オーナスの経済学(2)国債オーナス(20231211改訂版)

1)人口ボーナス

 

英語版ウィキペディアは、人口ボーナス(Demographic dividend)を次のように説明しています。(筆者要約)

 

国連人口基金(UNFPA)が定義する人口ボーナスは、「主に生産年齢人口 (15 から 64 歳) の割合が人口の年齢構成よりも大きい場合に、人口の年齢構造の変化によってもたらされる「経済成長の可能性」です。

 

総人口に占める労働者の割合が高い場合、人口ボーナスが発生します。これは、より多くの人々が生産性を高め、経済の成長に貢献する可能性があるためです。

 

若年層と老人の間の配当により、「人口学的贈り物」と呼ばれる経済的利益の大きな可能性があると多くの人が主張しています。経済成長が起こるためには、若年層が質の高い教育、十分な栄養、そして健康にアクセスできなければなりません。

 

人口ボーナスの後、人口税

 

適切な政策を導入する緊急性は、「人口ボーナス」の後に依存率が再び増加し始めるという現実によってさらに高まっています。必然的に、「人口ボーナス」を生み出す最も生産的な労働期間を経て形成された人口バブルは高齢化し、退職します。多くの高齢者が後を継ぐより若い世代に依存しているため、「人口ボーナス」が負債となります。世代が進むごとに子どもの数が減り、人口増加は鈍化したり、止まったり、あるいは逆行します。この傾向は、人口税または人口負担とみなされる可能性があります。これは現在、日本で最も顕著に見られます。

 

太字は、筆者がつけたマークです。

 

ポイントは、「若年層と老人の間の配当」、つまり、若年層と老人の間に、所得移転があるということです。

 

発展途上国では、平均年齢が短く、老後の負担は問題になりません。老後の問題よりも、さしあたりの失業や低所得の解消を優先します。

 

若年層が、将来の老後の生活費を貯蓄すれば、若年層と老人の間に所得移転は小さくなります。

 

その比較的高い賃金が、製品価格に転嫁されれば、製品の価格競争力が弱まります。

 

発展途上国の製造業に価格競争力がある原因は、若年層の低賃金にあります。

 

しかし、若年層が、老後の生活に入った場合、現役世代に低賃金であれば、老後の生活費の貯蓄が出来ません。

 

ウィキペディアのいう「適切な政策を導入する緊急性」とは、「若年層と老人の間の配当」をできるだけ早く解消するとともに、若年層が、現役世代に、老後の資金を貯蓄できるように、賃金を上げる必要があることを指します。こうした「適切な政策を導入」を導入しなければ、後年の社会保障費が爆発的に増えてしまいます。

 

人口ボーナスは、人口の変化に伴って起こります。

 

しかし、経済的な国際競争力の視点でみれば、平均寿命が伸びて、老後の生活費を貯蓄しなければならない若年層を低賃金に置くことで、価格競争力をつける方法になります。

 

1960年といったようなある時点の断面で見れば、そこには、「若年層と老人の間の配当」があります。

 

一方、座標系を一人の個人の生涯収入にしてみれば、老後の面倒は見るという口約束の元で、現役世代には貯蓄ができない程に安い賃金で働いたことになります。

 

この不足分(人口税)を後年の現役世代が払えば、「若年層と老人の間の配当」が消えません。

 

後年の現役世代は、人口税をはらった結果、貯蓄ができない程に安い賃金で働くことになる可能性があります。

 

これでは、無限ループに入ってしまいますので、「適切な政策を導入する緊急性」があります。

 

2)人口ボーナスと所得移転

 

人口ボーナスの本質は、低賃金と所得移転にあります。

 

低賃金は、将来の年金(所得移転)を約束することで実現しています。

 

企業の輸出競争力を短期的に見れば、賃金が安く、価格競争力があることは有利です。

 

しかし、そのツケは、後年に、公的年金への税金投入によって、政府が負担することで、成り立っています。

 

つまり、低賃金による企業の製品の輸出競争力とは、政府から企業への所得移転に他なりません。

 

政府から企業への所得移転を大々的におこなって、低賃金を実現すれば、短期的には、価格競争力ができます。

 

これは、世代間の所得移転でもあります。

 

そこで、以下では、「若年層と老人の間の配当」、つまり、若年層から老人に向けて、プラスの所得移転がある場合をボーナス、マイナスの所得移転のある場合をオーナスとよぶことにします。

 

SDGs(持続可能な開発目標)の「持続可能性」に基づけば、ボーナスは、オーナスを経て、均衡に達すると思われます。

 

3)国債ボーナス

 

財務省は、均衡財政を主張していますが、日本の国債は、毎年積みあがっています。

 

これは、国債ボーナスになります。

 

今後、国債を減らすことが必要になると考えれば、その時には、国債オーナスが起こります。

 

野口悠紀雄氏は次の様に指摘しています。(筆者要約)

 

1960年代に、通商産業省外資自由化に備えて日本の産業の再編成を図ろうとし、「特振法」(特定産業振興臨時措置法)を準備した。しかし、当時の日本の産業界は、これを「経済的自由を侵害する統制」であるとして、これを退けました。

 

1990年代の中頃から、競争力を失った製造業を救済するために、政府が介入するようになります。

 

マクロ政策で金融緩和を行い、円安に導きました。

 

経済産業省の指導による産業再編(その実態は、競争力が失われた製造業への補助と救済)が行われました。

 

2000年頃から、世界経済の大転換に対して、産業構造の転換を図るのではなく、従来のタイプの製造業を延命させようとした。

 

<< 引用文献

経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因  2022/11/16 President 野口悠紀雄

https://president.jp/articles/-/63430

>>

円安は、家計から、企業への所得移転になります。

 

その分、労働者の賃金が減りますが、減った賃金は、年金の積み立ての減少になりますので、最終的には、その一部を国が、税金で補填することになります。

 

つまり、産業再編ボーナスが発生しています。

 

産業再編の支出が、赤字国債で賄われる場合には、後年に赤字国債の返済が生じます。

 

つまり、産業再編は、年金への税金の投入と赤字国債の返済というルートを通じて、後年に、産業再編オーナスを生み出します。