(ドキュメンタリズムは、ラベリング効果を助長します)
1)ラベリング効果とは
ドキュメンタリズムは、文書の形式が整って入れば、その内容は問わないというルールです。
ラベリング効果は、文書の形式主義の一種です。
利用者が、「内容を調べずに、ラベルをみてXXだから内容が良いと判断する」ことをラベリング効果といいます。
ラベリング効果の例をあげます。
(1)日本製だから品質がよく、安全である。
これは、30年前のヒストリーでは事実であったかもしれませんが、現在では、エビデンスはありません。日本製であるか否かにかかわらず品質をチェックする手順をアーキテクチャに組み込むべきです。
農林水産物では、日本製が良いとして、輸入品より高い価格が設定されます。
つまり、農林水産物の内容ではなく、日本製というラベリング効果によって価格が決まってしまいます。
アサリの産地偽装事件は、ラベリング効果を使って、価格をつりあげていた例です。
産地の偽装事件の後で、産地をより厳密にチェックする方法が検討されています。
しかし、問題の本質は、内容を反映しないラベリング効果が広まっていて、内容の判断ができる情報が付与されていないことです。
日本製に似たラベリング効果に、地元野菜は、美味しいというラベリングもありますが、これも、あてになりません。
筆者は地元野菜のコーナーでは、生産者名を選別しています。
産地の生産組合が、出荷前に品質管理をしている場合もありますが、例外的です。
また、亀山ブランドのテレビのように、ブランド価値は、価格と性能・品質のバランスに左右されます。無条件に、性能・品質がよければ、何でも売れる訳ではありません。
(2)賞をとったから、中身が優れている
オリンピック、ショパンコンクール、ノーベル賞など、権威付けに使われる賞は多数あります。賞をとったその日から、受賞者のレベルがアップする訳ではありません。音楽家の中には、コンクールに参加しない人もいます。また、ショパンコンクールでは、審査がおかしいとして、審査員を辞任した例もあります。コンクール受賞より自分の耳を信じているわけです。
演奏家、シェフ、画家などのクリエーターになるためには、作品を作る技術が必要なことはもちろんですが、良い作品を見極める審美眼も必要です。
例えば、シェフが2種類の料理を試作したとします。
シェフは、その場で、直ぐに、どちらが成功で、どちらが失敗かを判断します。
クリエーターは、このような内容を判断する作業を毎日繰り返していますので、ビジネスとしての受賞の価値は理解していますが、それはアートの価値ではないことを理解しています。
(3)技術スペックのラベリング効果
コンパクトデジカメは、販売が減って、ほぼ、製造がなくなりました。
その原因は、スマホとの競争に負けたためと言われていますが、正確な分析はなされていません。
2013年頃まで、コンパクトデジカメは毎年画素数を増やして、その数字を技術スペックのラベルとて、ラベル効果をつかった販売が行われてきました。その結果、新機種の方が、画質が劣化するという逆転現象がおこり、消費者離れをまねいたとも言われています。
特定の技術スペックをラベルにすることは容易ですが、製品性能の実態を反映しません。実態を反映しないラベリングビジネスはどこかで破綻します。
しかし、日本人は、同調圧力のためか、あるいは、何も考えられないためか、技術スペックのラベリングが大好きです。
現在では、フルサイズセンサーのカメラ、ハイレゾ音源、5Gなどがあります。
(4)SNSのフォロワーの数で判断する
これも、日本のマスコミの好きな手法です。フォロワーの数をラベルにして内容を判断する訳です。
しかし、フォロワーの数は、ビジネスとしては重要ですが、内容と別ものです。
1年くらい前から、アメリカでは、コリーン・フーバー( Colleen Hoover)の恋愛小説が、ベストセラーに並んでいます。2022年10月10日時点で、The New York Times Best SellersのCombined Print & E-Book Fiction部門に6作品、Paperback Trade Fiction部門では、8作品がランクインしていて、どちらも1、2位はフーバーの作品です。ベストセラーリストは15位までなので、Paperback Trade Fiction部門では、1人で、15分の8と過半数を制しています。
テキサス州在住で、結婚して子供がいて、ソーシャルワーカーだったフーバーは、2012年にデビュー作を自費出版して、有力書評ブロガーに無料配布して取り上げてもらうことで大手出版社との契約にこぎ着けています。最近は、TikTokやインスタグラムなどソーシャルメディアに、フーバー作品を読んで感動していている人の動画が投稿されており、その結果、SNSユーザの心をつかんで、ベストセラーを量産していると言われています。
以下に、ベストセラーリストと出版日を掲載してますが、2014年に出版された本が、現在のベストセラーリストにものっています。8年前の本の内容は8年間変わっていませんので、SNSのフォロワーの数や、ベストセラーの印刷部数、本の内容を直接は反映しないことがわかります。
ベストセラーになる本は、内容のよい本かもしれませんが、内容の良い本が全てベストセラーになる訳ではありません。
Combined Print & E-Book Fiction
1位 VERITY (43weeks) 2018/12/10
2位 IT ENDS WITH US (68weeks) 2016/08/02
8位 UGLY LOVE (38weeks) 2014/08/05
11位 NOVEMBER 9 (28weeks) 2015/11/10
14位 MAYBE NOW (2weeks) 2022/09/20
Paperback Trade Fiction
1位 IT ENDS WITH US (74weeks) 2016/08/02
2位 VERITY (60weeks)2018/12/10
4位 UGLY LOVE (62weeks) 2014/08/05
6位 NOVEMBER 9 (46weeks) 2015/11/10
7位 MAYBE NOW (2weeks) 2022/09/20
8位 MAYBE SOMEDAY(11weeks) 2014/03/08
11位 ALL YOUR PERFECTS(24weeks)2018/07/18
14位 CONFESS(12weeks) 2015/03/10
引用文献
全米女性の心を潤す、大ベストセラー「恋愛小説家」コリーン・フーバーって誰?2022/09/02 Newsweek ローラ・ミラー
https://www.newsweekjapan.jp/stories/woman/2022/09/post-747.php
The New York Times Best Sellers
https://www.nytimes.com/books/best-sellers/
2)ラベル効果とブランド
典型的なラベル効果はブランドで、ブランドに価値がある場合もあります。ただし、そのためには、選別が必要です。
(1)ミキモトの真珠
真珠の99.9%は、商品になりません。色、サイズ、艶などを揃えた真珠を並べることで、商品価値が出ます。これは、審美眼が、商品価値に繋がっている例です。この選別には、膨大なコストがかかっています。
(2)ライカのレンズ
ライカのレンズの品質は、伝説化しています。フジフイルムのデジタルカメラは、自社の交換レンズを使うことが原則ですが、例外として、ライカのレンズはマウントできる純正アダプターを販売しています。
パナソニックは、ライカブランドのレンズとカメラをライセンス生産しています。
パナソニックのライカブランドのレンズのセールスポイントは、ライカの光学基準に合格したということです。ライカの光学基準は非公開ですが、特殊なノウハウがあると信じられています。
3)まとめ
ラベリング効果は、ビジネスとしてセールスをあげるためには、重要です。
しかし、ラベルは、内容ではありません。
日本では、ラベリング効果への依存性が強すぎます。
その原因には、文書の形式が整って入れば、その内容は問わないというドキュメンタリズムがあると思います。
ラベリング効果が強すぎると、内容(実態)の改善がおろそかになり、時間が経てば、消費者に見放されてしまいます。