フォメドポアゾン

肉のスープを作るときには、骨付き肉を長時間煮てだしをとりますが、プロ以外は、これでは手間がかかりすぎるので、スープストックの素が売られています。鳥、牛(フォンドボー)、豚が代表的なものです。肉以外のだしでは、乾燥したかつおぶし、シイタケ、昆布が市販されています。これらのだしの素も売られています。料理では、これ以外に貝のだし、魚のだしを使いますが、このスープの素は、スーパーでは売っていません。貝のだしについては、「シイタケ+貝」というフリーズドライのだしの素を見たことがありますが、それ以外はみたことがありません。とはいえ、アサリなどの貝を買ってくれば、すぐに作れます。また、中華料理の素材では、干しエビと干し貝柱が手に入ります(注1)。

日本料理では、魚だしは、鰹節にほぼ独占されていて、それ以外の魚だしは、スーパーでは売っていません。つまり、普通の家庭では、鰹節だけを使っています。鰹節を、外国人の一部は、生臭いという評価をします。また、何にでも、鰹節を使うと、素材の微妙な味が分からなくなるので、筆者が趣味で料理する時には、鰹節はほとんどつかいません。

フランス料理では、魚のだし(フォメドポアゾン)は牛のだし(フォンドボー)と並んで、広く使われています。写真1の左のビンは、パリの百貨店ラファイエットで購入したフォメドポアゾンです。日本で入手しやすいフォメドポアゾンは写真1の右の朝岡のものと、ハインツの缶詰しかありません。ハインツの缶詰はレストランでも使えるレベルですが、高価なことと、缶詰はあけると保存しにくい難点があります。缶を開けたらすぐに、だしを小さなアイスキューブに分けて、冷凍保存すれば、分割して利用ができますが、手間がかかる上に、冷凍庫の一部を占有されてしまいます。なので、普段は朝岡のものを使っています。朝岡の製品は、なぜか、「フォメドポアゾン」ではなく、「フォメドポアゾン風」になっています。

それにしても、日本料理が、鰹節以外の魚だしを締め出している理由はよくわかりません。江戸時代から続く山善のレシピにも、魚だしは鰹節しかありません。高度成長経済の時期の前までは、鰹節は高価で、一般家庭での消費は少なかったという指摘もあります。確かに、庶民の食べ物のお好み焼きでは、安価なイワシやサバを使っていました。鰹節は、屋台ご飯(street food)などの庶民の料理で使うものではなかったのでしょう。

注1:話が複雑になりすぎるので、今回は野菜だしの話はしません。

 

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写真1 フォメドポアゾン