人口減少と産業構造(2)

人口減少と並んで、社会構造を大きく左右するのが、産業構造です。特に、エネルギー政策、地下資源政策は、地域の社会構造を大きく変化させます。

菅政権下の2021年5月に、2050年までに脱炭素社会の実現を目指す「改正地球温暖化対策推進法」が成立しています。

問題は、「脱炭素社会を実現する方法」と「社会に与える影響」が、ほとんど検討されずに、数字が独り歩きしたことです。(資源エネルギー庁参照)

「脱炭素社会を実現する方法」と「社会に与える影響」は、将来シナリオの検討です。つまり、過去の実績は役にたちません。過去に、依存した思考法を、筆者は、オブジェクト・ヒストリカルの視点として、役に立たないと批判していますが、これは、EXITオブジェクト・ヒストリカルの問題です。

2021/09/08の現代ビジネスで、加谷 珪一氏は、総裁選は、「脱炭素シフトの是非(特に原発の再稼働)は、日本の行く末を左右する重要な決断」だと指摘しています。

今回は、エネルギー政策や産業政策が地域に、与える影響を過去の事例で確認します。

典型的な例が、夕張市です。夕張市の人口は、1960年の11万6908人が最多ですが、その後、石油への転換が進んで、中小規模の生産性の低い炭鉱を中心に閉山が進みます。現在の人口は、7,175 人(2021/09/02)です。

炭鉱に、最新の設備を導入して大規模炭鉱の開発を進めた例が、1975年(昭和50年)6月に出炭を始めた北炭夕張新炭鉱です。しかし、1981年(昭和56年)10月16日 に、ガス爆発事故を起こし、93人が亡くなります。その結果1982年(昭和57年)10月に閉山します。出炭から、7年で閉山というスピードです。

wikiはその影響を、次のように伝えています。


日本の石炭産業は、当時の第二次オイルショックによる石炭見直しの風潮の中で復活の機運もあったが、この事故によってその希望はほぼ失われた。その後も1984年(昭和59年)には三井有明鉱火災事故(死者83人)、1985年(昭和60年)には三菱南大夕張炭鉱ガス爆発(死者62人)と多数の犠牲を伴う事故が相次ぎ、炭鉱の閉山がさらに進んだ。夕張に最後まで残っていた三菱南大夕張炭鉱も、前述のガス爆発事故から4年後の1989年(平成元年)に閉山、これにより夕張から坑内掘り炭鉱がすべて消滅した。


つまり、事故から8年後に、国内の主要炭田と夕張の炭鉱はすべてなくなります。夕張市財政破綻の原因は、エネルギー構造の変化に対応できなかったことです。

東日本大震災の発生前、日本には54基の原発があり、日本で使う電力の30%前後を原子力で賄っていましたが、2021年3月時点で地元の同意を得て再稼働した原発は西日本の5発電所の9基のみです。「2021年度エネルギー白書」の2019年のデータでは、発電量に占める比率は、6.5% です。

地域の産業政策の例を青森県の三八下北地域の歴史でみます、

最初の産業は馬です。 2019/01/21のとわこみゆによって、十和田市と馬の関係を要約すると次になります。


軍部は、自ら牧場の経営に乗り出し1884年明治17年)三本木に軍馬育成所を設置し、1896年(明治29年)に、軍馬補充部三本木支部と名称を改め、太平洋戦争集結する1945年(昭和20年)まで存続します。十和田市(三本木)は、1898年(明治31年)に日本で1番の馬産地になります。1935年(昭和10年)には三本木産馬組合は、軍馬の生産頭数が日本一となります。軍馬補充部三本木支部の用地は、20000haあり、1934年(昭和9年)には200人を超える人が働いています。


簡単に言えば、十和田市は、現在の豊田市のような位置にありました。

次は、上北鉱山の例です。

上北鉱山は、青森県上北郡天間林村(現七戸町)字南天間舘にあり、1940年(昭和15年)に操業開始して、銅と硫化鉄を産出しましたが、鉱石の枯渇により1973年(昭和48年)6月に閉山しています。

青森県内でも、上北鉱山の名前を知らない人も多いですが、 戦時中に産銅量日本一となり「神風銅山」と呼ばれ、最盛期には5000人もの人々が暮らし、かつては小中高校、病院、郵便局、映画館、食品スーパーが存在していました。つまり、鉱山の周辺の山の中に町がありました。冬は雪に閉ざされ、青森市国鉄東北本線(当時)野内駅上北鉱山を結ぶ索道(ロープウェー)が唯一の交通手段でした。上北鉱山の索道は、昭和13(1938)年に野内港までの約19キロが、野内駅までの分索が、昭和15(1940)年に完成しています。索道では上北鉱山から鉱石を運んだほか、鉱山へバケットが戻る際には生活物資を運んでいました。現在は、上北鉱山には、鉱害対策施設があり、数人が、通っていると思われますが、定住人口はゼロです。

