17)円安の効果
1ドルが160円を越えて、円安の効果について、議論が行なわれています。
専門家の言うことが、正しいという権威の方法に従って判断するのであれば、素人の筆者が発言する余地はありません。
複雑な現象:
一方、専門家の発言が、科学の方法に従っているのかというエンジニアの視点でみれば、専門家の発言は、鵜呑みにできないことになります。
エンジニアは、問題を数式でモデル化します。
人間には、脳の容量の限界があるので、複雑な現象は、モデルを通じてしか理解できません。
エンジニアは、モデルを使って現象を理解します。
リベラルアーツのミームの人は、自分は問題をよく理解していて、解決策を知っていると主張します。
これは、モデルを使わなくとも複雑な現象が理解できるという主張です。
これは、エンジニアの常識に反します。
「モデルを使って複雑な現象を理解する」ことは、エンジニアの作業の根幹をなしています。
つまり、「モデルを使わなくとも複雑な現象が理解できる」という主張は、「エンジニアの作業は無駄である」という主張になります。
政治家の政治主導という主張も、政治家は、「モデルを使わなくとも複雑な現象が理解できる」という主張であり、「エンジニアの作業は無駄である」という主張になっています。
これを、一般化すれば、リベラルアーツ(人文科学)は、エンジニアリング(自然科学)にまさるという主張になります。
円安の経緯:
2022年4月に開かれた自民党の会合「財政政策検討本部」で、安倍元首相が「雇用が増えたのは円安効果なのは間違いない。円が300円になったらトヨタの車が3分の1で売れる。日本の製品の価格が3分の1になる。日本への旅行費も3分の1になる。そうすればあっという間に(経済は)回復していくという考えはどうか」と発言してました。
<< 引用文献
安倍・元首相、「1ドル300円になれば、あっという間に経済回復」なのに円安、値上げ地獄で2年前の発言に批判殺到 2024/05/01 中日スポーツ
>>
経済学者の高橋洋一氏は、2024年5月4日、ABCテレビの番組「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」で、「円安上等。1ドル=300円なら成長率20%」などと書かれたフリップを手に「円安は日本政府が最大のメリット享受者」と解説しました。政府が保有するドルが、円安により約40兆円の為替差益が生じていると推計し「これを(国民に)吐き出せば円安なんか誰も文句言う人はいなくなる」と述べました。
高橋洋一氏は、「『1ドル=300円になったら』と安倍さんが3年くらい前に言ったんだけど、その時はだいたい300兆円くらい儲かる。そうすると1人あたり250万円返せるから、誰も文句言うはずない」「安倍さんにこの話をしたら『そうだな~』って言ってました。そりゃそうでしょう」と発言しています。
<< 引用文献
「円安上等。1ドル300円でも誰も文句言うはずない」経済学者の高橋洋一さん主張 『正義のミカタ』2024/05/04 中日スポーツ
https://news.yahoo.co.jp/articles/8ee123706c654787f135e3fcb521d31d574cc332
>>
リフレ派は、実体経済に関係なく、金融政策で、経済成長ができると主張します。
リフレ派は、生産性を問題にしません。生産性の向上よりも、金融政策の方が、経済成長に効果があるという主張です。
以下では、検討を簡単にするために、インフレ補正を無視した議論を行ないます。
エンジニアの基本は、モデルなので、モデルに、インフレ補正項を加えて、分析をすることが基本ですが、ここでは、リベラルアーツ向きの説明をします。
アベノミクスが始まったころ、円ドルレートは、1ドル75円でした。
最近では、1ドル150円を超えています。
リフレ派は、1ドル300円で良いといいます。
日本は、食料も、原材料も、燃料の石油も輸入しています。
輸入の決済は、基軸通貨であるドルで行なわれます。
自動車の生産を考えれば、1ドル75円が、1ドル150円になった場合、自動車の価格は、ドル表示で、半額になるので、価格競争力が生じるというのが、リフレ派の主張です。
1ドル75円が、1ドル150円になった場合でも、自動車の生産量に変化はありません。
自動車の価格が、ドル表示で、半額になることは、ドル換算での売り上げが半減することを意味します。
1ドル75円が、1ドル150円になった場合、輸入原材料の価格は、2倍になります。
原材料費が、半額にはなりませんので、1ドル75円が、1ドル150円になった場合でも、自動車の価格は、ドル表示で、半額よりも高くなります。
1ドル75円が、1ドル150円になった場合に、自動車の価格が、ドル表示で、半額近くなる原因は、労働賃金が円表示で変わらないためです。
