「人口減少と産業構造」は、小説の下調べなのですが、課題が、発散してきて、続きを書くのに苦労しています。
技術の社会実装に必要な条件は、2018年のBurning Glass Technologiesのデジタル・スキル教育のレポートを参考にすれば、次のステップでまとめられます。
1)技術を使った問題解決ニーズのビジョンが描けること
2)技術をモノ(ソフトウェア、法律等も含む)に実装すること
3)技術実装に合わせた組織マネジメントを実現すること
新設工場で、考えれば、
1)は、工場で作る製品にコンセプトになります。
2)は、工場の設計図、パーツの購入になります。
3)は、工場の建設と労働者の組織化になります。
境界はあいまいですが、分解することで、問題点は見つけやすくなります。
この3ステップの整理の仕方は強力ですが、全てを、このパターンに当てはめると分析が進まなくなります。
さて、いずれにしても、スタートは、2)ではなく、1)でなければ、始まりません。
2020/0/6/11に、テスラは世界で最も時価総額の大きい自動車メーカーとなります。この比較には、自己株式保有は含まれていません。
2020年の販売台数は50万台で、992万台のトヨタの約20分の1にすぎませんが、EVの販売台数では2位の上海汽車集団、3位のフォルクスワーゲンに倍以上の差をつけて世界一です。
テスラの時価総額については、非常に多くの記事が書かれています。
ここで、問題にしたいのは、時価総額の大小ではなく、1)の「技術を使った問題解決ニーズのビジョン」の問題です。トヨタは、水素自動車のビジョンを出していますが、水素ステーションの数が増えないこと、車体価格が下がらないこともあり、マーケットの評価は低く、そのことが、株価に反映しています。つまり、水素自動車のビジョンは、弱い、簡単に言えば、必然性が低いのです。
水素エンジンの研究は、1970年頃から行われています。試験車両は、BMW、フォード、マツダ、トヨタが作成しています。しかし、現在、水素エンジンを本腰で、考えているメーカーはないと思います。ほとんどがEVと思われます。これは、ドローンの普及を見れば、明らかで、小型、軽量であれば、エンジンを積むことを止めて、モーターにした方が有利です。
2021/08/30のJB Pressで、黒木 亮氏は、この状況を次の様にまとめています。
欧州委員会は2035年までにEU域内の新車供給をゼロエミッション車とする(ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車は販売できない)という厳しい政策文書を発表し、米国、英国、中国、インドなども2030~35年に類似の規制をする。トヨタ同様、下請け企業に配慮していたドイツのフォルクスワーゲンやホンダ(本田技研工業)も背に腹は代えられず、EVへと大きく舵を切った(ホンダの三部敏宏社長は、去る7月、2040年にエンジン車の販売を全面的に停止すると表明した)。
これを見ると、自動車大手は、ビジョンを持って、EVに参入するのではなく、追い込まれて、EVに、対応しているように見えます。
2021/01/06に、テスラは時価総額7000億ドル突破して、 トヨタ・GMなど大手6社の合計価値を上回っています。
この自動車大手とは、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター(Ford Motor)、トヨタ自動車(Toyota Motor)、ホンダ(Honda)、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)、フォルクスワーゲン(VW)のことです。日産・ルノーは、含まれていません。
2021/09/21の日経新聞は、「先端素材、日本が攻勢、住友鉱山、EV半導体用参入、技術競争力なお優位」として、素材関係の企業は、まだ、競争力があるとしています。
日本企業の競争力の源泉は、ケイレツにみられるような垂直分業と企業間のすり合わせです。
このすり合わせに必要なノウハウは、文書化しにくいものでした。しかし、現在は、ロボットが製造するので、製造技術はソフトウェアになり、水平分業が基準です。素材関係は、製造のノウハウが、ソフトウェア化しにくいので、競争力が残っているのです。
しかし、素材関係でも、ソフトウェア化は進んでいます。つまり、今までは、競争力があったのですが、これからも、競争力を維持するためには、ビジョンと対策が必要です。ソフトウェアも進歩しますから、今あるすり合わせの競争力がすぐに失われることはありませんが、その力を中長期的に維持するには、対策は不可欠です。
同じ日の日経新聞に、「対中韓環境船で巻き返し、CO2ゼロのアンモニア燃料船、今治造船、26年めど造船」という記事もありました。
これも、チャレンジすることは、良いことですが、アンモニア燃料が圧倒的に良いというビジョンが見えませんでした。
ホンダ(本田技研工業)は、2040年にエンジン車の販売を全面的に停止すると表明しています。
エンジン関係の技術者もレイオフしたようです。
しかし、2040年は、ずいぶん先です。これで、間に合うでしょうか。
マイクロソフトのwindows95の開発のときには、2つのチームを立ち上げ、成績が良かったチームの成果をつかって、ソフトを開発しています。その後も、2,3チームを同時並行に、走らせて、成績のよいチームを選抜する方式をマイクロソフトは採用しています。
ホンダも、EV専用の第2ホンダを立ち上げて、ガソリン車と競争させるのでしょうか。
こうしてみると、1)のビジョンがスタートで、そこが弱いと先に進みません。
ODAでは、開発案件に、FS(フィージビリティ・スタディ)を、最初に行います。この時に、FSがひも付きになることを嫌って、FSを行った企業は、実施設計には、入札できない仕組みです。しかし、このような条件を設定すれば、FSには、手の内を出さないでしょう。つまり、ぎりぎりで、パーフォーマンスの良い提案は出さないはずです。こうなると、ビジョンが弱くなります。
マイクロソフト流に進めるのであれば、FSは、2,3社に、重複して、発注し、成績のよいところを採用する、FSと実施設計は、同じ企業に発注する方が、合理的です。
このように、明確ビジョンを出すには、期限を切って、それなりの、無駄と思われる費用がかかることを覚悟する必要があります。
社会実装する機会は限られています。先行して基準スタンダードになれば、タイプライターのキー配列のように、後で、より合理的な手法を提案しても、定着しません。EV以外の選択が可能な時間的な余裕は、なくなりつつあります。
明確なビジョンをだせることが、時価総額につながっているわけで、その点では、時価総額は、合理的な指標と思われます。
https://www.afpbb.com/articles/-/3325053
https://news.yahoo.co.jp/articles/4ca933a23ae45b963c0b5fb060d2a52b66c1c867
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