人口減少と産業構造(3)

フォーキャストとバックキャスト(1)

前回は、豊田市 の人口ビジョンを例に取り上げました。

その前には、秋田県の人口減少を取り上げました。

この2つの共通する問題は、フォーキャストになっている点です。

あるいは、今回のコロナ対策も、フォーキャストばかりしていたと思われます。

コロナ対策で、感染拡大した2020年3月頃に、1年後の2021年3月にワクチン接種率を8割にするという目標を設定して、逆算して、何をすべきかを決める方法が、バックキャストです。バックキャストをしていれば、問題が発生した時に、これから、専門家と鋭意検討して、対策を講じますという発言はありえません。1年後までのスケジュールは、これで、現在の達成度は、予定より進んでいる、あるいは、予定より遅れているという返事が出るはずです。英国や米国は、コロナ対策では、バックキャストを使って、ワクチン接種を進めたわけです。日本の対策は、全てフォーキャストです。感染の拡大を見ながら、順次手を打つという方法です。その結果は、なるべくして手遅れになっています。

フォーキャストは、基本的に現状維持なので、変革を嫌います。その結果、対策が後手に回り、タイムアウトになって、問題が解決できなくなります。

1990年頃から、出生率が下がることは予想されていました。産業構造の良いものを安く作る方法では、途上国の追い上げでアウトになることは予想されていました。しかし、30年間フォーキャストし続け、変わらない日本が今あります。

豊田市 の人口ビジョンをみれば、わかりますが、フォーキャストは、オブジェクト・ヒストリカルです。過去の実績をしらべて、延長して、未来を描きます。そこには、大きく方向転換するという選択肢は入りません。さらに、オブジェクト・ヒストリカルには、間違いの再生産が行われる問題点もあります。

バックキャストに必要な手順は、以下です。

クリティカルな問題点を抽出します。

目標の時間を設定して、解決策を作成します。

バックキャストして、年次計画に割り戻します。

総裁選に向けて、高市早苗総務相は、「日本経済強靱(きょうじん)化計画」を掲げています。内容は金融緩和の続きです。

岸田文雄政調会長は「新自由主義的政策の転換」を掲げ、「令和版所得倍増のための分配政策」提案しています。

しかし、2人とも、フォーキャストの罠にはまっていると思います。

岸田文雄氏は、池田内閣の所得倍増計画を、念頭においています。

昭和35年(1960年)に池田勇人内閣は、10年間で国民所得を2倍にすると宣言し、高度経済成長を背景に国民1人当たりの消費支出は10年で2.3倍に拡大しています。

これからわかることは、池田内閣の所得倍増計画は、バックキャストだと言うことです。10年後に所得が倍増するとして、バックキャストして、政策を決めています。この時に、池田内閣は、格差には目をつぶる方針で、「貧乏人は麦を食え」といったとつたえらえています。

中国では、1978年12月18日の中国共産党第11期三中全会(中央委員会第3回総会)で、鄧小平は、「歴史的な転換」である改革開放を打ち出したとされています。

鄧小平の言葉「白猫でも黒猫でもネズミを捕るのが良い猫だ」は、イデオロギーにとらわれず、生産の発展に役立つ方法を評価すべきだという意味にとられることが多いです。社会経済に、資本主義を持ち込むこと、貧富の差の拡大を是認した言葉とも解釈されています。(注1)

バックキャストで成功した、池田内閣や、鄧小平(社会主義のフォーキャストを捨てています)は、貧富差の拡大は一時的に是認しています。これは、バックキャストでは、目標を一つに縛らないと達成ができないためです。

岸田文雄氏の「令和版所得倍増のための分配政策」は、実行困難に見えます。それは、バックキャストになっていないこと、分配政策はゼロサムですから、所得倍増とは無縁だからです。

高市早苗氏も、インフレ2%を引き継ぐようですが、バックキャストであれば、例えば、2年後のインフレ率2%を設定し、2年たっても、計画が達成できなければ、計画の立て直しをします。インフレにならないのに、金融緩和を続けている現在の政策は、フォーキャストしていると考えなければ説明できません。

バックキャストは、仮説と検証、検証できなければ、仮説の修正という手順になりますので、科学的なアプローチです。フォーキャストは、仮説の検証はしませんので、非科学的です。昔の延長で進めるというオブジェクト・ヒストリカルでは、仮説の検証と修正が入らないので、間違いの再生産がなされます。

まとめると、これは、筆者は準備している小説の下調べですが、小説の主題の破綻寸前の自治体の救済問題を扱うには、まず、自治体が、フォーキャストを捨てて、バックキャストに移行していることを確認するところから、物語を始める必要がありそうです。

 

注1:

「白猫黒猫論」は、鄧小平が、1962年7月7日に、共産主義青年団の若者に対して語った言葉のようです。池田内閣の所得倍増論と同じころなので、どこかでつながっているのかもしれません。

 

 

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0797H0X00C21A9000000/

https://news.yahoo.co.jp/articles/1c099d01a199532bdc0039a1439fd938eba470e1

 

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