注:これは、ジューディア・パール、ダナ・マッケンジー「因果推論の科学―「なぜ?」の問いにどう答えるか」のコメントです。
(15) オブジェクトとインスタンス
1)基本
パール先生は、コンピュータサイエンスの専門家ですから、オブジェクトとインスタンスを理解しています。このテーマは当たり前すぎて、「因果推論の科学」には出てきません。
ただし、日本では、オブジェクトとインスタンスの区別がなされていません。
イーロン・マスク氏は、何故か”X”という変数名がお好きです。
Xは、オブジェクトです。オブジェクト名は、単なる識別子で、名前には意味はありません。
問題になるのは、オブジェクトに対応するインスタンスです。
岸田首相は、就任直後に「新しい資本主義」といいました。その時点では、「新しい資本主義」に、インスタンスはありませんでした。これは、「新しい資本主義」=Xと置いたことになります。
「新しい資本主義」が進んでくると、それは、「円安」の実現であることがわかりました。
「円安」は、Xのインスタンスの一つです。
ここで、「アベノミクス」=Yとおきます。
「円安」は、Yのインスタンスの一つです。
XのインスタンスとYのインスタンスが全て一致していれば、2つのオブジェクトは同じと考えられます。X=Yです。
これは、「アベノミクス」と「新しい資本主義」は、ラベルが異なるだけで、同じオブジェクトであるという意味です。
日本の政治では、中身(インスタンス)が同じでも、ラベルを張り替えれば、中身が変わったと主張する詐欺が横行しています。
これを許容してしまえば、科学的な推論は崩壊します。
100%変わらない日本を簡単に演出できます。
政治資金規正法の改正案でも、ラベルの貼替が行なわれます。
法律は改正され、ラベルは変わりますが、インスタンスは変わりません。
政治家は、「中身(インスタンス)が同じでも、ラベルを張り替えれば、中身が変わったと主張」できると考えています。
自民党は、パーティ券で稼いでいました。
立憲民主党も、法案成立までは、パーティ券を売っていました。
批判されて、パーティを中止したのは、直前になってからです。
パーティ券ビジネスというインスタンスでみれば、自民党と立憲民党の違いは、ラベルの貼替にすぎません。
ただし、立憲民党は、有権者がラベルの貼替に気付いているとは思っていません。
ラベルの貼替えがバレれば、自然科学の分野では、追放されます。
同じデータをつかって、新しい実験であると偽装することは許されません。
偽装がバレれば、過去に掲載された論文に遡って、取り消されます。
国会議員であれば、遡って議員資格を停止されるようなものです。
議員資格の停止から、現在までに、受け取った給与と手当は返納になります。
科学者は、そのようなリスク行動をとることは考えられません。
2)都知事選と巡って
東スポは次のように書いています。
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石丸氏は7日に出演した選挙特番で、インタビュアーの質問を嘲笑したり、逆質問で返した。ネット上では〝話がかみ合わないサマ〟を揶揄した「石丸構文」なるワードも誕生した。
>
<< 引用文献
堀江貴文氏「いちいち答えるのダルい」に米山隆一氏「それが民主主義」“石丸問答”で議論 2024/07/10 東スポhttps://news.yahoo.co.jp/articles/e6d499a879adb6afdb5fd32d5fec2752c90ec8b0
>>
女性自身は次のように伝えています。
<
元乃木坂46のタレント・山崎怜奈氏の質問に対して、石丸氏は遮るように「解決ができない問題を作ってしまってたのが、(小池知事の)あの7つの公約の実態です」とコメントしました。
(中略)
石丸氏は山崎怜奈氏に手厳しい態度をとっていました。
(中略)
山崎怜奈氏「真摯に受け答えようとしている姿勢がすごく素晴らしいなと思いました」と称賛しています。
>
<< 引用文献
「すべてが怖い」石丸伸二氏 逆質問、元乃木坂・山崎を威圧…たった一日で露呈した「話の通じなさ」2024/07/10 女性自身
https://news.yahoo.co.jp/articles/66d40ebbd1dc7e2de8118516fc1fa30c68f3c524
>>
デイリーは、堀江貴文氏の発言を紹介しています。
<
石丸氏を「怖い」とする投稿に対して、堀江氏は「BotとかChatGPTでも答えられるような質問にいちいち答えるのダルいっすよ。(中略)予定調和の女子会トークみたいな内容のないやりとりを延々続ける方が地獄」
>
<< 引用文献
堀江貴文氏 選挙特番で石丸伸二氏が定番質問にガツン→「答えるのダルい」「地獄」 態度出すのは問題指摘に「だからどーでもいい政治家が生まれる」2024/07/10 デイリー
https://news.yahoo.co.jp/articles/ec13820b30c65db492f7c27dae2030679a3274f4
>>
この発言に対して、上記の東スポは、米山隆一氏の発言を紹介しています。
<
立憲民主党の米山隆一衆院議員は10日に更新したXで「それが民主主義ですよね。人ってそういうもので民主主義は全員が質問権がありますから」と堀江氏に直言。
「だるい質問には答えない」は「だるい質問をする奴は排除する」と同義語だと述べ「勿論TPOで、無限に質問が来るSNS等には相応に対応すればいいですが、一定のTVや記者会見なら応えるのが民主主義政治家だと私は思います」と私見をつづっている。
>
何か、問題があると、政治家がテレビに出てきて、専門家をあつめて、よく検討して、対処しますと発言します。この発言には、インスタンスはありませんので、ラベルを作りますという意味しかありません。空き箱です。
つまり、この発言には、情報量がゼロなので、報道には値しません。ラベルの作成や、ラベルの貼替を報道することは、マスコミが、「ラベルを貼り替えれば、中身が変わったと主張する詐欺」に加担することになります。
〝話がかみ合わないサマ〟を揶揄した「石丸構文」や堀江貴文氏の「だるい質問には答えない」は、ラベル貼りを問題にしています。
マスコミと米山隆一氏は、従来通りのラベル貼りが、民主主義政治だと主張しています。
ラベル貼りが、民主主義政治でないと困る人がいて、石丸氏や堀江文氏をパッシングしています。
石丸氏の「解決ができない問題を作ってしまってたのが、(小池知事の)あの7つの公約の実態です」という発言は、オブジェクト(7つの公約)を満足するインスタンスはない(解決ができない問題)という意味です。
7つの公約は理論的には空き箱であるという説明です。
アメリカで、大統領選挙の討論会がありましたが、「ラベルを貼り替えれば、中身が変わったと主張」すれば、落選します。
中身(インスタンス)のない空き箱をマスコミが報道することはありません。アメリカのマスコミは、インスタンスについて質問し、具体的な回答がない場合には、記事にできません。
石丸氏と堀江氏の発言には問題はありますが、「ラベルを貼り替えれば、中身が変わったという主張」を封印する試みである点は無視できません。
これが進むと、中身が劣化しても、ラベルが劣化していなければよいという主張に進化します。
「実質賃金は26か月計測して減少(中身、インスタンス)」に対して、「春闘による賃上げ(名目、ラベル)」で押し切ることができると考える政治家がいます。
「GDPのマイナス成長(中身)」に対して、「企業の収益と株価が高い水準(円建ての名目、ドルでみれば違います)で景気が回復している」と主張する政治家がいます。
これでは、議論になりませんので、民主主義とは言えません。
経済対策も、少子化対策も、全ては議論できなくなり、利権100%の政治が実現します。
マスコミは、ラベルではなく、インスタンス(真実)を報道する社会的責任があります。
マスコミは、間違いを訂正して報道する責任があります。