中国のビジネスリスクが問題になっています。
日本の財政も危ないのですが、まともな議論がなされていません。GPDに比べて、赤字国債額が大きいのに、破綻しないのは、隠れ資産があるからだという説もあります。だからと言って、無制限に赤字国債を出せるとは思えません。また、夕張市やデトロイト市のように、自治体レベルでは、過去に破綻例があります。
データサイエンスで考えれば、物事が発生するには、複数の原因があるので、エビデンスに基づいて、どの原因から対処すべきか、解決法を比較する必要があります。
安倍政権の時に法人税減税をおこなって、消費税を上げていますので、税収としては、相殺しています。これから、弱者に再配分するといっても、財源はありません。消費税を上げなかった結果、サラリーマンの社会保険料が上がったので、消費税の増税は、サラリーマンには、優しい政策なのですが、労働組合はそういいません。
ロジカルに考えると、わからないことだらけです。
ともかく、問題があったときに、どこかに原因を擦り付けて、スケープゴートにしているように見えます。
SNAが、間違った情報を伝えると言われていますが、このままでいくと、衆議院選挙も間違った情報のオンパレードになりそうです。
さて、中国のビジネスリスクを例に、リスク整理をしてみます。
とり合えず、箇条書きで、整理します。
1)少子化、高齢化で、中国は人口オーナスに突入しています。
つまり、市場経済では経済成長率が低く、政権はもたないので、これから、政治介入は増えます。
2)収奪は、収奪に値する富が形成された時点で起こります。
日本は、今まで、海外から、植民地化されたことはありませんが、その原因は、収奪するような地下資源がなかったからだと言われています。
2021/10/12 の ニューズウィークで、 ビル・パウエルは、次のように伝えています。
日本の飲料大手サントリーホールディングスの新浪剛史社長は、本誌のインタビューでこう語っている。「中国の生産施設を拡張すべきか判断しなくてはならない。当局に没収される可能性があることを承知の上で、さらに投資すべきなのか」
「そのリスクを取るべきなのか、取るべきでないのか。取るとして、どの程度のリスクを取るのか。100億円規模の投資は見送ったほうがいいかもしれない。では50億円なら? これはありかもしれない。どのくらいまでなら没収されても許容できるかを判断する必要がある」
グローバル企業のCEOが対中ビジネスについてこれほど率直に語ることも珍しいだろう。しかし、中国は実際に、自分たちの意に反する決定をした国の企業に報復している。
ここでは、「自分たちの意に反する決定をした国の企業」といっていますが、収奪が起こる時に、つける理由に意味はありません。
収奪が、起こったのは、企業の工場や生産システムが収奪に値する富になったからでしょう。
江戸時代の徳川幕府の御家断絶のときも、建前は、不祥事を起こしたから、お家断絶になると、幕府は言いますが、そもそも、藩をつぶして、直轄領にしたくて、うずうずしていたわけです。理由は、なんでもよかったと思われます。
外国企業が、中国に進出する時には、合弁会社をつくって、株の持ち分は最大でも49%にするルールですから、これは、いつでも収奪できる条件整備をしてきたとも言えます。
同じ記事には、次のように書かれています。
産業ロボットのファナックや、人工知能の開発も手掛ける東芝や富士通などにとって、中国はもはや普通の市場ではない。ハイテク企業は「北京を捕食者と見なし、自分たちの知的財産を何としても守らなければならない」と、日産の元役員(匿名を希望)は語る。
これは、収奪そのものです。技術レベルが上がって、技術の収奪が可能な状況になったのでしょう。
同じ日のニューズウィークは、イギリス金融街のロイズが、過去の奴隷貿易に対する関与を調査し始めたと伝えています。
資本主義は、競争する市場経済で、効率性とチャンスの平等性を保っています。その場合には、ルールを守ることが前提で、そのルールには、温暖化等の環境問題、奴隷貿易等の人権問題が含まれます。
現在の奴隷制度は、表面に出ず、曖昧です。奴隷制度があれば、奴隷が生産した安い製品が、市場で、価格競争に勝ってしまう可能性もあります。こうなれば、最低賃金の引きさげが進み、表向き奴隷制度のない国でも、生活できない人が出てしまいます。これでは、だれも市場ルールを守らないので、市場ルールの順守は、大切になります。
これからは、環境を破壊しながら製品をつくること、CO2を排出しながら製品をつくることも、同じような市場ルール違反になります。
3)中国市場はどうなるか
恐らく、リスクを承知で、経営者が、中国市場や、中国での生産にこだわる最大の理由は、中国市場の大きさにあります。
この問題は、平均化する時間の大きさによります。収奪を前提にすれば、長期的な収益は、大きくならないと思います。それは、大きな利益があれば、かならず収奪が起こるからです。
日本の経営者は、米国以外から収奪された経験がありませんので、国際平均よりリスク意識が薄いと思われます。
4)技術はどうなるか
中国は2015年に、「中国製造2025」と呼ばれる産業政策を発表し、バイオテクノロジー、ロボット、通信など幅広いハイテク分野でトップ企業を育成し、「世界の製造強国の仲間入り」をする計画を立てました。
しかし、閉鎖経済になれば、多様性が失われて、技術開発の速度は落ちます。
日本は、1995年に、科学技術基本法を制定して、科学技術予算を増やしますが、その結果は、惨憺たる状態になっています。
日経新聞に、ノーベル賞を、受賞した、吉野彰氏の「私の履歴書」という連載がのっています。これを見ると、吉野氏は、会社の研究所に勤めて、最初の3件の研究は、それぞれ、2、2、4年かかって撤退しています。つまり、8年間は、全く成果がでていません。これは、人のやっていない分野にチャレンジしているので、当然なのですが、現在の科学技術基本計画では、こうした研究はできません。ほとんどの研究は、予定調和の、研究する前から、何が出てくるか、わかっている課題しか採択されません。
担当者は、こんなに大金を投じて、何も成果が出なくて、どうしているのかと聞かれることを恐れています。一方では、核融合や、核廃棄物処理のように、大金を投じても、成果が出ていない分野もありますから、研究者が生活できる程度の研究費は必要ですが、研究費が多ければ、成果がでる訳ではありません。吉野彰氏が、幸運だったのは、筋の悪い研究から、撤退する自由があったことかもしれません。
「中国製造2025」は、科学技術基本法と同じように、改良型の技術革新には、有効と思いますが、ブレークスルーを作り出すことは難しいと思います。
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中国進出の日本企業は、極めて苦しい立場に立たされている 2021/10/12 ニューズウィーク ビル・パウエル(ワシントン)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2021/10/post-97250.php
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2021/10/post-97252_1.php
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