ヒストリアンの欠陥を補正する方法

(反事実的思考で質問することで、ビジョンの作成が促されます)



ビジョンの作成を促す方法を考えます。

 

1)戦略的な提案とセクターの活動

 

1ー1)マスコミ

マスコミは、問題解決のための記事や番組を作成します。記事は、長くとも数人のスタッフが3カ月程度でまとめます。テーマは、比較的短期に解決可能な戦術に関するものが多くなります。記事によっては、客観性より作成効率を重視して、最初に結論を決めて、都合の良いデータだけを並べます。都合の悪い事例はスキップします。更には、アジテートを目指す場合もあります。You Tuberで、読者数を増やすために、違法スレスレの動画を掲載する人がいます。マスコミの場合、違法性が少ないものの、同様のコンセプトの記事を作って視聴率や販売部数を増やすことがあります。

 

1-2)政治家

政治家も、トランプ全大統領のように、敵と味方に分ける手法を使って、議論を封印する手法が普及しています。分断をつくる政治手法ですが、使い方によっては、選挙で大きな効果があり、日本国内では、現在では、広く使われています。

 

マスコミと政治家が連動する活動も多く見られます。

 

1-3)学会と大学

 

学会組織は、本題解決のための提案をしません。学術会議などが数年に一度提案を書くことがありますが、問題の数や複雑さには、対応できていません。

 

また、独立系のシンクタンクは日本にはありません。

 

シンクタンクは、カスタマーの要望にそったレポートを作るだけです。

 

ジョブ型雇用の社会では、シンクタンクが、組織の大幅改革を提案することもありますが、こうした提案は、日本では実現可能性が低いので、国内のレポートには含まれません。

 

1-4)審議会と官庁

 

各省庁の審議会が答申を出しますが、基本的に縦割りです。省庁間を横断する課題は、内閣府が担当しますが、内閣府の審議会が省庁再編を提案している訳ではありませんので、縦割が維持されています。つまり、審議会の答申は、局所最適化(戦術)で、大域的(戦略的)な問題解決を目指していません。また、戦略的な提案は、現在の利権構造を破壊してしまうので、基本的にタブーです。

 

1-5)まとめ

 

以上のように、現在の日本では、戦略的な提案が検討できる社会システムが欠如しています。

 

社会システムが変化しない場合であれば、現在の利権構造の維持の弊害は、社会の安定のメリットと比べると許容できるかもしれません。

 

しかし、デジタル社会に向けたレジームシフトが起こっている状態で、現状を維持を続けることは、発展途上国への転落を、選んでいることになります。

 

2)戦略(ビジョン)作成への道

 

利権構造のような社会構造を強制的に破壊することは、戦争がなければ困難と思われます。戦争の効果も限定的かもしれません。

 

ソ連が崩壊したのは、崩壊した後の社会構造になれば、西ドイツのように豊かになれると考えた国民の数が増えたからです。西ドイツのような資本主義国家になれば、生活が良くなるというビジョン(戦略)が、国民を動かしました。

 

ゴルバチョフは、ソ連を維持しながら、資本主義国家に近い社会をつくるというビジョンを提示しましたが、それは支持されず、失脚します。

 

2022年にロシアのプーチン大統領は、ウクライナ戦争を起こします。ロシアが勝利すれば、ロシアは、戦争によって、ウクライナの社会システムを変えたことになります。2022年9月現在、ロシアの敗戦が濃厚になった場合、国民が、現在の社会システムを支持するのか、変革を求めるのかは、微妙な問題です。

 

社会システムを変革させるドライビングフォースは、軍隊、国民、資本家などです。完全な独裁国家でなければ、政治家は、代表者にすぎません。これは、国外への移住希望者がでているロシアと北朝鮮を比べれば、違いがわかります。

 

社会システムの変革を起こすには、軍隊、国民、資本家などのドライビングフォースが納得するビジョンを提示する必要があります。なお、日本の場合には、軍隊が制限されているので、官僚が軍隊の代わりをしている部分があります。

 

つまり、DXの補助金を増やしても効果はなく、官僚、国民、資本家が納得するDXにより収益が増えるというビジョンを提示できないと、社会構造の改革は進まないことになります。

 

日本のデジタルスキルは、先進国の中で最低ですが、問題のルーツは、DXにより収益が増えるというビジョンを提示できていない点にあります。

 

3)ヒストリアンの欠点

 

日本でビジョンができない理由は、ヒストリアンが跋扈しているからです。

 

霞が関をみればわかりますが、ヒストリアンの前例主義の問題解決の提案の手順には次の2種類があります。

 

(1)過去の国内の成功事例を探す。

 

(2)過去の海外の成功事例を探す。

 

デジタル社会に社会システムがレジームシフトしている場合には、この2つの手法は、無効です。

 

例えば、ドイツは再生エネルギーの割合が4割を超えていますが、日本は、2割なので、増やすべきという主張があります。これは、(2)のタイプの前例主義です。

 