言い換えれば、労働賃金がドル換算で半額になるためです。
労働賃金がドル換算で半額になった部分は、企業に所得移転したと見ることも可能です。
劉瀟瀟氏は、インバウンドについて、訪日中国人個人旅行がはやり始めた10年前の2014年を100とした訪日外国人観光客全体と訪日中国人の消費額の推移図表を作成しています。
作成した図を日本円ベースで見ると、近年右肩上がりが続き、とても喜ばしい推移になっていますが、米ドルおよび人民元のレートで見ると、ビックリするぐらい変化がないといいます。
<< 引用文献
「日本は貧乏な人が行く国」訪日観光客の素直な見方、「安くてコスパがいい」日本が陥っているワナ 2024/05/02 東洋経済 劉 瀟瀟
https://news.yahoo.co.jp/articles/67c7d58e3dde0e023b81818cf8f4cd6e76c448de
>>
インバウンドは、訪日観光客数と日本円でみれば、増えていますが、ドルまたは、人民元換算では増えていません。
10年前の訪日中国人個人旅行の状況が均衡解であると考え、今後、経済が均衡解に復元すると考えれば、ホテル代は、2倍、従業員の賃金は、2倍になり、インフレになります。
つまり、最低賃金が2000円になるまでの間、賃金の減少が続くことになります。
しかし、このインフレは、実体経済とは関係がありません。
高橋洋一氏は、「円安上等。1ドル=300円なら成長率20%」といいますが、その内容はこのようなもので、円でみた名目の成長率に過ぎません。ドルでみれば、ゼロかマイナスの経済成長になります。
岸田首相のインタビュー:
ドルでみれば、ゼロかマイナスの経済成長である例は、日本のドル建てのGDPに現れています。
岸田文雄首相は2024年4月17日、東京の首相官邸でNewsweekの独占インタビューに応じました。
インタビューのタイトルは、「単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日本経済の現実...物価対策、移民政策への考えとは? 」なので、Newsweekは、日本のGDPがドイツに抜かれた点に大きな関心があります。
以下、一部を、要約して引用します。
<
Q:(NW)──日本のリーダーとして、優先的に取り組んでいる重要な課題は何か。
A:(岸田)私にとって最大のチャレンジは、経済であり、外交と安全保障に関する問題だ。
私は、総理大臣となって以来、「新しい資本主義」(賃上げを契機とした成長と分配の好循環を生み出し、それによって消費が拡大し、企業の投資意欲や賃上げ意欲がさらに高まることを目指す政策)を推進している。
その結果、日本経済は30年ぶりに、賃金の上昇や民間投資の大幅な増加が見られる。株式市場も史上最高値を更新している。
日本がデフレから完全に脱却し、経済が成長志向の新たなステージへと向かうことを期待したい。
Q:(NW)日本は経済規模でドイツに追い抜かれ、1960年代以降で初めて世界トップ3の座から転落した。これは短期的な問題だろうか。
A:(岸田)昨年はドル換算の名目GDPで日本はドイツに追い抜かれた。為替レートの変動や、ドイツのほうが日本よりも物価上昇ペースが速いことが、この主な理由だと思う。
日本では過去30年にわたって「コスト削減型」の経済が続き、投資も賃金も減る一方だった。そういう「縮み志向」の経済だったから、このように停滞が長引いている。
日本経済には、明るい兆候や明るい材料が確認されている。このような経済の好循環が持続すれば、来年に向けて日本経済は再び活気を取り戻せると、私は思う。
その一方、経済への長期的な影響を考えれば人口の減少は、重要な問題だ。
<< 引用文献
単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日本経済の現実...物価対策、移民政策への考えとは? 2024/05/04 Newsweek トム・オコナー
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2024/05/gdp4_1.php
>>
岸田首相は、アベノミクスを継承しています。インフレになれば、経済成長すると考えています。日銀と同じように「合理的期待形成理論」を信奉しています。「縮み志向」の経済だったから、このように停滞が長引いているという発言は、「合理的期待形成理論」が成り立つというミームになります。
注目すべきは、「ドル換算の名目GDP」です。この単語と「株式市場も史上最高値を更新」をみれば、岸田首相は、リフレ派と同じように円で経済を見ていることがわかります。
岸田首相は、リフレ派のアベノミクスを継承していますので、円安歓迎論です。
