アベノミクスの総括(10)

11)プラグマティズムの基本

 

11-1)「ブリーフの固定化法」

 

「ブリーフの固定化法」は、パース氏が書いたプラグマティズムの基本文献です。

 

「ブリーフの固定化法」は、<ブリーフの固定化法には、固執の方法、権威の方法、形而上学、科学の方法の4種類があるが、科学の方法を使うべきである>と言います。

 

さて、問題は、「ブリーフの固定化法」が理解できた状態とは、どのような状態をさすのでしょうか。

 

哲学(倫理社会)の試験問題の解答であれば、<>の部分を書けば、満点をもらえると思います。

 

しかし、<>の部分を暗記して、そのまま書いても、メンタルモデルの共有ができたわけではありません。

 

アメリカ社会の基本思想は、プラグマティズムです。

 

アメリカ人は、「ブリーフの固定化法」のメンタルモデルを共有しています。

 

「ブリーフの固定化法」のメンタルモデルを共有している場合、「固執の方法、権威の方法、形而上学」をさけ、「科学の方法」をつかうというルールが共有されています。

 

11-2)メンタルモデルとトランスポータビリティの問題

 

片野歩氏は、日本で、サバが取れない現象を論じています。

 

片野歩氏はノルウェーでは、次の漁業政策を行なっているといいます。

P1)科学的根拠に基づく漁獲枠の設定と漁業(巻き網・定置他)ごと、漁船ごとに漁獲枠を設ける。

 

P2)3歳未満のサバの漁獲を禁止する。混じっても数%という厳しい制限を付ける。

 

P3)サバは食用で99%になるようにする。養殖マグロのエサ用枠は別途設ける。

 

P4)漁獲枠の配分は資源が少ない時期は、沿岸漁業に優先配分する。

これらのノルウェーの政策を日本にコピーする(前例主義)ことは、困難であるという反論に次のようにこたえています。

 

「日本とは違うので参考にならない」のウソ

 

ノルウェーの漁業を知らずに「日本とは違うので参考にならない」といったコメントをネットなどで散見することがあります。ノルウェーの関係者が読むと、いったいどこの国のことか?となります。先入観や偏見で言うのはよくありません。

 

違うのは資源管理であって、沿岸漁業の漁船が圧倒的に多いといった構造は同じです。自国海域で資源管理が完結しているわけではなく、外国とは90%以上の資源を共有しています。また巻き網漁業に大手は存在しません。

 

大事なことは世界に目を向けて、もっと広い視点から世界の成功例を取り入れていくことではないでしょうか。

<< 引用文献

「巨大サバが釣れまくる」ノルウェーと日本の差 2024/10/13 東洋経済 片野歩

https://toyokeizai.net/articles/-/833330?display=b

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筆者は、日本の環境政策には、メンタルモデルの共有がなく、間違っていると考えています。したがって、科学的な資源管理をすべきであると考えています。

 

しかし、ノルウェーの資源管理が成功しているので、コピーするのは、科学の方法ではありません。

 

日本とノルウェーでは河川や干潟の環境政策が異なります。日本の海洋環境は劣悪です。

 

世界の成功例を取り入れていくことは、前例主義であり、権威の方法に繋がります。



「異次元緩和の罪と罰」で、山本謙三氏は、リフレ派が、ノーベル経済学賞を受賞してクルーグマン教授の権威をつかった権威の方法で、ブリーフを固定化して、大規模金融緩和政策が始まったといいます。

 

しかし、山本謙三氏は、「異次元緩和の罪と罰」の中で、ボルカ―氏とラジャン氏という権威を引用して、権威の方法で、ブリーフの固定化をしようとしています。

 

これは、プラグマティズムの科学の方法のメンタルモデルに反します。科学の方法を使わないとブリーフの共有ができないので、議論が成り立ちません。

 

片野歩氏も、科学の方法で、ブリーフの固定化をしていません。

 

