レトルトカレーのブランド戦略と目利き

前回は、目利きとブランディングが重要であると申し上げました。

今回は、レトルトカレーを例に、目利きとブランディング戦略を考えてみます。

 

スーパーで、売っているレトルトカレーの価格帯がおよそ次のようになっています。

最安値  100円

中級品  200円

高級品1 400円

高級品2 800円

価格は、おおかまです。例えば、700円であれば、高級品2と考えます。

 

コロナで、引きこもり需要が増えたためと思われますが、最近は、高級品1のクラスの売り場面積が拡大しています。

ここ10年間、日本では、物価がほとんど上がらない、給与は減少する傾向が続いています。

また、円安が進んで、実効レートで言えば、円の価値は半額ぐらいまでさがっています。

食糧とエネルギーの輸入依存度が高いので、ドルベースで考えれば、10年前の円の実効価格で表示すれば、次の価格で、製造販売していると考えられます。

 

最安値  (実) 50円

中級品  (実)100円

高級品1 (実)200円

高級品2 (実)400円

 

これは、どう見ても無理です。現在、100円のレトルトカレーを実のところ売りたいと考えているメーカーは少ないと思われます。あるいは、肉の量を減らすなど、材料の見直しと、コストダウンを行っているはずです。

ここで、問題になる点が、ブランディング戦略です。

メーカーは、味のレベルがほどほどで、利益のでる高級品1を売りたいはずです。

しかし、同じパッケージで、価格を2倍にすると、消費者からは、反発を受けます。

最安値は、味が落ちていますから、売れば売るほど、ブランドイメージを棄損します。

そこで、新しいパッケージで、高級品1のランクの商品を投入して、軸足を、最安値と中級品に、移したいわけです。

実際に、最近のスーパーの売り場スペースを見ると、高級品1へのシフトが起こっています。

ここでの問題は、ブランドと目利きの関係です。高級品1の価格は、最安値の4倍、中級品の2倍ですから、消費者が、それだけの価格差に見合うだけの価値があると判断してくれなければ、売れないわけです。

ブランドに、新シリーズ名を設定をするのは、ネーミングだけなので、簡単です。しかし、新シリーズの内容が高い価格に見合うと消費者が判断してくれるかは、わかりません。

ここで、日本の食品メーカーは、消費者に信頼されていないように思われます。

何故ならば、高級品1のレトルトカレーは、カレーグランプリで優勝したお店や、有名店のカレーがほとんどだからです。これをみると、日本の食品メーカーのブランド戦略は、目利きを信用するという視点では、失敗しています。

逆に、食品のブランディングで成功した例は、コンビニです。

コンビニは、最初は、美味しいおにぎりで、消費者の信頼を得ます。

スイーツは、最初は、低価格商品から、参入していますが、現在では、ケーキ屋さんと同じ価格帯でも、勝負して負けていません。

これは、消費者が、コンビニのスイーツは、試食を繰り返して作っているので外れがない、コンビニは、スイーツについては、信頼できる目利きであると判断しているからです。

ブランディングは、目利きがブランドの価値をチェックして、維持しているという信頼のもとに価値がでます。

マスコミで宣伝をすれば、ブランドの名前の知名度は上がりますが、目利きとして、信頼されるわけではありません。

実は、日本のブランドで、目利きとして信頼されているブランドは、非常に少ないです。

それは、ブランドに属する製品を乱発していることでもわかります。製品を乱発すると、ブランドは、目利きとしては信頼されません。

現在の日本の課題には、目利きを大切にしない点が大きく関与しています。

文化の日には、文化勲章が発表されましたが、過去の事例でみれば、ノーベル賞の授賞者は、文化勲章をもらうことが多くなっています。これは、誰が文化勲章に値するかを目利きで判断することを放棄していることを意味します。逆に、信頼される目利きの賞は、ノーベル賞の登竜門と言われるような賞です。その賞をもらった人で、ノーベル賞の受賞者が多く出れば、その賞は、目利きが選んでいたことになります。

賃金を上げられない原因に、製品価格を上げられないという点が指摘されますが、製品価格を上げられないということは、ブランドの価値が信頼されていないことになります。

自動車メーカーから始まって、大企業で、不祥事や、製品の不具合の隠蔽が頻発しています。このような状態になると、ブランドの価値は大きく棄損してしまいます。目利きがいて、ブランド価値を維持するために、努力しているとは思われないからです。

今年のショパンコンクールでは、反田恭平氏が2位に入賞しています。

1980年の第10回ショパン国際ピアノコンクールでは、イーヴォ・ポゴレリチ氏が、本選落選したのに対して、マルタ・アルゲリッチ氏は、抗議して、審査員を辞任してしまいます。これは、マルタ・アルゲリッチ氏が目利きとして、絶対の自信をもっていたことを示しています。

新聞をみると、最近では、DXの講演会が良く開催されています。スピーカーには、ITベンダーのF社やN社の人が含まれていることが多いです。肩書から見れば、売り上げの大きな大企業で、それなりのポストについているので、有能なDXの専門家と言うことになります。

しかし、GAFAなどの世界的なIT企業と比べると、F社も、N社も、国際競争力があるというエビデンスはありません。つまり、エビデンスを見る限り、目利きとは思われないのです。ここでも、目利きより、肩書が重視されています。

まとめます。

今回は、レトルトカレーのブランド戦略を例に、日本企業の問題点を考えました。

「目利きを大切にする。目利きがブランド価値を保持し、IT企業の場合であれば、将来戦略を決定していく」ようにならないと、価格は上げられませんし、企業の復活はないと考えます。

 

なお、大手スーパーで、一番やすいというプライベートブランドを作っているところもあります。これは、ブランド価値を勘違いしているようにも思われます。

 

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