経済規模でドイツに追い抜かれた主要因は、円安です。
しかし、岸田首相は、円安が問題であるとは、考えていません。
仮に、1ドル300円になれば、ドル換算の実質賃金は、4分の1になります。
これは、家計から、企業や政府への所得移転になります。
赤字国債の負担を実質減らすことができます。
しかし、その副作用も膨大になります。
2024年は、年金の見直し点検の年になっています。
そこでの見直しは、円であり、円ドルレートは考慮されていません。
仮に、1ドル300円になれば、円での年金の支給額に変化がなくとも、ドル換算の実質年金額は150円からは半分、75円からは4分の1になります。
その効果は、見直し点検の修正のレベルとは比較になりません。
成田悠輔氏は、日本の少子高齢化問題をめぐり「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」などの発言を繰り返し行い、批判をあびました。
しかし、1ドル300円の期待論の年金効果は、成田悠輔氏の集団自決論と同じになります。
同様に、1ドル300円になって、賃金が2倍にならなければ、出生数はほぼゼロになり、人口の減少が促進されます。
政府は2024年度に防衛費にあてるために5117億円の建設国債発行を計画しています。これは、2023度の1.2倍、額にして774億円増になります。政府は、防衛費をGPDの1%から2%にあげる計画です。防衛費は、市場で回転しないお金なので、防衛費の増額は、経済成長にはマイナスになります。
防衛費の増額は、円評価です。ドル換算でみれば、1ドル75円のGDPの1%防衛費と1ドル150円のGDPの2%の防衛費は、同額です。1ドル300円になれば、防衛費をGDPの4%にしなければ、同じ装備はできません。もちろん、防衛費が、GDPの4%になれば、経済は破壊されて、北朝鮮のような国家になります。
ここで、指摘したいことは、1ドル300円になった場合には、広範で、複雑な影響が生じるということです。
このような複雑な問題に対して、エンジニアは、「モデルを作って検討して見なければ、影響を推定することはできません」と発言します。
リベラルアーツのミームの人は、自分には、解決方法がわかっていると主張します。
しかし、エンジニアのミームからは、日本経済が停滞する原因は、リベラルアーツの科学的に間違ったミームにあるように見えます。
経済学者が、どのような推論をするかという点については、小幡績氏の記事が参考になります。
この記事を読むと、多くの経済学者は、エンジニアがついていけないエビデンスのないリベラルアーツの世界であることがわかります。
<< 引用文献
日銀がこれほどまで円安を「無視」する3つの理由 2024/05/04 東洋経済 小幡 績
https://toyokeizai.net/articles/-/752241
>>
円安の効果:
円安の効果については、アベノミクスが始まった時点から、議論があります。
参考文献に、議論の一部を紹介します。
問題は、円安の効果がプラスかマイナスかではありません。
科学の方法が通用すれば、エビデンスをもとに、仮説は検証され、議論は収束します。
天動説か、地動説かの選択は。形而上学では決着がつきません。
天体観測データを説明するために、どちらの理論が適しているかを判断します。
同様に、科学の方法が用いられていれば、円安の効果の議論は、今頃は収束しているはずです。
10年たっても、円安の効果の議論が繰り返されている理由は、エンジニアのミームではなく、リベラルアーツ(人文科学)のミームが用いられていると考えないと、説明できません。
<< 参考文献
アベノミクス円安にメリットはあるのか? 2013/05/19 リチャード・カッツ
https://toyokeizai.net/articles/-/13871
円安は明らかにマイナス、アベノミクスは間違い-野口悠紀雄氏 2014/10/10 Bloomberg 下土井京子、Chikako Mogi
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2014-10-09/ND4EMI6KLVRX01
野口悠紀雄「日本を『円安』で蝕んだ無能政権とマスコミ」2022/04 ZAITEN
https://www.zaiten.co.jp/article/2022/03/post-383.html
>>
田内 学氏は、円安の原因を次のように分析しています。(筆者要約)
<
円安の原因は、2つあります。
1.消費による為替取引
日本製品が競争力を失っていることを表しています。
2.投資による為替取引
投資でもドルを買いたい人が多いことを表しています。
