デジタル社会へのレジームシフトモデル

(レジームシフトモデルで見ると、現在の日本のDXは成功するとは思えません。)

 

1)レジームシフトモデル

 

ジームシフトモデルは、生態学から借りたものです。

 

しかし、Web4.0や、5Gよりも、はるかに役に立つと思います。

 

Web4.0や、5Gは単に技術進歩を表すだけで、その技術進歩が、社会に与える影響を判断する基準を与えません。

 

技術には、作る側と使う側があります。

 

例えば、4Gのスマホは、日本でも、アフリカの国でも使う側としては、社会に影響を与えています。

 

しかし、作る側の視点でみれば、世界は違ってきます。

 

スマホを4Gで使うとは、スマホのハードウェア以外に、OS、クラウドサービス、アプリ、データベース等がつまったスマホを使うことになります。

 

日本のメーカーやITベンダーは、既に、4Gのレベルにおいて、作る側の視点でみれば、完全に落ちこぼれています。

 

1人あたりGDPはアフリカの国より、日本の方が高いので、スマホの台数や、トラフィックでは、アフリカの国より多くなっていますが、それは、作る側の視点でみれば、どうてもよいことです。キャッシュレス支払いのアプリのように、日本の方が、アフリカの国より遅れている部分もあります。

 

政府の一部には、5Gを飛ばして、6Gを開発すると言っている人もいますが、4Gすらクリア出来ていませんから、言葉遊びにすぎないことがわかります。

 

2)農業=>=工業=>IT産業

 

ジームシフトモデルの長所は、過去のレジームシフトを参考にして、物事を考えることができる点です。

 

日本は、1960から1970年代の高度成長期に、労働者が農業から、工業にシフトしました。

 

太平洋ベルト地帯にある工場で働けば、農業収入より1桁多い収入を得られました。このため労働者は、自ら希望して、転職しました。

 

GAFAなどのIT企業の収入は、工場労働者より1桁多いです。

 

これは、開発したモジュールが頻繁に利用されるからです。使用頻度の低いモジュールを開発しても、収益をあげることはできません。ソフトウェアは一度作れば、少ないメンテナンスコストで、非常に長い間再利用することができます。この性質が、高い収益の源泉になっています。

 

工場を作るために必要な技術は、主に物理学に依存しています。

 

IT産業を作るために必要な技術は、主にデータサイエンスに依存しています。

 

物理学は、少ない知識を使い回します。また、一旦確立した物理学の法則が、時間の経過とともに、無効になることはありません。

 

データサイエンスは膨大なデータとデータに関する知識を取り扱います。データに関する知識(アルゴリズム)は、常に更新されています。古い知識は常に新しい知識に入れ替えねばなりません。新しいビジネスプロジェクトを始めるときに、それが成功する確率は10%以下です。プロジェクトは、常にデータを取ってモニタリングして、その結果を判断して、プロジェクトを改善するか、中止・撤退します。これらの手続きは、概ね、標準化されています。一見、継続可能なプロジェクトでも、期待した程の効率が得られない場合には、プロジェクトが中止されることもあります。

 

要するに、工業とIT産業は、産業構造が、農業と工業の間と同じレベルで異なっています。

 

IT産業は、利益率、働いている人の給与が、工業とは段違いに高いです。

 

つまり、日本には、GAFAのようなIT産業はありません。

 

工場を設計するときに、農家の人を連れてきても、農家には、工場の設計はできません。

 

仮に、その農家が篤農家でもです。

 

農業を6次産業化するという政策もありますが、農家にフランス料理のレストランのレシピの設計ができるとは思えません。これもかなり無理があります。

 

同様に、工業型企業の経営者が、ITプロジェクトを設計できるとは思えません。

 

ウィペディアをみれば、スマホのOSでは過去に、幾多の盛衰があり、現在は、iOSとアンドロイドが90%以上のシェアを占めています。

 

日本企業は、スマホOSの競争に負けたのではなく、過去にレースに参加すらしていません。

 

日本の工業型企業の経営者は、社内のOJTで過去の自社製品の作り方を学んでいますが、データサイエンスが分かるわけでもなく、ITプロジェクトを立ち上げた経験があるわけでもありません。

 

DXというと、経済産業省やITベンダーが、音頭をとりますが、どちらも、IT産業のノウハウがあるわけではありません。

 

こうした理解は、レジームシフトモデルで見るから、言えることです。

 

IT産業が、改良型の工業にすぎないと考えれば、現在の政策で効果が出るはずです。企業の中のコンピュータ技術者の数を増やせばよいという経営です。

 

しかし、情報化の政策を、20年進めても効果がないのですから、筆者は、レジームシフトモデルの方が適切と考えます。

 

AIは、2012年にモントリオール大学が、ディープラーニングを実用化してから始まっています。まだ10年くらいです。ITプロジェクトの多くは、10年やってダメなら撤退、ブレークすれば、ユニコーンになります。10年後に9割は首になりますから、年功型の工業型企業では、できません。

 

明治時代には、明治政府は、日本には科学技術ができる人材がいないということで、御雇外人を導入しました。

 

現代、御雇外人の経営者を入れて、成功している日本企業もあります。

 

少し前であれば、日産のゴーン氏も御雇外人です。ゴーン氏の活動には、光と影があります。

少なくとも、光の部分で見れば、日本人のトップではできない構造改革をしたことは事実です。

 

日本企業にIT産業が育たなければ、人材も資金も日本から流出してしまいます。

 

それが、現在の円安で起こっていることだと思います。