ファクトチェックの必要性

 

1)アメリカ副大統領候補によるテレビ討論会

 

11月の米大統領選に向け、副大統領候補によるテレビ討論会が10月1日、開かれました。

 

毎日新聞は、次のように報道しています。(筆者要約)

副大統領候補の討論会を主催したCBSニュースは、中継画面にQRコードを表示し、「リアルタイム」で候補者の発言に虚偽や誇張がないかを確認した記事に視聴者を誘導する新たな試みをしました。

 

6月の討論会では、CNNの司会者がファクトチェックを一切行わず、トランプ氏の虚偽を含む発言が放置されたとして民主党側が反発しました。

 

9月にあったABCニュース主催の討論会では、司会者2人がトランプ氏の発言内容は事実と異なるなどと何度も指摘する場面がありましたが、民主党のハリス副大統領の発言は修正されなかったことから、トランプ氏は不公平だったとして不満を訴えました。

 

今回、CBSは、司会者は候補者の発言の虚偽や誇張を正すよりも、ルールに基づいて討論を促すことを重視し、ファクトチェックは、討論に含まれませんでした。

 

CBSは90分の討論会で20人近くの記者をファクトチェックに投入しました。担当記者は候補者の発言が事実に基づいているかどうかを調べて記事をニュースサイトに投稿し、QRコードを通じて視聴者を検証サイトに誘導しました。

<< 引用文献

米大統領選 試行錯誤のファクトチェック QRコード導入の背景 2024/10/02 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20241002/k00/00m/030/168000c

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CBSの試みは、リアルタイムでファクトチェックをするものですが、他のマスコミも、ファクトチェックをしています。

 

例えば、ロイターは、「ウォルズ氏ほぼ正確 バンス氏一部疑問」と評価しています。

<< 引用文献

情報BOX:討論会ファクトチェック、ウォルズ氏ほぼ正確 バンス氏一部疑問 2024/10/02 ロイター Reuters Fact Check

https://jp.reuters.com/world/us/QSLKMY72NNLNZOSZR3ROVAZVF4-2024-10-02/

>>

 

2)ファクトチェックの基準

 

ファクトチェックの評価基準は、正しいか、間違いかだけではありません。

 

「証拠・根拠がないか非常に乏しい」、「真偽を証明することが困難」といった評価も含まれます。

 

NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)が、国際ファクトチェック・ネットワーク(IFCN)の綱領の趣旨を踏まえて、策定したファクトチェック・ガイドラインを示します。

レーティングの表記と定義

 

 正確  事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。

 ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。

 

 

 スリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。

 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。

 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。

 

 

 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。

 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。

 

 

 判定留保  真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。

 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。

<< 引用文献

FIJのガイドライン

https://fij.info/introduction/guideline

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3)ファクトチェックがなされているか

 

マスコミは、形式的には、FIJのメディアパートナーになるなど、ファクトチェックを尊重してると主張します。しかし、ファクトチェックの事例は、枝葉末節なケースばかりです。

 

問題例をあげます。

 

3-1)備蓄米の放出

 

坂本哲志農林水産相は1日、閣議で辞表をとりまとめた後の記者会見で、「備蓄米を放出しない決断に誤りは無かった」と述べた。9月に入って新米の流通が本格化していることから、「放出していれば、だぶつきで混乱を招いた」としている。

坂本氏は、「今年の米の出来は非常に好調で、米価の高止まりが長く続くわけではない」と話しました。

<< 引用文献

備蓄米放出せず「決断に誤りはなかった」 退任会見で坂本農水相 2024/10/01 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASSB1219ZSB1ULFA00LM.html

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従前からの日本のマスコミでは、発言者の発言が間違っていても、間違った発言をしたことは事実なので、誤った報道ではないと主張する風潮があります。

しかし、この基準は、ファクトチェックのルールを逸脱しています。

 

筆者には、坂本哲志農林水産相の発言が正しいかはわかりませんが、「放出していれば、だぶつきで混乱を招いた」、「今年の米の出来は非常に好調で、米価の高止まりが長く続くわけではない」と判断する根拠が示されれいません。

