1)自民党の経済政策
1-1)石破政権の経済政策
石破政権の経済政策は、毎日変動しているので、評価は困難ですが、27日の投票日までには、経済政策を整理分析する必要があります。
経済政策は、賃金に結びつきますので、投票の大きな論点になります。
1-2)失われた30年の処方箋
真壁昭夫氏は、中国の経済について論じていますが、途中で、本音が書かれています。
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1990年代、わが国は財政支出の増加と金融緩和を実施したが、残念ながら不良債権処理は遅れた。構造改革の実行もできなかった。その結果、日本経済は「失われた30年」と呼ばれる長期の停滞に陥った。
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<< 引用文献
内幕を知ってゾッとする…中国で「60円朝食」が流行する深刻なワケ 2004/10/01 DIAMOND 真壁昭夫
https://diamond.jp/articles/-/351311
>>
真壁昭夫氏は「失われた30年」の原因は、「構造改革の実行」が出来なかったことにあるといいます。
これは、アベノミクスの第3の矢です。
端的に言えば、労働生産性をあげるためには、「構造改革」、つまり、工業から、情報産業への労働移動が必要でした。
アベノミクスは、第3の矢だけあれば十分でした。
しかし、「構造改革」は、30年間、放置されてきました。
遠藤誉氏は、「反日教育」の話題の中で、2012年の中国の技術レベルについて、次のよう書いています。(筆者要約)
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習近平氏が中共中央総書記になった2012年11月の寸前まで、破壊の限りを尽くして激しく暴れまくった反日デモは、中国共産党大会開催が困難かと思われるほど、9月になっても収まりませんでした。反日デモは最終的には中国政府に向かってきましたが、その理由は「デモを呼び掛けているスマホやパソコンのパーツがほとんど全て日本製だったから」です。日本製品ボイコットをしているのに、自分たちは日本のパーツで出来上がっているスマホやパソコンを使ってデモ集合のための連絡を取りあっていたのかと、「中華民族の屈辱」を思い切り突き付けられ、デモ隊の怒りはそのようなことを自分たちに強いた中国政府に向かっていきました。
習近平氏は、2015年にハイテク国家戦略「中国製造2025」を発布しました。約10年の年月が経ち、中国はいま宇宙、太陽光、EVあるいは民間用ドローン、はたまたクリーンエネルギーによる造船に至るまで、新産業において世界のトップに立つところまで成長しています。
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<< 引用文献
習近平はなぜ「反日教育」強化を選んでしまったのか? その結果が突き付ける現実を直視すべき 2024/09/24 中国問題グローバル研所 遠藤誉
>>
アベノミクスを提唱した第2次安倍内閣は、2012年12月26日にスタートしています。
この時期は、習近平氏が中共中央総書記になった2012年11月にほぼ重なります。
つまり、アベノミクスのスタート時点では、中国のスマホやパソコンは日本のパーツで出来上がっていました。2012年には、日本の家電製品には、輸出競争力がありましたが、10年経って、日本の家電メーカーは、輸出競争力を失いました。
日本の家電メーカーが輸出競争力を失った原因は、「構造改革の実行」が出来なかったことにあると思われます。
中国は、10年で、日本を追い越しました。
今後、同様のことが、インドやベトナムなどで起きても不思議ではありません。
日本では、IMD世界デジタル競争力ランキングはよく引用されますが、競争相手の実力を見る分析は少ないです。
「失われた30年」という表現では、日本は止まっていたようにみえますが、遠藤誉氏の分析から、アベノミクスの10年は、日本が、中国に追いこされた10年であったことがわかります。
IMD世界デジタル競争力ランキング(2023)のアジアの部分を引用します。
3位 Singapore
6位 Korea Rep
9位 Taiwan (Chinese Taipei)
10位 Hong Kong SAR
19位 China
32位 Japan
33位 Malaysia
35位 Thailand
45位 Indonesia
49位 India
59位 Philippines
<< 引用文献
IMD世界デジタル競争力ランキング・総合順位
https://www.imd.org/news/world_digital_competitiveness_ranking_202311/
>>
シンガポール、韓国、台湾、香港が第1グループ、中国が、第2グループ、日本、マレーシア、タイは、第3グループになっています。
IMD世界デジタル競争力ランキングは2017年に作成された新しい指標です。
このため、2012年頃の値はありません。
日本が、次の10年も、「構造改革の実行」ができなければ、日本を追い越す国が出てくることは、必然的な変化になります。
その場合には、日本だけが、労働生産性があがりませんので、日本人の1人あたりGDPは、マレーシア、タイなどのデジタル新興国以下になります。
1-3)鉄のトライアングルの構造問題
政治資金の金額に応じて、政治家は、企業などに補助金のキックバックをしています。
官僚は、許認可を通じて、天下り先を確保しています。
こうした構造は、鉄のトライアングルと呼ばれています。
鉄のトライアングルは、既存の産業組織に、対応しています。
簡単に言えば、パーティ券に対するキックバックがある限り、「構造改革の実行」ができない構造があると思われます。
鉄のトライアングルは、田中角栄氏が、日本列島改造で、完成させた政治システムです。
鉄のトライアングルがあれば、「構造改革の実行」ができないので、日本人の賃金が下がり続けることになります。
真壁昭夫は、「構造改革の実行」ができなかったといいます。
このことから、小泉改革は、労働生産性の向上には、まったく、寄与しなかったと言えます。
筆者は、その原因は、労働市場の欠如であったと考えます。
衆議院選挙の論点が、賃金上昇であれば、公約には、「構造改革の実行」が含まれている必要があります。
1-4)石破政権の政策評価
野口悠紀雄氏は、石破政権の経済政策を次のように評価しています。(筆者要約)
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実質賃金の継続的な引き上げは、生産性の向上によってしか実現できません。
