アーキテクチャ(23)

工業社会のアーキテクチャと風のビジネス

(デジタル社会ヘノレジームシフトの最大の障害は、工業社会のアーキテクチャのクリアです)

 

1)工業社会のアーキテクチャ

 

風のビジネスの起源は工業社会のアーキテクチャです。

 

工業社会のアーキテクチャは多くの日本人の者の思考パターンを支配しています。

 

工業社会は、大量生産です。ソフトウェアはなく、ハードウェア中心です。

 

1-1)日本の工業化

 

日本は、高度成長期前は、農業国で、工業化に遅れていました。

 

工業化に必要なノウハウは、既にどこかにあり、それをコピーするか真似することが、経済成長への最短距離と思われていました。前例主義、ヒストリアンはこの時代のアーキテクチャです。

 

工業は、材料を輸入して、基本国内で、加工して輸出する加工貿易でした。輸出品は、欧米のオリジナルのコピーですから、輸出が成功するためには、製品が安いことが必要条件でした。

 

まとめれば以下です。

 

加工方法:欧米のコピーとその改良

材料:輸入

製品:輸出

エネルギー:輸入

労働力:安価で均一

 

実例を考えます。

 

(1)カラーフィルム

カラーフィルムは、アメリカのコダックが開発しました。日本では、富士、サクラなど後発メーカーがカラーフィルムを作ります。コダックは、最適な薬品の混合比の特許をもっています。日本のフィルムメーカーは、この特許に触れない範囲で、カラーフィルムを作りますので、コダックよりは、安いが、色のりが少し悪いカラーフィルムからスタートします。1990年頃には、改善効果が出て、コダックと遜色ないレベルになりましたが、最初は、安価なB級品でした、

 

(2)汎用計算機

汎用計算機はIBMが商品化します。日本は、通産省が電機メーカーを指導して、汎用計算機の国産化を目指します。ビジネスとして成功したメーカーは、IBM互換機を作っていたメーカーですが、1982年にIBM産業スパイ事件が起こり、以降はIBMにソフトウェアの使用料を支払っています。この例では、ソフトウェアのコピーが困難なことが問題の発端にあります。現代のソフトウェアは複雑でもはやコピーはできません。

 

(3)フェィスブックとTIKTOK

フェイスブックTIKTOKは、SNSで業績を伸ばした企業です。その強みは、類似の情報を探し出してリンクするアルゴリズムにあります。この場合には、カラーフィルムのように、まずは、類似の安価なB級品を作って改善するという戦略はとれません。

 

1-2)工業化の思考パターン

 

日本の工業化は、先行する技術のコピーから始まりました。

 

工業化の技術は、大量生産です。

 

この2つが重なって、「(大量生産の)良いものを安く」が経営戦略になりました。

 

その成功体験は、次のような認知バイアスを生み出しています。

 

(1)正解のコピー:正解はどこかにあるので、探してきてコピーすればよい。失敗を減らして、正解にたどり着くことは可能である。

 

(2)均一の規格品:製品は均一で、相手(納入先)に合わせたチューニングは不要である。あるいは、相手に関係なく共通の正解があると考えます。逆に、相手によって全て異なる正解が、相手の数だけあるというビジョンを否定します。

 

(3)考えないことがベスト:日本人は、ゼロから、新しいコンセプト(アーキテクチャ)の製品やサービスを作り出すことはできないので、価格競争(良いものを安く)で、勝負すべきである。

 

(1)+(2)は、前例主義になりますが、これは、間違いです。間違いからぬかられない理由の第1は、工業社会の認知バイアスです。

 

 地方活性化でも、マスコミは、成功事例を紹介します。これは、「(1)正解はどこかにあるので、探してきてコピーすればよい」という前提の上に成り立っています。「(2)相手によって全て異なる正解が、相手の数だけあるというビジョン」は、大前提で否定しています。

 

データサイエンスのモデルでは、一般に、データは、「共通部分+個別部分+ノイズ」からできていると考えています。

 

(3)は、新しいアーキテクチャの構築は、(3)を意味しますが、これは効率が悪いとして避けられます。

 

あるいは、目的が消失して、手段が目的化しても気にしないスタンスです。

 

2)中国との競合

 

1990年頃まで、「(大量生産の)良いものを安く」で、日本経済は大きな成功をおさめます。



2000年以降は、中国の経済が、「(大量生産の)良いものを安く」というポジションをとり、日本経済の競争力はなくなります。

 

