ノーベル賞とデータサイエンス

地球物理学の気候モデルの先駆者の真鍋先生が、ノーベル賞を受賞しました。

気候モデルに縁のない方は、お気づきにならないと思いますが、気候モデルで表現する世界は、(東経、北緯、標高、時間、属性値)で表記されます。属性値は、温度であったり、気圧であったり、色々と変わりますが、世界とは、(x、y、z、t、v)の地球座標系で表されるデータの集まりです。(注1)

真鍋先生が気候モデルで計算を始めた頃には、このデータセットはなかったので、自分等でつくられています。

その後、温暖化問題に取り組むには、この形式のデータセットが必要であることが認識されたこと、衛星リモートセンシングの発達によって、この地球座標系のデータセットの整備が進みました。

もちろん、過去のデータが、標高のzは別にしても、x、yの全てのメッシュで揃っていることはありませんので、実測データから、補間して、グリッドデータをつくることになります。グリッド化された世界座標系のデータは、気候モデルで利用できますが、この形式にならないデータは、利用できないので、存在価値が、著しく低くなります。

この地球座標系は、GISの発達とともに、地球物理学以外の多くの学問分野に影響を及ぼしています。

Google Mapも地球座標系に乗っています。

こうした点を考えれば、真鍋先生の気候モデルは、地球物理学だけでなく、データサイエンスを通じて、世界に対する認識を変更したとも言えます。

物理学が新しい物理法則や物質を見つけます。地球物理学は、新しい物理法則を見つけることはありません。このため、今まで、地球物理学は、ノーベル賞の対象ではありませんでした。しかし、物理法則を実際に適用するには、データセットとモデルが必要です。気候モデルのような全地球モデルになると、モデルも複雑ですが、データセットを準備することも容易ではありません。全地球のデータセットがなければ、気候モデルは、計算できないのです。

ですから、真鍋先生のノーベル賞受賞は、データの世紀を象徴する出来事でもあります。

残念ながら、日本国内では、欧米に比べると、地球座標系のデータセット整備と公開が遅れていますが、これは、DXの大きな障害にもなっています。

注1:

これは、地球物理学や、GISを扱っている人にとっては、当たり前の前提ですが、哲学や文学を専門にしている人にとっては、驚愕の前提と思われます。

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