まとめると、消費でも投資でもドルを買いたい人が多いから、円安に動いています。
外国に流れる投資マネーが増える影響は以下です。
投資マネーを有効に活用できれば、外国の会社は新しい技術の研究や新製品の開発ができます。その場合、日本製品はますます競争力を失います。
昨年、貿易・サービス収支は10兆円の赤字でしたが、所得収支(海外からの利子や配当)が30兆円の黒字だったため、トータルの経常収支は20兆円の黒字でした。
経常黒字にもかかわらず、円安が進んでいるので、日本国内には、投資先が不足し、国際市場で競争力のある製品が少ないことがわかります。今後は少子化による人材不足も懸念され、貿易・サービス収支の赤字が膨らみ、経常収支も赤字に落ち込む可能性があります。
外国にどんな製品が売れるかを真剣に考える必要があります。
一般消費者にとって円安は物価高の元凶であり、恩恵を受けているのは外貨に投資できる人に限られています。
>
<< 引用文献
止まらぬ円安の「1200兆円の借金よりヤバい」現実 2024/05/01 東洋経済 田内学
https://toyokeizai.net/articles/-/751402
>>
田内学氏の推論は、因果モデルです。
田内学氏の推論は、エンジニアリングの科学の方法に、合っています。
2024年4月と5月に、歴史的な円安水準に対して、政府は「過度な変動がある場合には、政府が適切な対応をとらなければならない」と市場をけん制しています。
しかし、田内学氏のモデルが正しければ、介入の効果は一時的であり、日銀が利上げをしない限り、円安は止まらないことになります。
田内学氏は、「外国にどんな製品が売れるかを考える必要がある」といいます。
自動車産業は、日本の貿易収支の黒字の大きな部分を占めます。
自動車産業の将来の大きな課題は、EVへの対応です。
遠藤誉氏は、2023年5月16日のニューヨーク・タイムズの<Can the World Make an Electric Car Battery Without China?(中国抜きで世界はEV用バッテリーを製造できるのか?)>という報道を紹介しています。
ニューヨーク・タイムズは中国EVリチウムイオン電池の価格に、他の国は「数十年は追いつけない」と分析しています。
ドイツのフォルクスワーゲンは、同じ最新モデルのフォルクスワーゲンのEV価格が、ドイツ製と中国製では、2倍から3倍異なって、価格が高くなるドイツでは、EVを作っても売れなくなり、ドイツのフォルクスワーゲンは、2023年12月にEVから一時的な「エンジン車回帰」を表明しました。
2024年に、アップルは、アップルカーから撤退しています。
2024年4月に、テスラも安価なモデルから撤退したという話が出ています。
<< 引用文献
中国はなぜ安価なEVを生産できるのか? 2024/04/26 中国問題グローバル研究所 遠藤 誉
米メディアが分析する中国EVリチウムイオン電池の現在地 他の国は「数十年は追いつけない」2024/04/27 中国問題グローバル研究所 遠藤 誉
>>
2024年現在、トヨタのハイブリッド車が、今のところ売れています。ホンダは、EVシフトを明確にしていますが、ニューヨーク・タイムズの記事が正しければ、中国のEVと価格競争に勝つことは困難です。
円安やインフレで、貿易・サービス収支の10兆円の赤字がドル換算で、減少するという因果モデルはありません。
2023年の日本の経常収支は21兆3810億円の黒字です。しかし、内訳を見ると原油価格の高騰などにより貿易収支は6.5兆円の赤字で、デジタル関連収支も5.5兆円の赤字です。
唐鎌大輔氏 は、唐鎌氏が試算したCFベース経常収支で見ると、2023年は約1.8兆円と2年連続の赤字であるといいます。
2023年のサービス収支は3兆2026億円の赤字でして。主な2項目をを見ると、旅行収支を反映するヒト関連収支が3兆3501億円の黒字であるのに対し、デジタル関連収支は5兆5360億円の赤字でした。
唐鎌大輔氏 は、CFベース経常収支というレンズを通してみた日本の実情(より正確に言えば円の需給環境)は「成熟した債権国」というよりも「債権取り崩し国」の方が近いといいます。
<< 引用文献
コラム:日本はデジタル小作人か、仮面の経常黒字国と円安の関係=唐鎌大輔氏 2024/02/24 ロイター
https://jp.reuters.com/opinion/forex-forum/HWYKMWCUMBPMLH2C4SP5H3TZAI-2024-02-20/
>>
ある元日本銀行理事は、次のように発言していました。