これは、1990年頃から予想されていたことで、ゆとり教育も、「(大量生産の)良いものを安く」からの脱却を目指していました。

 

2022年の中国と日本の現状を箇条書きにすれば以下になります。

 

(1)工業社会の企業:工業社会の「(大量生産の)良いものを安く」で、日本の優位が残っているのは、自動車だけで、電機はほぼ全滅してしまいました。自動車については、今後のEVが焦点になっています。

 

(2)デジタル社会の企業:デジタル社会の新企業については、中国は、世界企業ランキングに乗るようなIT企業を育てましたが、日本は、全敗で、大きなIT企業は育っていません。

 

自動車会社は、(1)の「工業社会の企業」で、自動運転の企業は、(2)の「デジタル社会の企業」です。たとえば、IBMは、かつては、汎用計算機のハードウェアとソフトウェアの企業でしたが、現在は、ソフトウェア中心のビジネスソリューションの企業です。GAFAほど成功しているとは言えませんが、それでも、(1)の企業から、(2)の企業に変身することで、デジタル社会へのレジームシフトに転換を図ろうとしているように見えます。

日本の企業では、日立が、IBMと同じようなソフトウェア中心のビジネスソリューションの企業を目指しています。

 

自動車会社、例えば、トヨタIBMと同じように、本業を切り替えられるかは、不透明です。

 

(2)の企業を生み出すには、工業社会のアーキテクチャでは、無理だと考えます。

 

例えば、デジカメでは、画素競争があり、最近では、センサーサイズが大きなフルサイズのミラーレスカメラがよいと売り込んでいます。しかし、これは、「(2)均一の規格品」です。iPhoneiPadであれば、利用者の使い方を学習して、自動的にある程度カスタマイズしてくれます。そのデータはクラウドサーバー上にあり、ハードウェアを買い替えても、更新されます。ところが、デジタルカメラには、学習機能がついていません。デジカメのカスタマイズは、メニューから選ぶだけです。「(3)考えないことがベスト」で、カメラの新しいアーキテクチャをつくるつもりはありません。



3)医療の質と医療費

 

特定の例を上げて批判したいのではなく、同じような傾向があちらこちらで見られることを示したいので、文献は示さず、曖昧な表記をします。

 

前提として、日本の医療水準については、WHOで比較できるようなエビデンスのデータがないので、海外との比較には、曖昧さがあります。

 

医療は、最近では、EBMに基づいていますので、他の分野よりはマシですが、それでも、エビデンスに基づいていない部分があります。

 

さて、政府の歳出に占める医療費は増え続けています。その第1の原因は、高齢者の増加ですが、より効率的で、コストの無駄のない医療が求められています。

 

最近、WHOは、プライマリー・ケアの効果を認めています。

 

プライマリー・ケアは、家庭医が、最初の診断をして、その後、必要であれば、専門医にかかるというシステムです。

 

日本は、患者が判断して、直接、個別の専門医にかかりますので、プライマリー・ケアのシステムを導入していません。

 

そこで、ある人は、日本にも、プライマリー・ケアシステムを導入すべきであると提案します。

 

この人は、問題を調べるだけでなく、解決方法を提案しています。

 

一見すると、この人は、風のビジネスモデルではないように見えます。

 

しかし、海外のプライマリケアは、ヒストリーです。ここには、「(1)正解のコピー」が明らかにあります。

 

海外では、誰かが、最初に、プライマリケアを考えたはずです。つまり、プライマリケアの導入には、「(3)考えないことがベスト」あるいは、考えることの節約があります。

 

日本に、導入するときには、アップルウォッチなどのセンサー時計を使ったAI診断を併用することも可能です。医療費を抑えるのであれば、こちらの方が効果があるはずです。

 

こう考えると、「日本にも、プライマリー・ケアシステムを導入すべきであると提案」している人は、自らが問題解決方法を考えない点で風のビジネスを行っていると考えられます。

 

風のビジネスは、工業社会のアーキテクチャの上になりたっていて、デジタル社会での問題解決をしないアプローチです。

 

しかし、現在の日本社会は、「工業社会のアーキテクチャ」から抜け出せていません。

 

抜け出せない理由は、「(3)考えないことがベスト」にあります。これは、間違えないことがベストと言い換えることもできます。考えれば必ず間違いをおかします。しかし、ヒストリーも最適解ではないので、間違いのひとつにすぎません。ヒストリーを反事実的思考で再構築して初めて、最適解に近づきます。しかし、このように、考えられる人は少ないと思います。