露光とダイナミックレンジの問題(1)~RGBワークフローへの道(2)(darktable3.0第98回)

「地域振興」シリーズが入って中断していましたが、一段落したので、「RGBワークフローへの道」シリーズを再開します。

シリーズの第2回目は露光の復習です。

ニコンのHPでは、露出補正について、次のように書かれています。


露光補正

デジタル一眼レフカメラの場合、その場で撮影した画像を確認できますので、撮影した画像を見て、明るくしたければ+側に、暗くしたければ-側に露出補正して、撮影しなおすことができます。

https://www.nikon-image.com/enjoy/phototech/manual/04/07.html


しかし、これでは、記述が不正確すぎです。

第1に、デジタルカメラの露光は、センサーで電気信号を生ずるための光量の調整です。

光量の調整という言い方は不正確で、あるピクセルに同じ大きさの電気信号を生ずる場合には、2つの露光は等しいと定義します。電気信号の強さにかかわるパラメータは、絞り、シャッタ速度とISO(センサーの感度)になります。

いま、説明を簡単にするために、ISOは一定であると仮定します。フィルム時代のカメラなら、ロールを変えるまでは、ISOを変えられませんでしたので、この仮定は自然です。

 

平均グレーの問題

カメラの露光は、平均的なグレーを基準にしているといわれます。

カメラの入ってくる光量は距離による減衰を一定になるように変換すれば次の式で表せます。

光量∝光源から物体に入る光の強さ×物体の反射率

物体の色は反射率に関係します。黒を黒く、白を白くしているのは、反射率です。

なので、本当は反射率がわかれば良いのですが、カメラに付属の露出計は、カメラの入った光だけを見ているので、「光源から物体に入る光の強さ」がわからないのです。そこで、カメラの入った光量だけから、モノクロの色を推定します。光が一番強いところが白、一番弱いところが黒になります。問題は、その間にあります。というのは、写真を撮る場合に、写したい対象は、白や黒のところではなく、その中間のグレーのところにあるからです。ですから、グレーをどこに配置するかが、重大な課題になります。

平均グレーは、入ってくる光の平均値とグレーの平均値に合わせるという方法です。

そして、露出を合わせる問題は、「光源から物体に入る光の強さ」がわからないのこといよっておこる平均グレーのずれを補正する方法であると述べられていることが多いです。

しかし、この説明は間違っているか、説明者が習ったことをコピペしているだけで内容を理解していないと思います。

まず、平均値というものは、統計学では、分布が正規分布の場合には、適切な分布の代表値になるとされています。

統計言語のRを使って説明します。

正規乱数を発生させて、ヒストグラムを作ります。

横軸は、受光体またはフィルムに入った光量を表します。軸は2の対数です。カメラでは、光の量は2の対数で表され、1ケタ上がるごとに1EV増えます。光量の少ない左が黒、光量の多い右が白になります。横軸の目盛りはEV単位になります。

正規分布であれば、分布のピークは平均値に一致します。これが、平均値が代表値として優れているといわれる所以です。ここでは、正規乱数を発生させて、ヒストグラムを作りました。正規分布する光が受光体に入ったとする仮定を表しています。

受光体やフィルムにはダイナミックレンジがあり、このレンジを超えるデータは、受け付けません。ここでは、ダイナミックレンジを8EVとして。赤い四角を書いています。この部分が、カメラの受光体に記録される光の量で、これより多い場合には白飛びを起こし、値がオーバーフローします。これより値は小さい場合には、同様にアンダーフローを起こし、黒飛びをおこします。中央の縦線が平均グレーを表します。

この2つを比べて、平均グレーが、分布のピークに一致すれば、代表値として適切であったことになります。

つまり、図の例であれば、平均グレーを使うことに合理性があります。

x=rnorm(1000,5,1)
hist(x,breaks=seq(0,9,0.1))

 

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正規分布

 

しかしながら、このようなヒストグラムを実際に見たことのある人は少数派と思われます。ですので、本当に正規分布近似が成立するものか確かめてみることにします。

光の量が正規分布をするといことは、光源からの距離が遠いとことと近いことろがあって、その中間の明るさが一番多いような画像になります。複数光源の場合には、こうした単純化ができませんので、一つの光源で撮影された画像をみてみます。

サンプル1は、ライト1つで照らされた、修道院の内部です。

 

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サンプル1

 

サンプル1のヒストグラムです。とてもベルカーブとはいえません。特に、暗い部分が卓越しています。

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サンプル1 ヒストグラム



 

そこで、左下の明るい部分だけをトリミングしました。

サンプル2はトリミングした明るい部分です。これであれば、暗い部分の寄与が減るはずです。

 

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サンプル2



サンプル2のヒストグラムです。暗い部分に引かれていますが、ベルカーブに近づいています。

ライトで照らしているのが、サンプル2の部分ですから、最初から、この部分だけの写真を撮るべきだったのではないかという指摘をされそうです。たしかに、この部分がメインなのですが、上部のアーチがなくなってしまうとこの写真が修道院の中であることがわからなくなります。ライトに照らされている部分ほど明瞭でなくともよいのですが、アーチの部分は、写真に入れたいのです。写真のフレームの中で、どの部分に重点を置きたいのかという設問は、今後も常に出てくるので、頭の片隅に入れておいてください。

 

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サンプル2 ヒストグラム


 

カメラで撮影するとは、ダイナミックレンジを切りとる作業になります。

平均グレーは、撮影する光の場の代表値としては、使いものにならないことがわかりました。

一方、表現する(印画紙に印刷する)側から考えれば、平均グレーは重要です。

次回は、露光を変えることが何を意味するか説明します。