人口減少と産業構造(4)

フォーキャストとバックキャスト(2)

フォーキャストとバックキャストに関連する話題が、ニュースで、重なったので、チェックしておきます。

「人口減少と産業構造(2)」で、筆者は、「豊田市 人口ビジョン」を例に、次の様に書きました。


EVシフトが進めば、豊田市も、安泰ではありません。豊田市は、今のところ、人口増加が続いていますが、内燃機関が、EVに変わった場合に、仮に、車の生産台数が同じでも、部品数が減りますし、その結果、雇用も減ります。EVシフトに失敗すれば、人口は減りますし、仮に、EVシフトに成功しても、雇用は減るでしょう。


2021/09/09/17:02のJIJIは、「豊田自工会会長『全部EVは間違い』 エンジン車規制強化、雇用減招く 」として、次のように伝えています。


 豊田氏は、温室効果ガスの排出を2030年度までに13年度比で46%削減する政府の目標について「日本の実情に応じていない」と指摘。その上で、エンジン車以外のEVや燃料電池車しか生産できなくなれば、「自動車産業が支える550万人の雇用の大半を失う」と懸念を示した。


つまり、EVシフトで雇用の大半は失われるので、その場合には、豊田市は、夕張市のパターンになる可能性があります。

豊田市の製造業の従事人口は、男性8万人、女性2万人(H29)です。総人口は42万人、生産延齢人口は27万人(H27)です。生産年齢人口は、5年きざみでH17年をピークに減少しています。8+2=10万人の半分が減るとして、5/27=18.5%です。これを9年で割れば、年率2%になります。この変化速度は、秋田県より大きいです。なお、これもバックキャストの思考方法です。

「2030年度までに13年度比で46%削減する政府の目標」は、バックキャストしないと、実施計画に落とし込めません。しかし、フォーキャストしかできない人材が大半です。

フォーキャストをバックキャストに切り変えることは非常にハードルが高いです。その理由は、認知科学にあります。カーネマン流に整理すると次になります。

フォーキャスト ファスト回路

バックキャスト スロー回路

最近、知名度が上がったミネルバ大学では、試験をしませんが、入学試験や期末試験は、制限時間を決めて行うので、ファスト回路だけを評価することになります。スロー回路を伸ばそうと思ったら、期末試験は害があるだけです。同じ問題を解くのに、スロー回路は、ファスト回路の10倍の時間がかかります。

政治家が霞が関の官僚を怒鳴りつけ、左遷をちらつかせて、仕事をさせれば、出て来るレポートはすべて、ファスト回路のフォーキャストになります。日本の官僚は、常に、ファスト回路のフォーキャストをするように圧力を受けています。その結果、頭のリハビリをしなければ、「2030年度までに13年度比で46%削減する政府の目標」を、バックキャストはできません。上司や政治家が、「10倍、時間をかけてもいいよ」と言うとは思われません。

豊田氏の説明は、フォーキャストとしては間違っていませんが、欧米が、バックキャストを仕込んでいる時に、フォーキャストで行けるかは不明です。このまま行くと、ワクチン接種のように、取り残される可能性もあります。

2021/09/09/21:14のJIJIは、サントリーの新浪氏の発言を次のように伝えています。


政府は、社会保障の支え手拡大の観点から、企業に定年の引き上げなどを求めている。一方、新浪氏は社会経済を活性化し新たな成長につなげるには、従来型の雇用モデルから脱却した活発な人材流動が必要との考えを示し、ウィズコロナの時代に必要な経済社会変革について「45歳定年制を敷いて会社に頼らない姿勢が必要だ」と述べた。


定年延長は、社会破棄政策です。これは、バックキャストのできない人が、フォーキャストで、お茶を濁しているだけです。

新浪氏は、現在の政界に受け入れられやすい、バックキャスト(ジョブ型雇用)とファスト回路(年功型雇用)の折衷策を探しているように見えます。しかし、これは、無理筋です。なぜなら、年功型雇用は日本だけなので、国際競争を考えれば、消滅するか、残して貧しくなるかの、いずれかだからです。現在は、後者をとっています。

今までの、定年延長政策について、評価したレポートをみたことがありませんが、筆者は、これは、フォーキャストによる失敗だったと考えています。(注1)フォーキャストの恐ろしいところは、ネズミ講のようなシステムが再生産されることです。

社会が変化する時には、バックキャストが必須です。社会変化に、フォーキャストで対応すると、事故が多発します。事例をあげようと思いましたが、あまりに多いので、やめました。キーワードだけ、並べれば、大学改革、金融政策、少子化対策社会保障など多数あります。あてはならない事例を探すことが難しいです。金融緩和政策に出口戦略がない点が問題だと言われますが、これは、政策には、バックキャストがないことと同じです。

みずほ銀行の混乱は、フォーキャストの問題点のようにも見えます。

注1:

そもそも過去の政策評価をした例が少ないです。

なお、年功型の初期の定年は、50代です。定年延長していなければ、45歳定年制に近いです。定年短縮が考えられかったところに問題の起源があります。定年短縮をしていれば、ソフトランディングで、JOB型に切り替えられた可能性があります。現在は、そのチャンスは、失われています。

 

https://www.city.toyota.aichi.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/013/635/01_r0203.pdf

  • 豊田自工会会長「全部EVは間違い」 エンジン車規制強化、雇用減招く 2021/09/09/17:02 JIJI

https://news.yahoo.co.jp/articles/f3b42917c2f14f01b18cef5b590ea083cd07f3a8

  • 45歳定年制導入を コロナ後の変革で サントリー新浪氏 2021/09/09/21:14 JIJI

https://news.yahoo.co.jp/articles/b35b1c18983ae0f66c7e40ddf144196541319270

  • 解雇無効求めみずほ銀提訴 自宅待機5年「パワハラ」2021/09/09 KYOUDO

https://news.yahoo.co.jp/articles/f524c598aaeaafcf7bdc442a66cf18f1ba2c5d25

  • みずほ、障害止まらず 原因解明途上また失態 2021/09/08 JIJI

https://news.yahoo.co.jp/articles/35fac91e8efdafbbba615d046c62147ecff2c0b7

 

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