最低賃金の引き上げは、分配上の観点から必要ですが、それと経済全体の実質賃金の引き上げとは、関係がありません。また、財政支出によって家計を補助し、消費支出を増やすという発想は、経済学の視点では、まったくおかしいです。
「地方創生」では生産性は向上しないので、更に貧しくなります。
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<< 引用文献
「アベノミクスは間違っていた」が…石破新総理の金融・経済政策も「おかしい」と言えるワケ 2024/09/29 現代ビジネス 野口悠紀雄
https://gendai.media/articles/-/138320?imp=0
>>
野口悠紀雄氏の分析は、「構造改革の実行」による生産性の向上に対応しています。
加谷珪一氏の評価を引用します。(筆者要約)
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石破政権の政策を、一言でまとめると「中間層の底上げと格差是正」ということになるだろう。
日本の法人税は安倍政権下で3回も減税されており、結果として日本企業の内部留保は600兆円という空前の水準まで膨れ上がった。本来、企業は蓄積した利益を次の成長のために先行投資する必要があるが、日本の大企業は多くをキャッシュとして貯め込み、設備投資を拡大していない。設備投資が増えなければ、経済学の理論上、景気が拡大するはずがなく、これが日本経済停滞の大きな要因のひとつとなっている
全体の賃金を上げていくには、AI(人工知能)など高度産業を育て、全体の付加価値を高めていくのが理想的かもしれないが、今の日本社会は、こうした革新的な産業シフトを実現できる状況ではない。筆者は以前から何度も主張しているが、台湾TSMCを熊本に誘致したケースのように、相応の技術力を持った企業の製造拠点を日本に戻す(あるいは外資系企業の製造拠点を国内に誘致する)だけで、相当な賃上げ効果が期待できる。
製造業の国内回帰を促せば、現実問題として製造拠点の多くは地方に置かれることになる。おそらく石破氏は製造業の国内回帰を促すことで地方経済を活性化させ、さらに最低賃金を引き上げることで、全体の所得拡大を図る方針と考えられる。
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<< 引用文献
「石破茂総理」の誕生で、いよいよ日本経済に巻き起こる「意外な事態」 2024/10/01 現代ビジネス 加谷珪一
https://gendai.media/articles/-/138398
>>
加谷珪一氏は、「全体の賃金を上げていくには、AI(人工知能)など高度産業を育て、全体の付加価値を高めていくのが理想的かもしれないが、今の日本社会は、こうした革新的な産業シフトを実現できる状況ではない」といいます。
つまり、「構造改革の実行」による生産性の向上ができないという前提で、次善の選択を考えれば、製造業の国内回帰は評価できると主張します。
問題は、「構造改革の実行」による生産性の向上ができないという前提が妥当であるかという点にあります。
製造業の国内回帰は、工業の範囲なので、得られる労働生産性の向上は小さいです。
GAFAMのような高い賃金を提示できませんので、高度人材の流出は止まりません。
また、中国が、10年で、情報産業へのレジームシフトに成功したように、次の10年で、他の途上国が、情報産業へのレジームシフトに成功する可能性があります。製造業の国内回帰では、こうした場合の競争力の喪失を防止できません。
橋下徹氏は、「日本の政治のために自民党が2つに分かれるべき」と言います。
<< 引用文献
「うそつき内閣って言いたい」石破内閣を橋下徹氏が辛口評価 野党が小選挙区で勝つために「維新と立憲はまとまらないから、一本化を『くじ引き』で」 2024/10/03 関西テレビ
https://www.fnn.jp/articles/-/767322
>>
EUでは、極右政党が、第1党になっています。
1990年代には、自民党が、一部分裂した時期もありました。
自民党が分裂する場合には、「構造改革の実行」ができる可能性は高くなります。
1-5)会計法上の課題
加谷珪一氏は、「日本企業の内部留保は600兆円という空前の水準まで膨れ上がった」、「日本の大企業は多くをキャッシュとして貯め込み、設備投資を拡大していない」といいます。
しかし、この前提には、疑問があります。
山本 謙三氏は次のようにいいます。
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2000年代に拡大した対外直接投資が成果を生み始めたことがある。2000年代に海外への直接投資を増やした際には、国内の空洞化を招くとか、円高での苦し紛れの選択といった報道が目立ったが、実際には、国内の労働力不足と需要減少を見越した企業側の対応だった。
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<< 引用文献
企業は好業績でも、日本の景気が良くならない意外な理由「海外で儲けた企業の内部留保はもはや日本に戻ってこない」 2024/09/16 現代ビジネス 山本 謙三
https://gendai.media/articles/-/137603
>>
海外への直接投資の原因が、国内の労働力不足と需要減少を見越した企業側の対応であったとすれば、「製造業の国内回帰」はあり得ません。
実際に、2024年には、人手不足が深刻ですから、「製造業の国内回帰」は、あり得ない政策に見えます。
さらに、山本 謙三氏は次のようにいいます。
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一時期、政界から「日本の企業は内部留保ばかりため込んでいて、けしからん」との議論があったが、会計上の内部留保は預金などの手元資金を指すものではない。海外への再投資や国内の設備投資も、会計上は内部留保に見合う資産である。日本企業は内部留保ばかりをため込み、なにもしなかったわけではない。
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山本 謙三氏の指摘が正しいとすると、加谷珪一氏のロジックは根底から崩れてしまいます。
「海外への再投資や国内の設備投資も、会計上は内部留保に見合う資産」であるとすると、現状認識が間違っていることになります。
山本 謙三氏の指摘が正しいとすると、筆者のメンタルモデルは崩壊してしまって、頭の中が真っ白になってしまいます。