天安門・香港・北京オリンピックとオプションB

東京オリンピックの後の外交問題を考えます。)

1989年の天安門事件に対して、欧米諸国は、人権外交を展開しましたが、日本だけが、経済を優先して、人権問題を取り上げない対応をしました。この日本の対応が、その後の中国の経済発展の分岐点であったことが、指摘されています。

今回は、香港問題に端を発して、英国は、中国との人権問題、特に、香港問題は見逃せない方向に、外交政策の舵を切っています。EUと米国も、内部で対立はありますが、反中国になりつつあります。ただし、中国経済は世界経済に組み込まれていますので、すぐに、分離は難しく、白黒ははっきりしない状況です。

米国と英国の一部では、IOCに圧力をかけて、IOCは人権侵害を助長すべきではないので、北京オリンピックを中止させる運動を始めています。それが、成功しない場合でも、参加をボイコットすべきであると主張しています。

東京オリンピックが、閉会した時点で、日本は、香港問題と北京オリンピックに対す外交姿勢を明確にすることが求められるでしょう。

さて、その対応がどうなるかはわかりませんが、香港問題への今までの対応を見ていれば、経済優先で、政治姿勢は、グレーで進みたいという意図が見えます。

今回、問題にしたいのは、この点です。本当に、「グレーで進みたいという意図」があるのでしょうか。そうではなく、「意思表示ができない」だけではないのでしょうか。

1989年の天安門事件への対応が、上記のように、中国の経済発展に、大きな影響を及ぼしたことは事実です。

しかし、日本の天安門事件への対応は、その後の日本社会を縛ってしまったようにも見えます。

これは、第1には、「政治より、経済を優先する」立場です。皮肉なことに、この姿勢が、バブル経済の崩壊を招いたと同時に、その後の失われた30年の原因になっているように思われます。たとえば、バブルでは、本業をおろそかにして、投資に熱を上げる会社が出てきます。そして、その後の破綻した銀行の救済のために、税金を底なしに投入します。つまり、バブルでモラルが崩れただけでなく、その後の処理においても、モラル崩壊が続き、その結果、経済の停滞から抜け出せなくなります。この源流をたどれば、1989年頃にあると思われます。つまり、天安門事件への対応は、日本経済の崩壊の始まりにも見えます。

第2は、オプションBの不在問題です。これは、ここ1年のコロナ対策や、オリンピックの準備で明らかになったことですが、プランAがあった場合、プランAが、失敗した場合の代替案Bが全く、準備されていません。

プランBが準備されていない場合には、問題があろうが、不具合があろうが、ひたすら前に進み、事故が起きて、初めて、プランAを破棄して、代替案に着手することになります。これはIT企業ではありえない方法です。例えば、Windowsの新しいバージョンの開発では、複数のチームが同時に開発を進め、コンペに生き残ったチームのプログラムを商品化します。時間的な余裕がなく、エラーなどのトラブルが必須の場合には、この方法をとらないと企業は生き残れません。筆者には、コロナ対策も、オリンピックの準備も、「時間的な余裕がなく、エラーなどのトラブルが必須」の条件を満たしているように見えます。

企業を例にとれば、シャープの亀山工場にしても、プランBを考えていなかったように見えます。

プランBを準備するためには、プランAの弱点を分析する必要があります。プランAが失敗したら、プランBも使えなくなるようでは、代替案にはなりません。ですから、天安門事件への対応は、代替案を考えない(考えられない)体質を決定的にしたように思われます。

まとめますと、代替案を考えるには、冷静になって、現行案Aの弱点を分析しないとできません。「天安門対応体質」が抜けきれない場合には、オリンピックが終わってから、動き出し、「グレーで進みたいという意図」が見えるかもしれませんが、今回も、「天安門対応体質」を繰り返すと、日本経済に致命傷になる可能性があります。人権侵害にYESでもNOでも構いませんが、エビデンスと立場を明確に主張することが原則です。

その点では、オリンピックの開会式は、メッセージがありませんでしたので、「グレーで進みたいという意図」が見え、大変、危惧すべき状況にあるように思われます。

 

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