「実はデジタル関連のサービスの赤字に驚いている…。インバウンドが再開するのでサービス収支は、かなり良くなるだろうとみんな思っていたら、実はあんまりよくならず、デジタル関連の赤字の拡大が猛烈な勢いで進んでいる。クラウドの使用料とか、AIの使用料…。TBSだっていっぱい払っているでしょ。それがびっくりするスピードで増えている…」
しかし、デジタル関連のサービスの赤字になることは、日本のデジタル産業の実力をみれば、予想可能でした。
元日本銀行理事は、デジタル社会へのレジームシフトを理解していないように見えます。
岸田首相は、デジタル関連分野などの成長分野に補助金を付けるといいます。
しかし、補助金で、ベンチャーの成長企業がそだったというエビデンスはありません。補助金政策の効果は、科学的に否定されています。
いずれにしても、リベラルアーツの法度制度では、科学的な検証のない岸田首相という法度制度の高位にいる人の発言が採用されます。科学の方法を否定すれば、エンジニアからすれば、成功を期待する因果関係はないと言えます。
また、補助金の配布は、利権の政治や中抜き経済を促進するので、市場原理が否定されて、生産性が低下します。
補足:
加谷 珪一氏が、円安の効果について、細かな考察をしています。
詳細は、加谷 珪一氏の考察をお読みください。
コメントしておきます。
第1に、加谷 珪一氏の検討には、「投資による為替取引」は含まれていません。
第2に、加谷 珪一氏は、「昭和の時代には、円安=好景気という図式が成立した」と整理しています。
加谷 珪一氏は、「価格弾力性の高い付加価値が高くない工業製品を、低賃金を武器に大量生産するという戦略がとれた結果、賃上げが行われていたにもかかわらず、円安による増益の効果が、賃上げによる減益の効果を上回っていた」と整理しています。
加谷 珪一氏の整理は、バブル崩壊までの日本経済の運営は上手くいっていたという通説の視点で整理されています。
筆者は、この通説に疑問をもっています。
プラザ合意で、円高にふれた時に、労働組合は、経営者の賃金抑制の要求に応じています。
賃金を抑えれば、企業は内部留保を増やします。より沢山つくれば、それだけ売れる価格弾力性の高い製品を製造している場合には、内部留保は、生産ラインの拡大のための投資に使われます。
しかし、生産が過剰になってくると、内部留保は行き場がなくなり、土地に向かいました。サラリーマンの賃金では、土地は買えないほど高騰しました。賃金抑制に応じなければ、土地バブルにならなかった可能性があります。
バブル崩壊までの日本経済の運営は上手くいっていたという通説は、バブル崩壊までの日本経済の運営は持続可能であったと言いかえることが出来ます。
バブル崩壊までの日本経済の運営は、赤字国債を積み上げていました。
人口ボーナスにあぐらをかいて、積み立て方式の年金を放棄しました。
少子化対策は放置しました。
こう考えると、日本経済が傾く原因は、安定経済成長期に既に、組み込まれていたように見えます。
通説を否定すれば、「昭和の時代には、円安=好景気という図式が成立した」とは言えません。
第3に、ポイントは価格弾力性です。
ドル建ての価格が変わった場合の販売量の変化です。
国際市場がある商品では、同じ機能と品質の製品の価格は、製造国や製造メーカーに関係しない価格に収束します。労働市場を想定すれば労働者の賃金は、競合する途上国と同じレベルまで下がります。
レートが変化した前後の瞬間値と中期的な収束値を区別する必要があります。
問題は、いうまでもなく後者です。
医療等の社会福祉の水準も、途上国レベルまで下げる必要があります。
円安は、楽をして企業の業績を上げる魔法の銀の弾丸ではなく、大きな副作用があり、経済を破壊しています。
途上国と競合しない付加価値の高い製品にビジネスモデルを変える必要があります。
付加価値の高い製品とは、販売価格が高い製品ではありません。
家電は、販売価格が高い製品にシフトして、企業がなくなってしまいました。
家電は、高価で売れない製品にシフトしたのです。
付加価値の高い製品とは、高価でも数が売れる製品です。
iPhoneをイメージすれば、わかると思います。
加谷 珪一氏は、付加価値の高い製品にシフトするには、日本企業の経営を抜本的に変革する必要があるといいます。
円安については、行き過ぎた円安は問題である(適度の円安が望ましい)と発言している経営者が多数います。これは、円安がなければ、ビジネスができないと考えている経営者が多いことを示しています。科学的な経営ができない経営者が多いのです。
<< 引用文献
故安倍首相の発言が波紋…結局、円安は今の日本に「メリット」をもたらすのか? 2024/05/08 現代ビジネス 加谷 珪一
https://gendai.media/articles/-/129354?imp=0
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