)

 

前の記事

ガソリンのない社会を考える 2021/10/08

次の記事

日本の政治は、エビデンスに基づいているのか? 2021/10/10

関連記事

人口減少と産業構造(13) 2021/10/06