「自然言語処理（ＮＬＰ）」と衆議院選挙の政見放送

衆議院選挙が、月末に迫って、政見放送が、流れています。

政見放送を、テレビで見たり、ラジオで聞いていると、案外、「自然言語処理（ＮＬＰ）」は使えるのではないかと思いました。

というのは、政見放送は、政治家が自らで言葉で語っていることは少なく、ライターが書いた原稿を読み上げていると思われる場合が、ほとんどだからです。

NLPの評価ポイントは、次の2つです。

第1は、キーワードです。

流行（はやり）のキーワードは、「分配」と「成長」です。

「分配」の最大の課題は、分配によって格差が拡大しているという現実です。

これは、年金問題が主要因で、現在の年金システムは、積み立て方式ではなく、働いている世代が、退職世代の年金を支えるシステムになっています。これと、年功型の賃金体系が結びついた結果、「分配」によって、格差が拡大しています。

しかしながら、この点について、言及している政党はありません。

自民党の総裁選では、河野氏が、年金は、税金で負担するという主張をしていました。

財源問題がありますので、今すぐに、税金負担には、できないと思われます。しかし、年金問題の解消は、2、3年では無理で、現状が持続可能ではないので、20～30年かけて、段階的に、解消するしか方策がありません。

このような中期的なビジョンが描けないため、「分配」が、空回りして、実現性がなくなっています。

「成長」の課題は、労働生産性の向上しかありませんが、労働生産性を上げる手段を明示している政権放送も、少ないです。

　筆者は、労働市場全体の問題に手を付けずに、最低賃金を上げることは効率的でないと考えますが、菅政権の時のブレインであったデービッド・アトキンソン氏は、最低賃金の底上げが、労働生産性の向上に効果があるという見解です。韓国の一人当たりGDPが、日本を上回った原因には、最低賃金の底上げが効いたと考えています。

　菅政権の政策は、まだら模様で、統一性がないので、全体を理解しようとすると、座礁してしまいます。しかし、最低賃金については、デービッド・アトキンソン氏の意見を入れて、中小企業の反対を押し切って、底上げをするという方向が、明確でした。

岸政権になって、自由民主党は、政見放送でも、中小企業のサポートはしっかりするといっていますので、これは、最低賃金を上げるつもりがないといっていることになります。最低賃金の底上げはしませんから、労働生産性は上がらず、「成長」はできません。

これは一例ですが、ともかく、多くの政党は、口当たりのよい、キーワードを多数、並べて、それをいれた政見放送の原稿をライターに作らせたとしか思われません。そこには、論理的な、道筋に配慮した痕跡はみられません。

第2は、声の抑揚です。

ライターが書いた原稿を読み上げると、躓いた場合には、取り直しになります。こうして、数回、原稿を読み上げると、普通は、次第に、早口になります。言葉に流れは、よどみがなくなりますが、聞き手に訴える力は、弱くなります。ほとんどの政見放送には、この傾向が見られます。つまり、原稿を読み上げているだけで、話している本人に、自信があるとは思われません。

今回のテーマは、維新の会の松井氏の政見放送を聞いて、考えました。

政見放送の出だしで、松井氏は、いったん、口ごもって、言葉が止まったのです。

それを聞いたときは、とりなおせばいいのにと思いました。

クラッシック音楽では、徹底した撮り直しとつぎはぎ編集で、録音を作り上げるスタイルは、グールドとカラヤンが完成させたと言われています。こうすると、全く傷のない演奏をつくりあげることができます。

しかし、考えてみると、政治家は、演奏家のように、完全にうまくいくまで、徹底して繰り返し演奏することはできません。

つまり、編集をしても、不完全の部分がたくさんのこります。そうすると、下手に編集するとかえって、「自然言語処理（ＮＬＰ）」で、粗が目立つことになります。

これから、日本の政治家は、米国で、オバマ氏が、演説が上手であるということで、大統領候補に上りつめた事例とは、反対に位置していることがわかります。ライブで、上手に話せない人が、編集すると、目も当てられなくなります。

というわけで、政見放送の信頼性を判断する手法として、「自然言語処理（ＮＬＰ）」は、使えると思いました。

追記：

2021/10/28の、22:00と22:12の読売新聞オンラインで、選挙予測が、混乱しています。

22:00は、「自民の単独過半数維持は微妙、立民が議席増・維新勢い保つ…読売・衆院選終盤情勢」ですが、

22:12は、「比例選で自民が堅調さ維持、維新も浸透・立民は伸びず…読売・衆院選終盤情勢」と矛盾しています。