デジタル教科書がダメな訳~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(デジタル教科書は、教育の手段です。問題は、教育アプリ開発の目的が喪失していることです)

 

2022/06/23のDIAMOND ONLINEで、ITベンダー業界のトップアナリストである大和証券の上野真氏は、これまで構造改革を続けてきたNEC富士通など大手SIerが再成長のフェーズに入るほか、NTTデータ野村総合研究所といった数年来の勝ち組大手は、さらに盤石な立ち位置を確保sぐ、一方、新興IT系企業は先行き落ち込むと予想しています。

 

これは、2022/05/19のNewsweek藤野英人氏の見立てとは異なります。

 

この問題を論ずる前に、今回は、なぜ、デジタル教科書がダメであると言えるかを説明します。

 

これは、「ベンダーロックイン」にもつながる課題であり、コロナウイルス・アプリが使いものにならない理由でもあります。

 

1)IPとID

 

デジタル教科書は、コロナウイルス・アプリと同じように、通信アプリの1種です。

 

通信アプリの設計は、IPアドレスとIDの設計が基本です。

 

生徒にIDを与えないと、生徒毎、科目毎の進捗状況を把握し、管理できません。

端末(PC)は、IPアドレスを持っています。なので、IDとIPの照合(認証)をどのレベルで行うかを設計する必要があります。

 

生徒が教科を学習するので、生徒と教科は関連付けられ、構造体が定義されます。

 

生徒以外の変数は、教師、教育委員会文部科学省などですが、教師には、担任と教科があり、校長、学年主任などもあります。これらを全て、教師変数にするのか、分けるのか、構造体を使うか、セキュリティレベルをどのようにグループ化するのかの問題があります。

 

教科以外に、遅刻、欠席などのデータ、健康状態のデータも変数化すべきです。

 

虐め等の問題をスクリーニングで把握できるような変数も可能であれば付け加えるべきです。

 

これらの変数が決まれば、変数の間で通信を行うことになります。

 

この仕様であれば、スクリーニングで抽出できるレベルの虐めの予兆は、教育員会も、文部科学省も、リアルタイムで把握できます。ただし、上位機関が、教師を監視するのではなく、手助けすることが基本ですから、情報共有のルールを決めておく必要があります。生徒が、狂言をして、それに振り回されないような工夫も必要です。これはスクリーニングのレベルの問題でもあります。

 

2)開発手順

 

変数や、構造体、通信規約のサンプルコードを作って、公開します。

 

あとは、ベンダー間で、アプリのコンペを行い、上位3から5位のデモアプリを付属学校などの実験校で、実際にテストしてみて、最終的な発注先を決めることができます。

 

この手順であれば、「ベンダーロックイン」は起きません。

 

逆に言えば、大手ベンダーや、天下り先を確保したい省庁は、この手順を避けるはずです。

 

3)問題の根源

 

筆者が言わなくとも、こうした開発手順は、大手ベンダーや、中途採用組のデジタル庁の職員は、知っているはずです。

 

この辺りが、上野真氏と見解が分かれるところだと思います。

 

問題の根源は、目的と手段が逆転しているところにあります。

 

デジタル教科書は、手段にすぎません。現在の学校教育に必要とされていること、解決すべき問題点のリストがあれば、その課題に対して、DXは何ができるか、何をすべきかという、開発仕様がきまるはずです。

 

これは、ビジョンです。こうしたビジョンが出てこないで、目的と手段が逆転したままデジタル教科書を作ることは異常ですが、ヒストリアンが跋扈すれば、そうなることは、繰り返し、説明している事実です。

 

引用文献

 

富士通NECら大手ベンダー復権、新興DX系は先行者利益喪失!IT業界の5年後は「二極化」不可避 2022/06/23 DIAMOND ONLINE

https://diamond.jp/articles/-/304952

 

日本の未来が「おいしい」理由は2000年代のアメリカを見れば分かる 2022/05/19 Newsweek 藤野英人

https://www.newsweekjapan.jp/fujino/2022/05/2000.php