年功序列システムのトロッコ問題

元祖の「トロッコ問題」は、「ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?」という形で功利主義と義務論の対立を扱った倫理学上の問題です。この問題の前提には、次があります。

  1. ロッコは止まらずに、前進していきます。(トロッコを止める手段はありません。)

  2. ロッコの行き先には、分岐点があり、AまたはBの分岐を選ばなければなりません。

暗黙の了解としては、AもBも、倫理学的に問題のある選択になります。

年功序列システムには、1.が、当てはまります。この人事システムは、給与の後払いを含んでいるため、中断することが困難です。

さらに、年功序列システムには、トロッコを止めない、あるいはトロッコから飛びおりないと、2.のような壊滅的な未来が待っている可能性があります。それは、年功序列システムのトロッコに乗り続けると技術革新に取り残されるからです。しかし、どのような未来かは、不明です。より正確にいえば、年功序列システムのトロッコに乗っている人には、未来を主体的に、選ぶ自由は残されていません。なぜなら、年功序列システムは、技術開発に、順応できないからです。したがって、筆者は、年功序列システムには元祖に似た「トロッコ問題」が存在していると考えます。

この例題を取り上げた理由は、失われた30年の最大の課題は、この「年功序列システムのトロッコ問題」ではないかと考えるからです。トロッコに乗っている人は、「トロッコの移動座標系」でものが見えます。「地上の静止座標系」では、ものを見ていません。例えば、新聞の記事の主人公が、「トロッコの移動座標系」でものを見ているか、「地上の静止座標系」でものを見ているかをマークしてみれば、わかりますが、過半数の記事の主人公は、「トロッコの移動座標系」に生きています。(注1)トロッコが、慣性運動をしている場合に、「地上の静止座標系」から、トロッコを観察している人には、「トロッコが、前進している」ことが見えます。一方、「トロッコの移動座標系」に生きている人には、「トロッコが、前進している」とは、感じられません。したがって、年功序列システムのトロッコ問題の存在に気づくことはありません。筆者は、失われた30年問題を論ずる上で、「年功序列システムのトロッコ問題」が最大の課題であると考えますが、賛同者はほとんどいません。失われた30年問題を検討している人は非常に多いにも関わらず、です。その理由は、失われた30年問題を検討している人の多くが、「トロッコの移動座標系」に生きているからではないかと推測しています。つまり、「トロッコの移動座標系」に生きている人には、問題が見えず、解決策が提案できていないのが現状であると思われます。

年功序列システムのトロッコ問題」は、世界的にみれば、日本にしか存在しない課題と思われます。これは、世界的にみれば、日本にしか存在しない失われた30年問題に対応しています。年功序列システムのトロッコに乗り続けられないのであれば、トロッコを止めるか、飛び降りる方法を検討する必要があります。

注1:

識別は、主人公の属している組織が、年功序列システムを採用しているか、否かで簡単にできます。組織の人事システムのタイプは、経営者のトップの年齢を見れば、わかります。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%B3%E5%95%8F%E9%A1%8C