ノルウェーの漁業を知らずに「日本とは違うので参考にならない」といったコメント>は、トランスポータビリティについての疑問です。

 

これにこたえるには、トランスポータビリティの検証が必要になります。

 

エコシステムエコロジーでは、生態系は、自然の生態系と人間の生態系から構成されていると考えます。

 

ノルウェ―の漁業では資源管理ができ、日本の漁業では資源管理ができていません。



片野歩氏は、「違うのは資源管理であって、沿岸漁業の漁船が圧倒的に多いといった構造は同じです」と、資源管理以外のエコシステムが同じであると主張します。

 

しかし、エコシステムエコロジーのメンタルモデルで考えれば、人間の生態系システムが異なっている可能性が高いです。

 

例えば、漁業政策に関わる人間のエコシステムが、資源管理を優先するより、選挙に当選して、利権を維持することを優先している場合を仮定すれば、日本の漁業では、資源管理が成立しない理由を説明することができます。

 

仮に、この仮説がただしければ、片野歩氏の<大事なことは世界に目を向けて、もっと広い視点から世界の成功例を取り入れていくことではないでしょうか>という発言には、世界を変える力はないと言えます。



11-3)補助金バイアス

 

山本謙三氏は、「異次元緩和の罪と罰」(p.257)で、補助金バイアスについてふれています。

 

補助金バイアスの説明は、日銀前総裁の白川氏の説明が分かりやすいです。

 

ここに、2種類の同業の企業があったと仮定します。優良企業は、自力で、辛うじて黒字を出しています。優良企業は、製品価格を上げて、黒字幅を大きくして、研究開発投資に利益を振り分けて、新製品開発をしたいと考えています。ゾンビ企業は、赤字で、廃業の危機にあります。ゾンビ企業は、ここで、政治献金をして、政治家に、赤字企業に対する補助金の給付を働きかけます。補助金が成立すれば、安価に製品を売って黒字をだすことができます。こうなると、優良企業は、価格をあげることができなくなり、技術開発ができる企業が消滅します。技術開発の中には、労働生産性をあげる試みも含まれています。つまり、補助金によって、ゾンビ企業を温存することで、優良企業潰しが行なわれています。

 

デービッド・アトキンソン氏は、中小企業への補助金が問題であると主張していますが、補助金バイアスは、中小企業に止まらないと思います。

 

太陽光パネルには、環境によいということで、膨大な補助金がつぎ込まれましたが、シャープも、京セラも、中国企業との太陽光パネルの価格競争に敗れて、撤退しています。

 

日本の家電メーカーが、国際競争力を失った原因は、補助金バイアスとメンタルモデルの共有の欠如で説明がつきます。

 

ノルウェーは、ジョブ型雇用であり、2世、3世の政治家も少ないです。つまり、ノルウェーには、補助金バイアスがありません。

 

前にも紹介しましたが、ハーバード大学のジョン・グラハム教授は、<限られた予算で最大限の人命を救い、最大限の環境保護を達成する健全な科学がなければ、「統計的殺人 Statistical murder」に従事していることになる>と述べています。

 

「最大限の環境保護を達成」は、「資源管理」そのものです。

 

予算配分が、健全な科学に基づいて行なわれなければ、環境保護が成立しないので、「資源管理」ができないのは、当然です。

 

「異次元緩和の罪と罰」は、インフレと経済成長には関係がないといいます。

 

ハイパーインフレは、生活を破壊しますので、日銀(中央銀行)は、ハイパーインフレを防止すべきです。

 

インフレと金融緩和が経済を成長させることはありません。

 

これは、「異次元緩和の罪と罰」の基本テーマです。

 

しかし、衆議院選挙に向けた各党の政策は、金融緩和を温存して、歳出を増加、つまり、補助金を増加させるものになっています。

 

これは、経済学と微分方程式のメンタルモデルを共有できる政治家がいない、言い換えれば、政治とは補助金のばら撒きであるという田中角栄氏のメンタルモデルからぬけられない政治家が蔓延していることを示しています。