AMSLは、2022年の世界の企業の時価評価額ランキングで32位、29位のトヨタと並ぶ大企業です。
AMSLは、ニコンやキヤノンと同じ半導体製造装置を作っています。2023年現在、最先端の次世代の半導体を量産できるか否かは、AMSLの技術開発次第と言われる状況にあります。最先端の半導体製造装置は、AMSLの独占市場になっています。
ニコンとキヤノンは、AMSLと競争できる技術力を持っていません。
2023年5月の世界の企業の時価評価額ランキングの1位は、アップルです。アップルの稼ぎ頭は、iPhoneです。
日本の家電メーカーは競争力がなく、スマホ市場から撤退しています。
野口由紀雄氏は、アップルとAMSLの成功の鍵は、水平分業にあるといいます。
ニコンとキヤノンが垂直統合にこだわったことが、失敗の原因であると分析しています。
野口由紀雄氏の研究方法は、帰納法です。過去のデータを集めて、分析すれば、法則が見つかるというアプローチです。
丸川知雄氏によると、2022年のEVの生産台数は、第1位がBYDで、第2位がテスラです。2021年の第1位はテスラで、第2位はBYでしたので、1年で逆転しています。
BYDは、垂直統合モデルを採用している企業です。
つまり、水平分業モデルを採用していれば、BYDの成功はなかったことになります。
この推論は、どこで間違えたのでしょうか。
チャールズ・サンダース・パースは、この問題に対すす答えを提案しています。
それは、「仮説を作る唯一の推論は、アブダクション( abduction, retroduction)である」というものです。
パースは、一般に信じられている「過去のデータを集めて、分析すれば、法則が見つかるというアプローチ」(帰納法の使い方)は間違いであると断じます。
仮説を導出する思考法は、アブダクションだけです。帰納法は、仮説を作りません。
AMSLは、1984年に創業します。
1995年の半導体露光装置のシェアは、ニコンとキャノンが合わせて、75%、AMSLは14%でした。
AMSLは、垂直統合できる技術を持ちませんので、1984年以来、水平分業のビジネスモデルの企業でした。
1995年のデータでは、水平分業のAMSLが、垂直統合のニコンとキャノンに優っているとは言えません。
1995年のデータを使って帰納法を用いれば、垂直統合が、水平分業より優れているという結論が得られます、
2022年のデータを使って帰納法を用いれば、水平分業が、垂直統合より優れているという結論が得られます、
これは、帰納法が仮説を立てる推論でないことを示しています。
読者が、タイムマシンにのって、1995年に戻り、AMSLの経営者だったと仮定します。読者は、経営を改善するために、どのような仮説(因果モデル)を立てるしょうか。
恐らく、仮説の結果は、AMSLの売り上げが伸びることであり、その結果を実現するための原因(投資すべき分野)を探索するはずです。これは、結果から原因を推測する推論のアブダクションです。
一方、1995年に、ニコンとキヤノンの経営者は、経営を改善するために、どのような仮説を立てたのでしょうか。
ニコンとキヤノンの経営者が、分岐的で道を間違えたとしたら、それは、どこにあったのでしょうか。
筆者は、このような思考を歴史の再構築と呼んでいます。
世の中は、帰納法の間違った利用など、科学的に問題のある推論が蔓延しています。
帰納法が仮説を作りません。帰納法は前例主義や、トレンド分析と基本的に変わりません。
これは、デジタル社会へのレジームシフトが起こっている現在では、致命的にまちがった推論になります。
アブダクションは、未来を調べる方法の一つです。
ここ20年の間に、データサイエンス(第4の科学)の進歩によって、科学的に未来を調べる方法が、整備されてきています。
ここでは、科学的に未来を調べる方法を紹介したいと思います。
野口由紀雄「どうすれば日本人の賃金は上がるのか」(2022)
突然躍進したBYD 2023/05/18 Newsweek 丸川知雄
https://www.newsweekjapan.jp/marukawa/2023/05/byd.php