10)開発者会議
メンタルモデルの共有のメリットを実例を考えます。
10-1)世界開発者会議
アップルは、世界開発者会議(Worldwide Developers Conference)を開催しています。
英語版のウィキペディアは次のように説明しています。
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ワールドワイド開発者会議(WWDC )は、 Apple Inc.が毎年開催する情報技術カンファレンスである。このカンファレンスは通常、カリフォルニア州のアップルパークで開催される。このイベントでは通常、 macOS、iOS、iPadOS、watchOS、tvOS、visionOSファミリーやその他のAppleソフトウェアの新しいソフトウェアや技術が紹介される。新しいハードウェア製品が発表されることもある。WWDCは、 iPhone、iPad、Mac、その他のAppleデバイス向けのアプリを開発するサードパーティソフトウェア開発者向けに主催されるイベントでもある。参加者は、Appleのエンジニアと一緒にハンズオンラボに参加したり、さまざまなトピックを網羅した詳細なセッションに参加したりすることができる。
週を通して運営されているラボでは、Appleのエンジニアが参加している開発者と一対一で相談に応じます。ユーザーインターフェースデザインとアクセシビリティの専門家も予約制で相談に応じます。
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世界開発者会議は、イベントとサイドパーティソフトウェア開発者とのメンタルモデルの共有を図る目的があります。
アップルが、サイドパーティソフトウェア開発者とのメンタルモデルの共有ができる前提には、社内の開発者の間で、既に、メンタルモデルの共有が出来ている訳です。
OSや共通モジュール、ユーザーインターフェースデザインの共通性はソフトウェアの利便性に大きく関わります。
サイドパーティが開発したソフトとアップルの開発したソフトの間に、ユーザーインターフェースデザインの共通性がなければ、ソフトは、ユーザーに使ってもらえません。
10-2)遠藤誉氏の孫請けの話
遠藤誉氏は、日本の官公庁のソフトウェア開発には、下請け、孫請け構図があり、孫請けが中国企業の場合があるといいます。
図で書けば、次になります。
「全省庁統一資格企業」→「日本の下請け子会社」→「中国人孫請け業務」
遠藤誉氏の発言を引用します。
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たとえば日本政府の官公庁の中央が、入札する資格を持っている「全省庁統一資格企業」Aに100億円のプロジェクトXを発注したとする。
データ作成やウェブサイトの作成や補修をする場合、ふつうならば、企業AがA社内に多くのIT人材を抱えていて忠実にプロジェクトXを実行しなければならないはずだ。
ところが、日本には優秀なIT人材が少なく、A社内で実行することが困難と判断する「全省庁統一資格企業」が少なくない。実行できる人材を抱えていれば給料を支払わなければならないし、そのプロジェクトに専念していなければならないので、儲けが大きくはならない。
そこで少なからぬ「全省庁統一資格企業」は官公庁から受注した業務を、「日本国内の下請け子会社」に委託する。その際、仮に受注金が100億円のケースでは、良くても数億円、極端な場合は1億円程度で下請けの子会社にやらせるのである。そうすれば企業Aはボロ儲けをし、社員などほとんどいなくても受注金をたっぷりA社で貯めこむことができる。
A社から受注した「日本の下請け子会社」は、本来なら100億円ほどかかる業務を数億円か1億円程度でこなさなければならないので、普通に日本人のIT人材を雇用してプロジェクトXの業務を完遂することなどできるはずがない。
そこで格安の報酬でも引き受けてくれる中国人IT人材を使用することになる。
「日本国内にある下請け子会社」は、自社で中国人元留学生を雇用する場合もあれば、中国にいるIT人材に遠隔で依頼する場合もある。
国家全体としてのGDPは2010年から中国が日本を上回り、中国は世界第二の経済大国になっているが、現状ではまだ平均的な給料からすれば、日本の方が中国よりはやや高いので、中国人IT人材は、今のところ静かにじっと耐え、日本の官公庁の個人データを黙々と入力し、日本の官公庁のウェブサイトを黙々と制作補修している。
筆者自身は1980年初頭から中国人留学生の世話をし続け、それなりの人脈もまだいくつか残っているので、実際に日本の官公庁の業務を、薄給で日夜遂行している実態を知っている。
悪いのは中国人IT人材ではない。
悪いのは日本政府であり、この実態を(おそらく)薄々知りながら、徹底究明をしようとしない日本の国会議員たちだ。
もちろん、最も悪質なのは受注した「全省庁統一資格企業」だが、その「闇のからくり」を知りながら目をつぶる政府与党国会議員の罪は計り知れなく重い。
中国にマイナンバーと年金情報が「大量流出」していた!