これは、筆者の推測ですが、六ケ所村が、原発施設を受け入れた理由には、過去のこうした盛衰を見た年寄りが多かったことが影響しています。

脱炭素シフトが、進めば、原発はなくなると思われます。見方によっては、原発の現状は、炭鉱が閉鎖される時の状況に似ているとも言えます。

六ケ所村は、補助金等で、原発のメリットを少し、受けた段階で、原発から撤退になるかもしれません。

EVシフトが進めば、豊田市も、安泰ではありません。豊田市は、今のところ、人口増加が続いていますが、内燃機関が、EVに変わった場合に、仮に、車の生産台数が同じでも、部品数が減りますし、その結果、雇用も減ります。EVシフトに失敗すれば、人口は減りますし、仮に、EVシフトに成功しても、雇用は減るでしょう。

豊田市の人口ビジョンをみると、次のようになっています。


① 広域の中での豊田市の役割(p.38)

こうした人口集積が減少してしまえば、現状の産業の維持のみならず商業等のサービスレベルの低下を招く可能性があり、これまで築いてきた高水準の社会基盤や生活基盤を維持・活用していくためにも、豊田市単体での人口のみならず周辺自治体を含めた圏域の人口を維持することが重要となる。

将来展望人口(P.41)

全市の総人口は 2030(令和 12)年にピークを迎え、2040(令和 22)年まで概ね 42 万人が維持される。年少人口は 5 万人台が確保され、生産年齢人口は減少するものの概ね 23万人が維持される。 高齢化率は上昇を続けており、2040(令和22)年には31.3%となる。


「圏域の人口を維持することが重要」は希望的観測で、脱炭素シフトが起これば、これは、不可能です。

「達成状況等を検証するとともに、必要に応じて改訂を行う。(P.78)」と、書かれていますが、変化の速度が速い場合には、フィードバックでは間に合わず、フィードフォアードが必要になります。

いずれにしても、海外を見れば、原発回帰は困難なので、脱炭素シフトが、産業構造を変えるでしょう。

2021/09/08のKYODOは、反原発河野氏が、「原発再稼働ある程度必要」と言ったと伝えています。

原発廃止が前提で、延命すると、費用をかけたくないインセンティブがありますから、夕張新炭鉱のような事故が起こる可能性が高くなります。下手をすると、福島原発のような事故がもう一度起こって、そこで、原発は全廃というシナリオもあり得ます。リスクマネジメントが不十分で、オリンピックが行われたことを、2021/09/08のニューズウィークで西村カリン氏が指摘しています。オリンピックは例外で、原発がリスクマネジメントができるとは思われません。

2021/09/05の朝日新聞は、オリンピックとコロナ感染について、「分科会メンバーの舘田一博・東邦大教授は、(中略)バブル外で感染が拡大したことと、大会開催との因果関係は、『科学的に分析するのはなかなか難しい』と指摘」したと伝えています。しかし、これは、統計学の基本に反します。原発で、放射能が漏れたかどうかは、必要な個所に、測定器を設置しなければわかりません。問題は、『科学的に分析するのはなかなか難しい』のではなく、『科学的に分析』できるように、モニタリング設計をしなかった点にあります。原発であれば、測定点が少なかったので、放射能が、もれたかどうか『科学的に分析するのはなかなか難しい』といっていることに相当します。

 

この記事は、今書いている、小説の下調べですから、結論は、現実がSF以上に恐ろしいので、SFは書きにくいということにつながります。

 

  • 河野・進次郎連合 vs 安倍・高市グループ…総裁選を大きく左右する「意外な争点」2021/09/08 現代ビジネス 加谷 珪一

https://news.yahoo.co.jp/articles/c131a3adabe2e83817d561bca1fb4902744039b7?page=1

  • 安全確認の原発再稼働ある程度必要と河野氏 2021/09/08 KYODO

https://news.yahoo.co.jp/articles/5cd1f351c869e02d8e40af413018cfa18e380432

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/09/post-97060.php

  • オリパラの間も収まらなかったコロナの広がり「科学的分析、難しい」2021/09/05 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASP95535XP93ULBJ01T.html

  • 北炭夕張新炭鉱ガス突出事故 wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%97%E7%82%AD%E5%A4%95%E5%BC%B5%E6%96%B0%E7%82%AD%E9%89%B1%E3%82%AC%E3%82%B9%E7%AA%81%E5%87%BA%E4%BA%8B%E6%95%85

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E5%8C%97%E9%89%B1%E5%B1%B1

  • 十和田市と馬の歴史について② 2019/01/21 とわこみゆ

https://towakomyu.com/2019/01/21/%E5%8D%81%E5%92%8C%E7%94%B0%E5%B8%82%E3%81%A8%E9%A6%AC%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E2%91%A1/

https://www.nippon.com/ja/japan-data/h00967/

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2019.html

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2020_1.html

https://www.city.toyota.aichi.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/013/635/01_r0203.pdf

 

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