年功序列は給与の遅配システム

年功序列賃金制度を考える上でのポイントは2つあります。

第1は、年齢構成別の社員数です。

第2は、売り上げの変化、または、マーケットの変化です。

第1の点については、ピラミッド型の年齢別社員構成が崩れると維持が難しくなることが分かっています。また、この点を論じた本も多数でています。

ここでは、2番目の変化を考えます。年齢別社員構成でよく言われるのは、売り上げが伸びているときはいいが、頭打ちになると年功序列の組織構成が困難になるというものです。しかし、売り上げの変化(市場の縮小)によっては組織構成が変わらなくとも、問題がおこると思われます。

簡単な例を示します。

図1は企業の利益を、売り上げと人件費だけに単純化したものです。その他はオレンジ色の部分で変化しないとします。オレンジの部分にはその他の経費とそれに見合う売り上げが含まれているとします。

縦軸は、売り上げまたは人件費です。賃金は年功序列なので、期間A1は、B1、期間A2,A3,A4はB1+B2を支払うとします。市場が縮小するので、売り上げはA1、A2、A3、A4と次第に小さくなっていくと仮定します。

このモデルでは、期間A1には、本来支払われる賃金より、赤い点線の分だけ支払いが抑制され、出世払いになっています。A2、A3、A4の赤い部分が後払いの部分です。

図2はフラットな賃金体系です。図2のB2は図1のB2より小さくなります。

売り上げが減少したA4では、図2では、利益はゼロですが、赤字ではありません。

一方、図1では、期間A4では赤字になってしまいます。

本来、期間A1の利益は同じになるはずですが、賃金の後払いが生じるため、見かけ上は図1の利益が多く見えます。逆に言えば、年功序列賃金では、後払い賃金という目に見えない負債を抱えていることになります。図1では、期間A4になると、売り上げにかかわらず支払わなければならない後払い賃金が負担になって、経営上の自由度が極端に減ってしまいます。図2もよいとは言えませんが、この方が自由度は高いでしょう。

また、レイオフした企業が裁判に勝てないことは、未払い賃金があると考えれば、当然と思われます。よほどの退職金の上乗せをしないとレイオフはできません。これらの費用は、企業が潜在的に持っていたコストであるにも関わらず、レイオフに伴う特別な会計処理がなされるまでは表面化しません。

これは株式市場の透明性から言えば望ましいものではありません。

 

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図1 年功序列賃金  

 

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 図2 フラット賃金