2023年7月26日、ジャーナリストでもあり作家でもある岩瀬達哉氏が、<中国にマイナンバーと年金情報が「大量流出」していた…厚労省が隠蔽し続ける「不祥事」の全容>という論考を発表しておられる。岩瀬氏は事件の概要を、以下のように書いておられる。
《事件の概要》2017年の大幅な税制改正を受け日本年金機構は、厚生年金から所得税などを源泉徴収する「税額計算プログラム」を作成し直す必要があった。約770万人の厚生年金受給者に「扶養親族等申告書」を送付。記載内容に漏れや間違いがないかをチェックしてもらうとともに、あらたにマイナンバーや所得情報を記入し、送り返すよう要請。送り返されてきた「申告書」をデータ入力することでプログラム化をはかることとした。機構はその入力業務を、東京・池袋のデータ処理会社、SAY企画に委託したものの、同社が中国大連市のデータ処理会社に再委託したため、そこから日本の厚生年金受給者の個人情報が、中国のネット上に流出した。(以上、岩瀬氏の論考から引用)
岩瀬氏は2023年7月28日にも<【追及スクープ】「500万人のマイナンバーと年収情報」を中国に丸投げした池袋の企業に支払われた「7100万円の報酬」>を公開しておられ、それらの論考を詳細にご覧になればわかるが、この問題は何度も国会で取り上げられている。約10日間にわたった衆参両院での集中審議を行ったようなので、国会議員で、この事件を知らない者がいるとは思いにくい。
しかし岩瀬氏の記述によれば、「国会での虚偽答弁の連発」により、うやむやにされてしまい、まるでなかったかのようなことになっているようだ。
><< 引用文献
自民党総裁候補者に問う 「日本の官公庁のデータは中国人が作成している実態」をご存じか? 2024/09/15 中国問題グローバル研究所 遠藤誉
>>
コロナウイルスのアプリのCOCOAも孫請けに出していました。
遠藤誉氏の孫請けの話は、サンプリングバイアスのない平均的な場合であるか、特殊な場合かはわかりませんが、孫請けに出すことが多いことは、COCOAの事例から想像できます。
孫受けに出す場合には、開発者会議は開かれず、メンタルモデルの共有ができていませんので、使えないソフトウェアになることは確実です。
筆者は、写真の現像に、フリーウェアのdarktableをつかっています。過去に、darktableの開発チームは、Googleのサマースクールに参加して、効率的なコードの書き方を学習しています。たしかに、その後のバージョンでは、darktableは、レスポンスが改善しています。
10-3)マイナンバーカードの問題
マイナンバーカードでは、開発者会議は開かれていません。
開発者会議が開かれ、さまざまなトピックを網羅した詳細なセッションに参加できれば、保険証を廃止するメリットについて、納得がいく説明が得られるはずです。
マイナンバーカードでは、メンタルモデルの共有がなされていないことがわかります。
ソフトウェアの開発は、科学の方法で行なわれます。
ソフトウェアには、バグがあります。
ソフトウェアの開発と利用は、可謬主義になります。
ソフトウェアでは、エラーリカバリーを考える必要があります。
エラーは必ず起こりますので、エラーがあった場合には、被害を最小限にする方法を組み込む必要があります。
マイナンバーカードの開発では、データの共有とセキュリティ対策のルールが確立している必要があります。
2024年のノーベル物理学賞の受賞が決まったAIの生みの親、ジェフリー・ヒントンの成功は、画像認識コンテスト「ILSVRC」(the ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)の2012年大会に自身らが開発したAlexNet(畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を採用)を持ち込み、初参加ながら次点を大きく引き離す高得点で優勝してからです。
画像認識コンテストでは、100万枚の画像をつかって学習します。
COCOAも、マイナンバーカードも、100万人程度のダミーデータをつかって、バグをとっていれば、エラーの大半は避けられたはずです。
マイナンバーカードでは、登録エラーが見つかりました。このことは、マイナンバーカードの登録システムは、エラーリカバリーを考えていなかったことを意味します。