 

したって、この報道には、「 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい」というファクトチェックの結果が添付されるべきです。

 

もっと端的にいえば、備蓄米の放出をしなかった理由は、衆議院選挙で、米農家の票が流れることを防止する目的が疑われます。米の安定供給より、選挙対策を優先した可能性があります。

 

米は、ドローン、ロボット、AIがあれば、技術的には、ほぼ無人でつくることが出来ます。

 

2024年現在では、まだ、開発途中の技術ですが、自動車の自動運転が実用化すれば、技術のハードルはなくなります。

 

こうすれば、農家の人手不足問題はありません。カリフォルニアは、その方向に進んでいます。

 

ただし、そうすると、農民票が、ほぼゼロになるので、当選できない議員が続出します。議員の当選を目的に、非効率な高い米を作っている事情があります。



3-2)赤沢亮正経済財政・再生相の就任会見

 

赤沢亮正経済財政・再生相は10月2日の就任会見で次のように述べています。・

 

「デフレ脱却が最優先課題」であり、石破茂首相が利上げに前向きとの見方は正しくないとも述べました。

 

第2次安倍政権発足当初の2013年に政府・日銀が結んだ共同声明(アコード)は「非常に重要、日銀と力を合わせてデフレ脱却したい」と述べ、変更しない方針を示した。

 

石破首相が「総括が必要」としている安倍政権のアベノミクスについて「デフレでない状況を作りGDP(国内総生産)を引き上げ雇用を改善するなど良い面があったのは間違いない」と評価し、足元の物価高をアベノミクスがもたらしたと批判するのは「短絡的」としました。

<< 引用文献

国民が物価高に苦しむの本意でない=エネルギー補助延長巡り赤沢経財相 2024/10/02 ロイター 

https://jp.reuters.com/economy/bank-of-japan/BAN4MX6YW5KPTB2TFPJDEKBNSA-2024-10-02/

>>

 

石破茂首相が利上げに前向きとの見方は正しくない」という部分の内容には2つの解釈ができます。

 

第1は、石破茂首相は利上げを考えていないという意味です。

 

第2は、石破茂首相の利上げというアイデアは、良くないという意味です。

 

9月27日の総裁選のあとで、石破茂首相の政策を、木内登英氏は次のように書いています。

 

石破氏は、個人消費に打撃を与える物価高の一因である円安を修正する観点からも、日本銀行の利上げを支持している。さらに、日本銀行の独立性を尊重する姿勢だ。

<< 引用文献

自民党新総裁に石破氏が選出:地方創生を中核に据えた成長戦略の推進に期待:財政・金融政策の正常化も後押しか 2024/09/27 NRI  木内登英

https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2024/fis/kiuchi/0927_4

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石破茂首相の利上げ」を考えていると判断するのが経緯をみれば、当然と思われます。

 

また、「日本銀行の独立性を尊重する姿勢」と「2013年に政府・日銀が結んだ共同声明(アコード)は非常に重要」は、相反する説明です。

 

中央銀行は、政府から独立が原則ですから、共同声明に拘束力があるという判断は、常識に反します。つまり、「共同声明(アコード)は非常に重要」と主張するのであれば、根拠を示す必要があります。

 

石破首相が「アベノミクスの総括が必要」と主著していますが、赤沢氏は、アベノミクスにつアベノミクスについて「デフレでない状況を作りGDP(国内総生産)を引き上げ雇用を改善するなど良い面があったのは間違いない」、足元の物価高をアベノミクスがもたらしたと批判するのは「短絡的」と評価しています。

 

つまり、赤沢氏は、アベノミクスの総括をせずに、アベノミクスの評価ができると主張しています。

 

こうなると、石破首相と赤沢氏の主張は、アメリカの大統領候補の討論会の様相を呈しています。

 

10月9日に衆院解散を行ない、 27日に投開票を行う計画です。

 

野党との討論をする時間はありません。

 

しかし、与党の中でも、政策が分裂しているようにも見えます。

 

アメリカの大統領候補の討論会のように、日本のマスコミにも、提案する政策について、ファクトチェックを期待します。