国産GPTの可能性(2)

1)ITベンダーの動向

 

NECの森田隆之社長は、6月5日、ビジネスで利用するための生成AIの提供を視野に研究開発を進めていることを明らかにしています。

 

NTTは、6月9日に、2023年度中にも独自開発した生成人工知能(AI)を企業向けビジネスとして展開するといっています。

 

6月10日の日経新聞によると、NTTは、アメリカの生成AIより、安価にサービスを提供する計画です。パラメータ数は、30から700億と言っています。



復習しておくと、モデルの進歩とパラメータサイズは、次のようになっています。

 

GPT-1 1億1700万個

GPT-2 15億個

CPT-3 1750億個

GPT-3.5(ChatGPT) 3,550億個

GPT-4  5000億から1兆個(推定)

 

日本で、計画されている生成AIは、全てGTP-3以下のレベルです。

 

また、NTTは、専門分野に特化した生成AIをつくるといっています。

 

しかし、GPTは、大規模なテキストデータを事前学習した後にファインチューニングと呼ばれる各タスクに適した学習をしていく2段階のモデルです。

 

つまり、NTTの言っていることは、基本シオリーを無視しています。

 

NECも、NTTも何ら新しいアイデアはなく、パラメータの規模を小さくするだけです。

 

NTTは、「アメリカの生成AIより、安価にサービスを提供する」といってますが、これは言い換えれば、開発者に高い給与を支払う予定がない(高度人材は使わない)計画であることがわかります。

 

以上から、始める前から、競争優位でないことは自明です。

 

これは、NECとNTTは、政府のお付き合いをしているためと思われます。

 

2)背景

 

NKHによると、岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の実行計画の改訂案がまとまりました。(以下、筆者の要約)

 

 

構造的な賃上げを実現するため、リスキリング=学び直しの支援などを通じた労働市場改革の推進や、新たな産業創出に向けた生成AIの研究開発を強化する。

 

「新しい資本主義」に基づく政策は、30年ぶりの高い水準の賃上げにつながるなど着実に進展している。新たな課題として、労働市場の硬直化や投資の遅れがある。

 

構造的な賃上げには、成長産業への労働移動の円滑化のため、個人のリスキリングの支援を通じて労働市場改革を推進していく。

 

各地で半導体やバイオなどの戦略分野の大規模な産業拠点の立地を促進するため、税制や予算面での支援をする。

 

生成AIについて、新たな産業創出に向けて、研究開発を強化する。

 

政府は与党とも調整した上で、今月中に計画の改訂を決定する。

 

 

日経新聞によると、政府は7日、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の原案を公表しました。

 

 

賃上げ促進と少子化対策を軸とする「分厚い中間層」を再構築する。

 

 

これに対する日経新聞のコメントは以下です。

 

 

脱炭素やデジタルなどの成長投資は新味に乏しく、経済の底上げには力強さを欠く。

 

 

「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」と「新しい資本主義」の区分は、不明です。

 

物価上昇を引いた実質賃金は下がっています。

 

「『新しい資本主義』に基づく政策は、30年ぶりの高い水準の賃上げにつながるなど着実に進展している」というエビデンスはありません。

 

エビデンスを否定すれは、政府の政策に対する信頼は失墜します。

 

太平洋戦争の時に、戦闘で負けても、大本営は敗戦という言葉を禁止して、転進といっていました。

 

現在起こっていることは全く同じです。

 

政府の経済対策では、実質賃金が下がっていますので、経済成長の敗戦です。

 

これを敗戦と言わなければ、問題点の抽出と解決の方向が定まらないので先へ進めません。

 

新しい資本主義実現会議の有識者には、科学を否定しているという自覚があるはずです。

 

しかし、恐らく、科学よりも、忖度が優先しているのだろうと思われます。

 

1990年には、日本は最も成功した社会主義の国と言われ、「分厚い中間層」ができました。

 

