最低賃金と変化の起こし方(6)

格差是正と財源

2021/11/10 の文春オンラインに、阿川佐和子氏の岸田首相へのインタビューが載っています。

要旨は以下です。


巨額の財政出動を求める安倍晋三元総理や高市早苗政調会長らが矢野次官の主張に猛反発し、更迭を求める声も上がる中、岸田総理は矢野次官の処分は「全く考えていません」と明言した。


 

要旨以外にも、注目すべき内容があります。


岸田 アベノミクスは経済成長において大きな成果をあげました。ただ、その恩恵がなかなかトリクルダウンして所得の低い人までおりてこなかった。(中略) 私は低所得層や中間層への分配にも目配りしたい。


 

アベノミクスは経済成長において大きな成果をあげ」たというエビデンスは、ありません。

経済成長していなければ、分配は、ゼロサムゲームになります。「低所得層や中間層への分配」は聞こえはよいですが、赤字国債を発行すれば、それは、将来世代から、現世代への所得移転になります。

岸田首相の当初の金融所得課税の引き上げの提案は、筋が良いとは言えませんが、課税で財源をつくって、所得移転をするものでした。

その場合には、将来世代から、現世代への所得移転にはなりません。しかし、財源がなければ、将来世代から、現世代への所得移転になります。

つまり、時間と空間のフレームワークの前提なしに、議論することはできません。

 

矢野次官の主張に、対しては、次のように言っています。


岸田 いろんな議論があっていいと思っています。ただ、政府の結論が出てから「自分の意見はこうだから」と言うのでは、政府としてけじめがつかない。最後に結論が出たら従ってもらえると、私は信じております。


これは、安倍晋三元総理や高市早苗政調会長らに比べれば穏健です。(注1)

問題は、「最後に結論が出たら従ってもらえる」という部分です。「結論」が正しければ、OKです。

「結論」が間違っていた場合には、「従う」ことは、倫理問題になります。

「結論」が、正しいと納得できるだけの説明が、エビデンスに基づいて行なわれていれば問題はないと思いますが、 “10万円相当の給付”の「結論」に納得できる人が、どれだけいるのでしょうか。

公務員の成り手が減っていますが、納得できない「結論」に従うことはストレスになります。さらに、「主張しただけで、更迭」するという政治家もいますから、希望者は減って当然と思われます。

2021/08/06の東洋経済で、デービッド・アトキンソン氏は、韓国の2018年の(最低賃金の)引き上げは史上3位の引き上げ幅で、韓国でも大変な騒動になったが、影響は、短期で解消し、労働生産性は、日本を上回ったといっています。

2021/11/09のニューズウィークで、金 明中氏は、2022年3月に行われる韓国の第20代大統領選挙の李在明候補の格差是正策を紹介しています。


李在明氏は、京畿道の城南市長に在任していた2016年に城南市に居住している満24歳のすべての若者に四半期ごとに地域通貨で25万ウォン(約23,932円)を年4回(計100万ウォン、約95,728円)「青年配当」という名前で支給しました。また、2018年6月に京畿道知事に当選した彼は2019年から京畿道の24歳のすべての若者に「青年基本手当」を支給する政策を行いました。

李在明氏は最近、大統領選挙の公約として、2024年以降19~29歳の若者に一人当たり年間200万ウォン(約191,456円)を、19~29歳の若者以外の全国民に一人当たり年間100万ウォン(約95,728円)を支給することを掲げています。

また、李在明氏は低い賃貸料で中産階級も30年以上居住できる「基本住宅」を公約として掲げています。

さらに、李在明氏は全国民を対象に長期間(10年~20年)に渡り、最大1000万ウォンまで低金利でお金が借りられる「基本貸出」と、500万ウォンから1000万ウォンまでの金利を一般預金金利より高く適用する「基本貯蓄」等を実施し、格差解消と所得再分配を実現すると表明しています。


 

李在明氏が、大統領になれるかは、わかりませんが、これと比較すれば、岸田首相の格差解消と所得再分配が、見劣りすることは確かです。

 

注1:

政府の政策に反対する官僚を更迭をするのであれば、米国のように、幹部職員は、回転ドアで、政権が変われば、総入れ替えにすれば、済む話です。その場合には、公務員は、ジョブ型雇用で、どの時点で、退職して、再就職しても、各段の不利にならないようにする必要があります。年功型の雇用は、途中で、やめると著しく、再就職が不利になります。年功型雇用を続けて、内閣人事局で人事を回せば、忖度の度合いが強くなります。「更迭をする」という前に、雇用制度を、変えるべきです。回転ドア人事にすれば、更迭問題は、原則は起きません。現在の政策は、定年延長で、逆になっています。

 

  • 岸田総理が“財政破綻論文”矢野次官について明言「処分は全く考えていません」2021/11/10 文春オンライン

https://news.yahoo.co.jp/articles/a39678b3909c3fb0a0684999dc0073a1548ef881

  • 【速報】自公で正式合意 “10万円相当の給付”に「年収960万円」の所得制限導入 2021/11/10 TBS NEWS

https://news.yahoo.co.jp/articles/ec503e9015880a843060ba19e6d6987bfaed874d

https://toyokeizai.net/articles/-/366243

https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2021/11/post-46.php

 

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