恐らく、マイナンバーカードの他の部分にも、十分なエラーリカバリーがついていないと思われます。
南日本新聞は次のように報道しています。(筆者要約)
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鹿児島市は、2024年3月末に、マイナンバーカードを利用して個人に合った情報を提供する市公式アプリの運用を開始しています。2024年8月末のダウンロード数は、439人で、目標の3万人を下回っています。このアプリの開発には、2022年から2024年度に、計約1億7000万円の事業費をつぎ込んでいます。
一方、鹿児島市の公式ラインは、開設から約4年で10万9187人に達しています(2024年9月末現在)。
2022年4月から鹿児島観光コンベンション協会が運用する市公式観光アプリ「わくわく」は、2024年7月末時点で会員数は約2万7600人にのぼっています。
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<< 引用文献
1.7億円かけてダウンロード439人…鹿児島市の公式アプリが大苦戦、目標3万人に遠く及ばず 2024/10/122 南日本新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/66f24f5994aa9634f25ab1d152dc584006643504
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南日本新聞の記事を読んでも、スマホがどうしたら、マイナンバーカードを読み取れるのかわかりません。そこで、鹿児島市のHPをみると次のよう書いてあります。
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マイナンバーカードのICチップに格納されている署名用電子証明書を使って、スマホ用電子証明書を搭載するサービスです。
マイナンバーカードがなくても、スマホで様々なサービスの利用や申込ができるようになります。
スマホだけでできるようになること
(1)マイナポータルの利用(5月11日~)
各種オンライン申請【子育て支援、引っ越し手続き(2023年7月頃~)、確定申告(2024年度~)】
自己情報の閲覧(薬剤・健診情報、母子健康手帳)
お知らせ通知(予防接種)
(2)各種民間オンラインサービスの申込・利用(順次対応予定)
銀行・証券口座開設、携帯電話の契約、キャッシュレス決済申込
(3)コンビニ交付サービスの利用(ローソン、ファミリーマート全国店舗で2024年1月22日開始)
(4)健康保険証としての利用(2024年度対応予定)
今後、順次、利用サービス拡大予定
申込方法
ステップ1
【次のものを準備】
マイナンバーカード
マイナンバーカードの署名用電子証明書のパスワード(6~16桁の英数字)
ステップ2
スマートフォンにマイナポータルアプリをダウンロード
アプリのダウンロード・利用者登録方法について(外部サイトへリンク)
ステップ3
ご利用のスマートフォンが、スマホ用電子証明書の搭載に対応している場合、申し込みができる旨が表示されます。画面の指示に従い進んでください。
マイナンバーカードのスマホ搭載をやめるときは、ご自身によるスマホ用電子証明書の失効手続または一時利用停止が必要です。
(1)失効手続が必要なとき
スマートフォンを下取・買取に出すとき
スマートフォンを回収・廃棄してもらうとき
スマートフォンを修理に出すとき
失効手続はマイナポータルアプリから可能です。
詳しくはリーフレット(PDF:1,416KB)Open this document with ReadSpeaker docReaderをご覧ください。
(2)一時利用停止が必要なとき
スマートフォンを紛失したとき
スマートフォンが盗難にあったとき
一時利用停止はマイナンバー総合フリーダイヤル0120-95-0178にご連絡ください。
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<< 引用文献
https://www.city.kagoshima.lg.jp/soumu/ict/mynumber/mobile.html
