アマゾンに勝てる企業の条件

ベゾスが、CEOを退いたり、アマゾンが、DX(デジタルトランスフォーメーション)を広げたり、ここのところアマゾンの企業活動が注目されています。AppleGoogleも異業種に参入してきていて、経営コンサルタントは、老舗の企業に、対策を提案して、稼いでいるようです。

IT企業が、異業種に参入して、成功する理由を「技術が組織を選ぶ」という言葉で、表現しました。(注1)無生物主語が気になる人もいるとおもいますので、今回は、別の表現を試みます。

ポイントは以下です。

IT企業は、計算論的思考(システムアプローチ)で企業戦略を立てる。

計算論的企業戦略の代表的なものはシステムアプローチです。「システム」という言葉は、コンテキストによって非常に多様な意味に用いられるので、しばしば、混乱のもとになる単語です。ここでは、IT業界で使われることが多い、次の意味で「システム」を使います。

システムアプローチとは、問題解決を行う場合、直接問題を解決せずに、最初に、問題解決のためのツール(システム、メインはソフトウェア)を開発し、次に、開発されたシステムを使って問題を解決する方法です。

つまり、IT業界が他業種に乗り込む場合には、使えるシステムができたので、応用問題として、同じシステムを、新しい問題(他業種)に適用する戦略をとります。

話が抽象的なので、例をあげましょう。地球温暖化のシミュレーションには、ハードウェアは富岳などのスパコンを使いますが、ソフトウェアは、各国の研究チームが持っているシミュレーションソフトを使います。このソフトの開発は、独占ではなく、公開されていますが(注2)、マンパワーと時間がかかるので、新規参入は難しいです。その結果、世界中で、地球温暖化のシミュレーションができるソフトウェアを持っている研究チームは20チームくらいしかありません。寡占になっています。国別にみれは、1か国で2、3チームです。いったん、システムを作れば、気候変動問題がなくならない限りは、国から研究費が流れてきます。つまり、地球温暖化のシミュレーションができるソフトウェアを持っていることは、絶対的な競争優位になって、このシステムのない他の研究チームは、競争できません。

IT企業のシステムも同じような性格をもっています。アマゾンは、クラウドを使ったネット販売システムを、まずは、書店ビジネスで立ち上げます。そして、このシステムをつかって、小売業全般に参入します。このシステムを使って、小売業をするのと、システムなしで小売業をする違いには、温暖化予測を、地球温暖化のシミュレーションができるソフトウェアを使ってスパコンで行うのと、エクセルとパソコンを使って行うのと、同じレベルの差があります。

IT企業が、他業種に参入する場合は、持っているシステムを使えば、絶対的な競争優位に立てると判断した場合か、持っているシステムを使えば、絶対的な競争優位に立てるかを判断する場合です。後者の場合は、適正検査をしているレベルで、成功しなければ、撤退するつもりで行っています。前者か、後者で成功した場合には、競合他業種には、基本的勝ち目はありません。なぜなら、IT企業は、システムを使えば、絶対的優位に立てるからです。競合他業種が、生き残る道は、自らがシステムアプローチで、システムを作り上げるしかありません。(注3)気候変動予測の例で言えば、新たに、地球温暖化のシミュレーションができるソフトウェアを持つという茨の道を選択する方法です。もちろん、地球温暖化のシミュレーションができるソフトウェアに比べれば、ビジネスシステムでは、公開されたライブラリの組み合わせで、システムを組みたてられる部分もあり、このアプローチは不可能ではありませんが、企業経営をシステムアプローチに切り替えないで、対応することは不可能です。つまり、IT化に遅れないように、年功序列を廃して、初任給2000万円で、IT人材を数人採用することでは、まったく、問題解決に、ならないことは自明です。(注4)

まとめ

今回のまとめは、次の2つの表現は、等価であるということです。

  • IT企業は、計算論的思考(システムアプローチ)で企業戦略を立てる。

  • 技術が組織を選ぶ。

 

注1:

社会革命と技術革命

https://computer-philosopher.hatenablog.com/entry/2021/02/16/000000_2

注2:

ソフトウェアは公開されていません。開発が、制限されていないという意味です。

注3:

システムアプローチの特徴は、次の2点です。

  • 順次、問題解決のための新しいシステムを開発し続ける。

  • 開発したシステムが利用可能であれば、適用する分野を限定しない。

この、逆は、次になります。

  • 問題解決のためのシステム(ツール)を限定する。

  • 適用する分野を限定する。

この条件に当てはまる組織を探すより、この条件に当てはまらない組織をさがす方が難しいです。この条件に当てはまってアウトになる組織の話を書こうとしましたが、ここには、書ききれないので、今回はここで、筆をおきます。

なお、IT化の影響の議論では、システムアプローチの問題が言及されることは少ないです。過去の技術革命と全く異なる点は、作成したシステムの汎用性の異常なまでの広さです。例えていえば、過去の技術革命のシステムは「地球温暖化のシミュレーションができるソフトウェア」のように、つぶしが効きませんでした。この点を見落とすと今回の技術革命のインパクトを過少評価することになります。

注4:

巨大IT企業を独占禁止法で取り締まるという話がありますが、独占禁止法で、制約をかけられるのは、データアクセスの部分だけです。ソフトウェアの開発行為は、独占されている訳ではないので、禁止はできません。巨大IT企業のソフトは、ハードウェアで言えば、アップル本社のような巨大建築群に匹敵しますが、ソフトウェアなので、形を見ることはできません。また、何が存在するのかも、部分情報しか流れてきません。実在するエル・ドラードといってもよいかもしれません。巨大IT企業と競争できる企業は、エル・ドラード(問題解決システム)の姿が見える企業だけになります。その面では、データサイエンスアプローチに類似しています。