「ヒストリアンとビジョナリスト」というタイトルは、ヒストリアンでは、問題解決ができないという主張です。
一般に、科学は、帰納と演繹によって、仮説を検証すると信じられています。そして、最初のステップは、過去のデータを集めて、帰納によって法則を発見することであると思っている人が多いです。
しかし、帰納というヒストリアンでは、永久に科学に到達できません。このことは自明です。この間違った方法論が、流布していることが、日本の社会が問題を解決できず、失われた30年になった原因です。問題解決には、ヒストリアンを追放して、科学的アプローチである、ビジョナリストを重視しなければなりません。
「2030年のヒストリアンとビジョナリスト」は、そのことを、具体例を元に論じています。
このように書いても、帰納になじんだ人は、認知バイアスができていて、理解してもらえないと思います。そこで、今回は、有名なラッセルの七面鳥を取り上げます。
ウィキペディアには次の様に書いてあります。
ある七面鳥が毎日9時に餌を与えられていた。それは、あたたかな日にも寒い日にも雨の日にも晴れの日にも9時であることが観察された。そこでこの七面鳥はついにそれを一般化し、餌は9時になると出てくるという法則を確立した。
そして、クリスマスの前日、9時が近くなった時、七面鳥は餌が出てくると思い喜んだが、餌を与えられることはなく、かわりに首を切られてしまった。
これに対するウィキペディアのコメントは「特によくあるのは、早すぎる一般化である」となっています。
つまり、コメントを書いた人は、データを積み上げれば、問題のない一般化が可能であるという視点です。しかし、この場合、いくらデータを積み上げても、永久に、一般化はできません。その理由が、わかりますか。
もしも、わからないようであれば、ヒストリアンに洗脳されています。
「餌は9時になると出てくるという法則」は、七面鳥の飼い主が作ったルールです。人間がつくったものを筆者はオブジェクト・アーティフィッシャルと呼んでいますが、オブジェクト・アーティフィッシャルのデータからは、帰納で法則はつくれません。それは、七面鳥の飼い主は、いつでも新しいルールをつくることができるからです。そして、ここでは、飼い主は、「9時に首を切る」という新しいルールを作った訳です。
そんな、当たり前のことに、とらわれる訳がないという自信のある人もいるでしょう。
例をあげます。
2)携帯電話の売上
2022/02/07のニューズウィークの 丸川知雄氏の記事を元に、2010年までの日本の携帯電話市場を振り返ります。
1990年代から2000年代に至るまで、ヨーロッパが統一して作った携帯電話の通信規格GSMは世界200か国以上で採用されていましたが、日本はGSMを採用せず、日本独自規格のPDCを採用しました。2010年頃にアップルのiPhoneが圧倒的に優位になるまで、GSMを使わないという戦略で、日本は、外国メーカーをブロックしました。その結果、、世界でシェアの高いノキア、モトローラ、エリクソンを押しのけて、日本ではNEC、パナソニック、富士通、シャープなど日本のメーカーの携帯電話機が市場を占めていました。
パナソニックやNECもGSM規格の携帯電話機を作ってヨーロッパや中国で販売していましたが、最盛期のノキアは世界で4億台以上の携帯電話機を生産して販売していたのに対して、日本メーカーの販売台数は数百万台で、販売台数で二桁も差がつていました。
2010年頃に、帰納で考えれば、日本ではNEC、パナソニック、富士通、シャープなど日本のメーカーの携帯電話機が市場で売れていましたので、今後も売れるだろうというトレンド予測になります。これは、ヒストリアンです。
しかし、海外市場で、日本メーカーは全く競争力がなく、GSMを使わないという戦略で外国メーカーをブロックしていたから、ビジネスになっていたわけです。ビジョナリストであれば、日本も、いつかは、世界標準規格になるはずですから、それまでに、ヨーロッパや中国でも、価格競争力のある技術や製品開発をすべきでした。しかし、その時の売り上げで、満足して、技術開発や製品改良を怠ってきたわけです。
1990年頃に、GSMを使わないという戦略で携帯電話を売って、高給取りであった企業の役員は、もしかしたら、草場の陰でお休みかもしれません。
しかし、2010年まで、日本の電機メーカーの業績はよかったと言えないわけです。企業の実態は、見かけの売上ではなく、技術力、製品開発能力、販売能力で見なければならないからです。
外資が株主になった場合、企業はつぶれることが必須な、ヒストリアン経営では、OKはだせません。
そんなことをしたら、七面鳥と同じ未来が待っているからです。
ところが、「物をいう株主」を、非難する人もいます。
3)ヒストリアンの金メダル
宮本 弘曉氏は、日本経済が活力を失った根本原因は、「大企業に入ってダラダラと働くのが一番おトク」だったからだといいます。
城繁幸氏は、「日本人の生産性が低いのはそれが最も合理的だから」といいます。
お二人の言っていることは、ほぼ同じです。
城繁幸氏は、「技術力でも社会の豊かさでもアメリカは今も変わらず世界のトップを走り続ける一方、日本は、株主より従業員の雇用や賃金を重視した終身雇用制度を続けた結果、
日本企業はGAFAどころか中国企業にも分野によっては技術力で後塵を拝し始めており、すでに日本は、賃金では韓国にも抜かれ」たといいます。
2022/02/03のニューズウィークに、ダイアナ・チョイレーバ氏は、習近平式「強権経済」では、中国経済は停滞するといい、その理由を「共産党の要求を満たすために、苦労して手に入れた利益を好きな時に使えない、あるいは取り上げられるなら、そもそも成功を目指す意味はあるのか。功績を認められないのに、努力して金メダルを取ろうとする人はほとんどいないのと同じだ」といっています。
終身雇用制度では、歳をとれば給与は上がりますが、若くして成功を目指して努力して、功績をおさめても所得はあがりません。
ヒストリアンは、金メダルが嫌いなのです。
コロナ集計に、依然としてファックスをつかっています。これは、HER-SYS(ハーシス)の問題なのですが、問題を解決しても、金メダルをもらえないことが分かっているので、誰も、何もしないので、何も起こらないのです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B8%B0%E7%B4%8D
「大企業に入ってダラダラと働くのが一番おトク」日本経済が活力を失った根本原因 2022/02/08 プレジデントオンライン 宮本 弘曉
https://president.jp/articles/-/54393?page=1
日本の労働生産性が低いのって国民性や労働観のせいなの?と思ったときに読む話 2022/01/13 Joe’s Laob
http://jyoshige.livedoor.blog/archives/9941653.html
「中国標準2035」のまぼろし 2022/02/07 ニューズウィーク 丸川知雄
https://www.newsweekjapan.jp/marukawa/2022/02/post-77_1.php
北京冬季五輪は習近平式「強権経済」崩壊の始まり 2022/02/03 ニューズウィーク ダイアナ・チョイレーバ
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/02/post-97994_1.php
今どきファクスって…コロナ集計にアナログの限界、大阪市1・2万人漏れ 2022/02/06 産経新聞
https://www.sankei.com/article/20220206-QEUIA7PF2BLINLSE7XMJVI2LEE/