それが実現できた理由は、労働生産性の高い工業が輸出で稼いで、その利益を、農業などの労働生産性の低い分門に再配分したからです。

 

2023年現在では、工業の労働生産性が下がって、国際競争力がなくなりました。つまり、利益の分配を求める部門は、ありますが、利益を稼げる部門がなくなりました。その結果、分配はできず、赤字国債で、収入不足を先送りしているだけです。

 

「分厚い中間層」が消えた原因は、技術革新の停止とデジタル社会へのレジームシフトの失敗にあります。

 

NECとNTTは、政府の仕事を受け入れるだけで、GAFAMに勝てる技術力はありません。

 

識者の中には、日本はネットワークの技術赤字だから、国産のクラウドサービスをすべきだと真面目に言っている人もいます。

 

マッチ売りの少女は、温かい暖炉のある部屋を夢見て、死んでいきました。

 

温かい暖炉(クラウドサービスや、生成AI)を、夢見ても、それだけで、温かい暖炉が実現することはありません。

 

政府は、「税制や予算面での支援」をすると言いますが、技術のある人がいなければ、温かい暖炉は実現しません。

 

「税制や予算面での支援」は、過去にも繰り返して来ましたが、効果があったというエビデンスはありません。

 

NECとNTTには、新しいアイデアはありません。つまり、NECとNTTには、新しいアイデアを出せる人材がいない、過去にいた高度人材は、GAFAMに流出していると思われます。

 

今回の「新しい資本主義」には、急遽、「生成AI」が追加されたようです。

 

しかし、2023年6月の時点で、第1波の生成AIは終っています。

 

次のスッテプである生成AIの活用方法の検討が進んで、「ソートアルゴリズムを発見」され、写真修正が広がっています。

 

動画の作成の始まっています。Appleは、Vision Proで、メタバースに新たな展開を仕掛けました。

 

将来を予測して、作戦を立てる必要があります。

 

生成AIが動き出したのは、5年前の2018年です。

 

これから、生成AIの研究を進めて5年経てば、2023年のGAFAMの水準の追いつくかも知れません。

 

しかし、5年後にその技術があっても、経済価値はありません。

 

ものすごい速度で変化しているIT、DX、AIの世界に遅れないように追いつくためには、一見すれば、直ぐに内容が予測できるようなとんでもない理解力を持った高度人材をそろえないと勝負になりません。

 

5年前に着手された研究ではなく、5年後に出てくる何かを研究しなければ追いつくことはできません。



引用文献

 

新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/index.html



「新しい資本主義」改訂案 リスキリングや生成AI開発を強化 2023/06/04 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230604/k10014088841000.html

 

賃上げ・少子化対策で「分厚い中間層」再構築 骨太原案 2023/06/07 日経新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA06B1T0W3A600C2000000/

 

GPT-1→GPT-2→GPT-3→GPT-3.5→ChatGPT→GPT-4までの進化の軌跡と違いをまとめてみた 2023/05/01

https://toukei-lab.com/gpt

 

DeepMind、AIで人間考案のものより優秀なソートアルゴリズムを発見 最大70%高速化 2023/06/08 IRMedia

https://news.yahoo.co.jp/articles/7af7b89ab71d2e1a817ab09df5775263e572df32

 

「インスタ」にAI導入計画 写真修正・投稿できる機能開発 2023/06/09 FNNオンライン

https://news.yahoo.co.jp/articles/7eb6126f840762da9221ac198a2f71b15a754121



3)権威の方法と言霊



「新しい資本主義」は、権威の方法であって、科学の方法ではありません。

 

最先端の科学の内容は、非公開です。「生成AI」のようなキーワードが出て来た時点では、主戦場は終っています。



国産GPTについてわかったことは、ほぼゼロから始めるという企業ばかりなので、生成AI開発は、学習にはなりますが、ビジネスにはならないということです。

 

エビデンスを無視して、「新しい資本主義」という言霊にたよれば、マッチ売りの少女と同じ運命になります。