ガソリンのない社会を考える

ここでガソリンと言っているのは、ガソリン、重油軽油など、石油を精製して得られる動力燃料を指します。

20世紀、そして、現在も、石油は富の源泉でした。石油の埋蔵量が有限であることは、問題視されてきて、そのための代替エネルギーとして、原子力の開発が進められました。

しかし、自然エネルギーの製造コストが、ガソリンの製造コストを下回ると、石油を掘削することは、経済的に合理的でなくなります。

経済産業省の資源エネルギー調査会、発電コスト検証ワーキンググループは、7月12日に原子力、太陽光、風力、石炭、液化天然ガスLNG)など15種類の電源ごとに、2030年の発電コストを試算しています。太陽光発電のコストは2030年時点では15の電源の中で最も低コストになると予想されています。

しかし、これは新設の場合であって、2021/07/14のNRIで、木内 登英氏が紹介しているように、「ブルームバーグNEFによると、新設の太陽光発電所の発電コストが、現在ある既設の石炭火力発電所の発電コストを下回る時期は、2040年代後半になる」そうです。

木内 登英氏は、「第7回 発電コスト検証ワーキンググループ」の検討には、送電網の問題が含まれていないので、太陽光へのシフトは、試算ほど容易ではないだろうという意見です。

表1は、「第7回 発電コスト検証ワーキンググループ」の資料からとった2020年の発電量構成です。これから、発電量のシェアが一番大きいのは、火力発電で、石炭とLNGを使っていることがわかります。石油を使っている火力発電もありますが、量が少ないです。火力につぐ発電量は、原子力です。これから、石炭またがLBGを原料にしている火力発電をゼロにすることは容易でないことがわかります。まして、原子力を減らすのであれば、火力発電は、CO2の除去装置などの対策をした上で、当面、使うことになりそうです。

石油は、4割が工場や家庭などの熱源、4割が自動車や船舶、飛行機などの動力源、 2割が洗剤・プラスチックなどの化学製品の原料として使われています。

化学製品の原料の内訳は、プラスチック63%、合成ゴム12%、合成繊維7%、塗料4%、合成洗剤・界面活性剤3%、その他11%です。

ゼロエミッションを考えると、熱源利用の石油利用はゼロ、動力源の石油利用は、航空機等特殊な場合だけ、化学製品の石油利用は、プラスチックを減らし、あるいは、リサイクルすれば、半減するでしょう。

Energy Technology Perspective(2017)によれば、動力源のCO2発生量の10%が、航空機に由来しています。

ですから、大まかにみれば、航空機は、石油消費量の全体の4%を使っていると思われます。

石丸 美奈氏によれば、「2020年の持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuels、SAF)の生産見通しは4万kLと世界のジェット燃料需要のわずか0.015%でしかない」そうです。これから、航空機が、バイオ燃料に切り替えるには、まだ、時間がかかりそうです。

化学製品の石油利用を10%、航空機の石油利用を4%とすると、トータルの石油の消費量は、現在の14%になるはずです。この実現時期は、2030から2040年の間になると思われます。

 

 

f:id:computer_philosopher:20211007223359j:plain

表1 2020年の発電量構成

 

この場合の問題点は2つあります。

1)消費が減ると、規模の経済が働かなくなり、単価が上がる可能性があります。

石油の前のエネルギーであった石炭、さらにその前の木材や炭に比べ、石油は、掘り出して、精製する必要があり、手間がかかります。この問題に対しては、規模の経済によるコストダウンをしてきました。しかし、消費量が減り、生産量が減ると、今までよりコストアップになる可能性があります。

2)現在の石油の精製の製品バランスを大きく崩した生産の可能性です。たとえば、ガソリンを作らずに、航空機燃料と化学材料だけを生産することは容易ではないと思われます。

プラスチックなどの石油製品が、爆発的に広まった要因は、その価格の安さにあります。代替プラスチックの普及が拡がらなかった理由は、コスト高にありました。しかし、石油製品がコスト高になると立場は逆転します。石油から作った航空燃料より、バイオ燃料の方が安くなる可能性があります。

もちろん、航空機燃料のようにコスト高に耐えられる分野もあります。しかし、航空機燃料の価格が上がれば、それは航空機の利用を減らして、鉄道や、船に変え、ネット会議で済ませる場合も増えると思われます。

つまり、今までのような空の大量輸送時代は終わってしまう可能性もあります。

実は、この原稿を考えた発端は、非常用発電の問題です。病院、スマホの中継局は、非常用発電装置を持っていて、72時間程度の発電が可能になっています。しかし、電流ではなく、電圧が必要な場合には、バッテリーに置き換わると思われます。問題は、電流が必要な場合や、動力が必要な場合です。

国土強靭化が政治テーマになっていますが、筆者は、ハード対策より、ソフト対策に重点を置くべきであると考えていますので、ダムや排水ポンプを増設することには、賛成しません。しかし、現在ある、排水ポンプを動かすことは、必要です。洪水の排水ポンプは、ポンプ場の周囲に洪水がきても、動くように、停電を前提に設計されています。このために、重油で動くディーゼルポンプが主流です。ゼロエミッションになると、CO2を排出するから、洪水排水ポンプを動かすなと言うことにはならないと思いますが、重油の価格は上昇するはずです。

第1の対策は、排水機場の統廃合による効率化です。第2は、燃料の切り替えです。ここでは、航空機程の高出力は求められませんが、あまり、コストはかけたくありません。そうすると、バイオ燃料が有望かもしれません。

まとめます。

ガソリン車のない社会は、ガソリンのない社会、石油のない社会になると思われます。もちろん、石油がゼロにはならないでしょうが、消費量が劇的に減って、コストは確実にあがるはずです。そうなると、石油の代替に、電気を使うか、バイオ燃料を使うかの選択になる可能性があります。停電リスクを考え場合には、後者しか選択肢がありません。EVが普及した場合、社会経済的システムが、変わってしまうので、それに対する対応が必要です。

 

 

https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2021/fis/kiuchi/0714

  • 第7回 発電コスト検証ワーキンググループ 2021/07/12

https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/2021/007.html

  • 石油の用途

https://oil-info.ieej.or.jp/whats_sekiyu/1-10.html

https://www.jpca.or.jp/studies/junior/enyinfo03.html

  • Energy Technology Perspective(IEA, 2017)

https://www.iea.org/reports/energy-technology-perspectives-2017

https://iea.blob.core.windows.net/assets/a6587f9f-e56c-4b1d-96e4-5a4da78f12fa/Energy_Technology_Perspectives_2017-PDF.pdf

  • NEDO「技術戦略研究センターレポート TSC Foresight」Vol.37、2020年7月

https://www.nedo.go.jp/content/100920836.pdf

  • 運輸部門の脱炭素化 2020/12 共済総研レポート No172 石丸 美奈

https://www.jkri.or.jp/PDF/2020/Rep172ishimaru.pdf

 

 

前の記事

2030年には、世界のガソリン車の新車販売が、ゼロになる理由 2021/10/07

次の記事

人口減少と産業構造(14) 2021/10/09

関連記事

アイリスオーヤマがEVを作る日 2021/10/04