集団思考の事例研究(1)

集団思考に気が付いたので、集団思考に該当しそうな事例リストをあげてみたいと思います。

ただし、ここでいう集団思考は、最初の提案者のジャニスのモデルを拡張したものになるとおもわれるので、最初にジャニスのモデルをまとめておきます。また、技術者倫理問題であげた、チャレンジャー号の問題も、集団思考問題としてあつかえるようです。なお、松井 亮太氏もしていますが、教育分野ではグループディスカッションを集団思考ということもあるようで、日本語の「集団思考」には、別の意味もあるようです。

なお、ジャニスのモデルは、10人程度の少人数で、数か月の期間を対象にしています。組織の規模、期間を拡大する解釈が増えています。松井 亮太氏は拡大した場合を「複合的集団思考」(complex-groupthink)と呼ぶように提案していますが、海外の文献を見る限り、拡大することが、自然な拡張になっています。これは、ジャニスが、モデルの拡大の可能性に、気づいていなかったということではなく、論文をまとめるために、対象を絞ったと考える方が自然です。

ジャニスのモデル

松井 亮太氏によれば、ジャニスのモデルは、以下のステップになっています。ここでは、元の図の箇条書きに再構成しています。()は筆者の補足です。


  1. 先行要因(ここが原因)

    1. 凝縮性の高さ

    2. 組織の構造的欠陥

      1. 集団の孤立

      2. 不公正なリーダーシップ

      3. 方法手続きの規範の欠如

      4. メンバーの等質性

    3. 誘発的状況

      1. 外部からの強いストレス

      2. 自尊心の一時的低下

  2. カニズム(問題の発生過程)

    1. 同調行動

  3. 集団思考の症状(症状の進行)

    1. 集団の過大評価

      1. 無敵の幻想

      2. 固有の倫理観の信念

    2. 狭い了見

      1. 集団的正当化

      2. 敵対者へのステレオタイプ

    3. 一致への圧力

      1. 自己検閲

      2. 満場一致の幻想

      3. 反対者への直接的圧力

      4. 自己指名のマインドカード

  4. 欠陥的意思決定(集団的思考のアウトカムズ)

    1. 選択肢の不十分な調査

    2. 目的の不十分な検討

    3. リスク評価の失敗

    4. 拒否権選択肢の再検討失敗

    5. 貧弱な情報収集

    6. 情報処理の選択バイアス

    7. 緊急時対応策の策定失敗

  5. 大失敗


 

同様に、松井 亮太氏によれば、集団的思考の防止策は、以下です。

 


  1. 批判的評価者の設定:リーダーは,それぞれのメンバーに批判的評価者の役割を与え,メンバーが反対意見や疑問を発言するプライオリティを高めるべきである。

  2. 公正なリーダーシップ:リーダーは最初から好ましい選択肢を示さず,公正なリーダーシップに努めるべきである。

  3. 計画策定グループと計画評価グループの独立:それぞれのグループを独立させ,グループごとに別のリーダーの下で活動するべきである。

  4. 複数のサブグループの設置:検討グループは,時々,2つ以上のサブグループに分かれ,異なる議長の下で別々に検討を進めるべきである。

  5. 所属組織からのフィードバック:意思決定会議に関わっているコアメンバーは,その状況を自分の所属組織の信頼できる仲間に定期的に相談し,フィードバックを得るべきである。

  6. 外部意見の取り込み:コアメンバー以外の外部専門家や適任者を会議に 1人以上参加させ,コアメンバーの考えに対して異論を言うよう促すべきである。

  7. 悪魔の代弁者(devilʼs advocate):すべての会議において,少なくとも 1人は悪魔の代弁者の役割を与えるべきである。

  8. 敵対者の分析:敵対国家や敵対組織に関わる意思決定の場合,「その敵対者から発せられたすべての警告の分析」および「敵対者の取り得るシナリオの検討」のためにまとまった時間を取るべきである。

  9. 第2ラウンド会議:いったん最善と思われる選択で合意したら,意思決定集団は第 2ラウンド会議を開催し,それぞれのメンバーは残された懸念事項をできるだけ鮮明に発言し,最終的な意思決定を下す前に全体を再考するべきである。


加谷珪一氏は、東京証券取引所が公開要請をしている「スキルマトリックス」を次のように、説明しています。


スキルマトリックスは、経営陣が持つ経験やスキルなどを一覧表にして取りまとめたもの。明確な書式が決まっているわけではないが、縦軸に取締役名、横軸に経験やスキルについて記したものが多い。

具体的にはグローバル経営、技術開発、財務、IT、リスク管理M&A(合併・買収)、法務といった項目が並ぶ。この一覧表があれば、取締役の誰がどのような能力を持っているのか、各役員の経歴を詳細に調べなくても理解できる。また、スキル項目にどのようなものを盛り込んでいるのか、どのようなスキルを持つ人を登用しているのかなど、各社の比較が容易になるので、当該企業が何を重視しているのかが可視化される。

(中略)

現時点でスキルマトリックスを開示している上場企業はまだ少数派だが、東京証券取引所は6月にも上場企業に開示要請を行う方針で、年内にも開示が進むと予想される。


「集団的思考」と「スキルマトリックス」を並べてみると、明らかに、「集団的思考」防止策(社会心理学)は、「スキルマトリックス」の一部を構成すべき要素です。

コロナ対策も、オリンピックの開催も、どうみても、「集団的思考の防止策」を満足しているとは思えません。つまり、年内に開示が進む東京証券取引所の「スキルマトリックス」いえば、ほぼ、ダメ出しのレベルで議論が進んでいます。

今回は、集団的思考の観点で、広く問題を整理したいので、次回以降、コロナとオリンピック以外の例題を考えてみたいと思います。

 

 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjb/62/5/62_272/_pdf

https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2021/06/post-145.php

 

次の関連記事

集団思考の事例研究(2) 2021/06/29

前の記事

コロナ対策と集団思考の罠 2021/06/21

 次の記事

ワクチン接種から学ぶ、オリンピックが、大混乱になる可能性 2021/06/23