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以上の説明をみると、マイナンバーカードの電子情報をスマホ上にコピーするアプリになっています。
つまり、スマホがあれば、マイナンバーカードが不要になります。
それは、便利なのですが、次の問題があります。
スマホが、マイナンバーの代りになるのであれば、ハードウェアとしてのマイナンバーの配布は止めるべきです。政府はいままで、かたくなに、ハードウェアとしてのマイナンバーの配布にこだわってきました。
鹿児島市は、健康保険証としての利用(2024年度対応予定)ができるといいます。その場合には、医院と薬局にあるマイナンバーカードの読み取り機は無駄になります。
鹿児島市は、マイナンバーカードをスマホ上にコピーしています。
このスマホのアプリのインターフェースが標準化されていなければ、このアプリは鹿児島市内でしか使えません。
そもそも、マイナンバーカードの情報をスマホに移植する要望は、日本中にあるはずですから、この部分のライブラリとスマホのアプリのインターフェースの標準をデジタル庁が行なう必要があります。
つまり、デジタル庁は機能していません。
このアプリには、2段階認証がついているのでしょうか。セキュリティについては、何も書かれていません。
KYODOは次のように伝えています。
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インターネットを介して国が共通システムを構築し、自治体が利用することを想定。12業務について、実現可能性やスケジュールなどを検討し、来年3月までに方向性をまとめる。
入札関連では、事業者の参加資格審査の手続きを統一し、電子化を検討。事業者と自治体双方の負担軽減を狙う。生活保護の支給決定や地方税の徴収事務などで必要な預貯金照会では、全ての金融機関に対し、対象者の残高や取引履歴を一括してオンラインで照会する仕組みが構築できるかどうかを探る。
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国と地方、システム共通化を検討 12業務、人手不足対策で 2024/10/13 KYODO
https://news.yahoo.co.jp/articles/067d892936bf0c4463e778f2fd3b092da0f5d01c
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「全ての金融機関に対し、対象者の残高や取引履歴を一括してオンラインで照会」は現在、どの金融機関もサポートしています。
「生活保護の支給決定や地方税の徴収事務などで必要な預貯金照会」は、個人情報に、自治体がアクセスできる権限の設定になります。これは、システム化の問題ではありません。
プライバシーとセキュリティの問題です。
生活保護の支給決定には、自治体の職員が、残高や取引履歴の情報にアクセスできれば、便利ですが、プライバシー問題からすれば、金融機関は、生活保護の支給決定に関わる情報のみを伝えるべきであり、「残高や取引履歴を一括してオンラインで照会する」必要はありません。また、プライバシーに関わる情報にアクセスできる自治体職員には、制限をもうけるべきですし、参照履歴が保存されないようにする必要があります。
日本郵政グループの日本郵便は2024年10月11日、ゆうちょ銀行の顧客情報を無断でかんぽ生命保険の営業に使っていた問題で、全国の郵便局が2014年2月以降、少なくとも155人分のゆうちょ銀の顧客情報を流用し、保険営業用のリストを作成していたと発表しています。
同様に情報流用が発生します。
マイナンバーカードなどの、個人情報については、利便性とセキュリティについてのメンタルモデルの共有ができていません。
生活保護の支給資格の判定は、データがあれば、人間が介在せずに、自動的に判定ができます。プライバシー問題からすれば、これはベストな答えです。マイナンバーに紐づけられた情報があれば、1億人の中から、生活保護をうける有資格者を抽出することができます。スマホのマイナンバーであれば、有資格者にメールを送付して、あなたは、有資格者ですが、生活保護を受けますかと聞けばよいことになります。
この方法であれば、人手はゼロで済みます。自治体の職員が個人情報にアクセスする必要はありません。