しかし、その主張は、今まで日本が2割に止まった原因を無視しています。そして、多くの場合、(2)の前例主義の主張が通って、効果のメカニズムの不明な補助金が増額されます。補助金は所得移転なので、その分の売り上げは増えますが、社会構造を固定化しますので、補助金をなくすと、元に戻ってしまいます。さらに、大きな問題は、補助金を投入することで、デジタル社会システムへのレジームシフトを遅らせてしまうことです。

 

このロジックは、DX補助金にも当てはまります。つまり、DX補助金が、デジタル社会へのレジームシフトを妨げている可能性が否定できません。DX補助金がなければ、DXの効率の悪い企業は淘汰されます。そして、DXの効率のよい企業に選手交代します。恐らく、こちらの政策の方が、レジームシフトが速くなります。DXの効率の悪い企業は淘汰されますので、失業手当や、リスキリングの予算を増やせば、その方が効果があると思われます。

 

(1)と(2)を使うヒストリアンの課題は、イノベーションを否定していることです。

(1)と(2)で問題解決できれば、独自のイノベーションは不要です。技術は、移入か、輸入で済むことになります。

 

このスタンスでは、科学技術立国も、ベンチャー企業も成り立ちません。

例えば、ベンチャー企業育成のレポートも、(2)によっています。

しかし、これは、ベンチャー企業の最近のヒストリーに他なりません。

無理をして、将来を考えると「最近では、メタバースが流行っている。これからは、メタバースかも知れない。メタバースというキーワードがついていれば、補助金を優先しよう」というような意味不明な政策が進められます。

 

本来、ビジョンを提示するのは、専門家の仕事です。

 

しかし、専門家はヒストリアンであって、ビジョンを提示しません。

 

どうしたら、ビジョンを作れるのでしょうか。

 

4)反事実的思考とシミュレーション

 

地球温暖化問題は、将来予測で、ヒストリーではありません。

 

シミュレーションです。これは、計算物理学の手法です。ITが進んで、世界は、ビジョンで動くようになっています

 

現在では、大気大循環モデルだけでなく、様々なモデルが開発されています。

 

大気大循環モデルを含めて、モデルは、不完全で、改良の余地があります。

 

しかし、多くの分野でモデルが開発されています。

 

例えば、FRBは利上げをしていますが、利上げの大きさは、モデルで検討しているはずです。

 

モデル上で利率を変えて、複数の可能世界を検討して、最終的には、1つの利率を選びます。

 

つまり、現実に起こっていることは、選択された可能世界の1つになります。

 

これは、温暖化のシミュレーションで、CO2の排出規制を変えたシナリオを検討して、シナリオ毎に、予測される気温上昇が異なるのと同じ方法です。

 

このように事実とは、選ばれた1つの可能世界であり、背後には、選ばれなかった可能世界(反事実)があることになります。

 

ビジョンをつくるのは大変手間がかかり、専門家の仕事で、素人が、サイドワークでできるものではありません。

 

一方、専門家に対して反事実(選ばれなかった可能世界)について、説明を求めることは容易です。

 

これは、子供が親に、どうしてなのと質問するのと同じレベルの労力で可能です。

 

ヒストリーをコピーすることは、情報へのアクセスができれば、誰にでもできます。

 

この分野で、人間が、AIに勝てることはありません。

 

一方、反事実の合理性、不合理性を説明することは、内容を理解していないとできません。

 

反事実と事実を比較して、優劣が論じられれば、ビジョン(戦略)が作れるようになります。

 

ここでの課題は、どうして専門家にビジョンを作ってもらえるかということですから、反事実をあげて、説明を求めることで、促進が可能です。

 

たとえば、DXの補助金は、短期的には、DX関連の消費拡大に繋がります。しかし、筆者は、中期的には、マイナスになると考えます。とはいえ、筆者は、素人ですから、この仮説は間違っているかも知れません。

 

DXの補助金があった場合とDXの補助金がなかった場合に、企業の改廃を含めたモデルで、DXが、産業構造を変える効果があるかという説明を求めれば良い訳です。

 

これから起こることは、未定なので、反事実と言えないかもしれません。

 

例えば、今後も円安政策を続けるというシナリオに対して、今後は、円高政策を続けるという政策は、まだ、どちらになるか未定ですので、円安、円高のどちらが、反事実になるかは、時間がたたないとわかりません。

 

一方、政府は、10年間円安政策を続けてきました。10年前に遡って、仮に、円高政策をとっていたらという質問は反事実になります。

 

しかし、この2つの質問に本質的な差はありませんので、これから起こることでも、同時に起こらない条件の比較であれば、反事実と考えてよいと思います。

 

10年前に、政府が、経済モデルで、円安の効果を予測していたとします。3年たっても効果が現われなければ、モデルを改良するか、何らかの対策を講じたと思います。

 

地球温暖化のシミュレーションは、温度上昇を予測していますが、10年間、気温がさがり続ければ、現在のモデルを改良するか、モデルの使用を中断します。これが科学的な態度です。

 

反事実的思考で質問をすることで、ビジョンへの展望が開けます。