1)霞が関の「無謬主義」
日本経済新聞は、霞が関の「無謬主義」を次のように定義しています。
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「ある政策を成功させる責任を負った当事者の組織は、その政策が失敗したときのことを考えたり議論したりしてはいけない」という信念。
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これは、クリティカルシンキングをしないということであり、オプション(代替案)を準備しないということです。
ですから、「霞が関の『無謬主義』」といった特殊な用語の定義をする必要はありません。
シェリル・サンドバーグ氏のベストセラーのタイトルは、「Option B」です。
これは、普通の日本語にすれば、「代替案」なのですが、「代替案」では、本が売れないと考えて、英語のタイトルのままで、日本語版を出版したと思われます。
「Option B」が、「代替案」という表現より優れている点があります。
それは、第1案は、Option Aであり、それに、第2案のOption B、第3案のOpton Cと順次代替案が並ぶこと、第1、第2、第3案の間には、大きな違いはないということです。
サンドバーグ氏は、GoogleとFaceBookのIT業界で働いていました。IT業界では、常に、Optionを揃えます。例えば、MicrosoftがWindowsを開発するときには、少なくともOpton Cまでは準備します。つまり、開発チームを3つ準備して、3チームで開発を行います。
組わせとしては、Opton Aが失敗してから、Opton Bを立ち上げ、Opton Bが失敗してから、Opton Cを経ちあげることも可能です。Option Aが成功すれば、Option BとOptin Cのコストは節約できます。しかし、その方法では、Option Aが失敗した時に、競合企業が、新製品開発に成功していれば、マーケットを失ってしまいます。ですから、リスクとコストのバランスを考えて、コストは3倍かかりますが、リスクが3分の1になる3つのオプションを同時並行で進める経営戦略をとります。
サンドバーグ氏の「Option B」は、彼女がOptionだらけの業界で仕事していることを前提に読むべき本です。
「霞が関の『無謬主義』」は、あたかも、現在の方法にエラーがあった場合に問題になるといく特殊例に問題を限定しいます。
将来何が起こるかは、科学的には、確定的にわかりませんので、科学、特に、データサイエンスのリテラシーがあれば、コストとリスクのバランスをとって、Optionを設定します。
つまり、「霞が関の『無謬主義』」が問題なのではなく、科学的なリテラシーの欠如が問題です。これは、結果に問題がなければ、OKという判断ではありません。結果に問題がなくとも、適切なリスク管理をして居なければ、問題があったという判断になります。
自動車でチキンゲームをしても、ピストルのロシアンルーレットでも、事故が起こらなかったから問題がなかったとはいえないのと同じ考え方です。
筆者は、科学的なリテラシーが欠如は、霞が関の官僚だけでなく、企業の経営者にも共通している問題であると考えています。
アメリカでは、トップクラスのビジネススクールの卒業生は、高給で雇われ、短期間で、企業幹部になります。
日本のマスコミは、トップクラスのビジネススクールのブランドを問題にしますが、ジョブ型雇用では、ブランドではなく、実力が評価されていると考えるべきです。
つまり、科学的に合理的な経営計画をたてる能力を見て、幹部人事が行われているはずです。
そのときの、検討の中心は、複数のプランをどのように、選抜して、ブラッシュアップして、Optionを作成するかということになります。
これは、経営計画のコンペのようなものです。
サンドバーグ氏は、そのような世界で、競争して生き残って実績をあげています。
2)形而上学
政府は、外国人労働者の在留資格「特定技能2号」を巡り、政府が対象分野の拡大を検討していることについて、「いわゆる移民政策をとる考えはない」と述べています。
これは、典型的な形而上学です。
「『ある政策を成功させる責任を負った当事者の組織は、その政策が失敗したときのことを考えたり議論したりしてはいけない』という信念」です。
必要なことは、オプションを考えて対策を準備しておくことです。
「いわゆる移民政策をとる考えはない」と述べてもリアルワールドは全く変化しませんので、これは、形而上学で問題解決をする方法です。
アメリカのビジネススクールの基準で考えれば、オプションを考えられないことは無能であると判断されます。なぜなら、オプションを考えないと、問題解決が手遅れになって、解決不能になるからです。
「いわゆる移民政策をとる考えはない」というオプションを考えない形而上学は、少子化対策を放置することに繋がりました。
アベノミクスでは、金融緩和は、オプションA、公共事業がオプションB、構造改革が、オプションCです。
政府のHPでは、ホップ、ステップ、ジャンプで、順番に進めると書かれていましたが、順番に進めるべき理由はありません。
オプションAとオプションBは、ほぼ同時に進められました。オプションCは10年間放置されました。
オプションCも、同時にスタート可能でしたので、ジャンプといった時点で、本気度が疑われます。
アメリカのビジネススクールの基準で考えれば、2年程度で、オプションCが成功しなければ、オプションC2を実行します。
あるいは、最初から、オプションC、オプションC2、オプションC3を同時並行で進めます。
経団連は、構造改革が必要だといいます。しかし、経団連は、オプションCを10年間放置しています。
経団連は、西方浄土のように、ある日、構造改革の阿弥陀様が現れて問題解決をしてくれるの待っているように見えます。
3)生成AI
ChatGPTが成功をおさめつつあります。
GAFAMから、優秀なプログラマが、OpenAIに転職している模様です。
これは、仕事のやりがいとストックオプションの可能性にかけているためと思われます。
日本では、生成AIを開発できる企業はないと思われます。
リコーは生成AIに日本語音声をつけるプロジェクトを始めました。しかし。日本語の音声のノウハウは、リコーは吸収したペンタックスの技術です。筆者は、恐らく、生成AIにアドインする音声モジュールの開発を考えていると理解しています。
GAFAMの生成AIの開発コストは、1兆円近くかかっています。それだけの投資は、できませんので、日本では、生成AIを開発できる企業はないと思われます。
政府は、高度人材を日本に呼び込みたいといいますが、そのためのオプションはありませんので、実現は不可能です。
加谷 珪一氏は、2023年3月1日の現代ビジネスに、「日本経済が低迷しているのは『経営者がぬるま湯につかっているから』」というタイトルの記事を書いています。
アメリカのビジネススクールの基準で考えれば、卒業できる経営者は、日本にはほとんどいないと思われます。
引用文献
日本経済が低迷しているのは「経営者がぬるま湯につかっているから」という“身も蓋もない現実” 2023/03/01 現代ビジネス 加谷 珪一
https://gendai.media/articles/-/106829