COCOAと公共の情報化(1)

県西総合公園のGISデータにかなりがっかりしたので、その問題を、こちらで述べます。また、関連のあるCOCOAのバグについても書いてみます。

パラダイムシフトの方法

パラダイムシフトは、クーンが、学問の世代交代について述べた概念ですか、IT技術が、生活のすみずみまで普及した結果、ビジネスのエコシステムという概念が広がりました。この2つは、対象が異なるのですが、科学技術的な内容は共通なので、世代交代の課題を論ずる場合には、同じものとして取り扱えます。そこで、以下では、パラダイムとエコシステムを同じものとして扱います。

クーンのパラダイム論で、問題となるのは、パラダイムシフトが起こる条件です。これは、エコシステムの交代に対応できる条件といってもよいと思われます。クーンの結論は、パラダイムシフトは、世代交代によってしか起こらないというものです。古い世代が死に絶えて、新しい世代に交代しないとパラダイムは交代しないと考えます。そこで問題になるのが、次の点でしょう。

  1. 古い世代が、パラダイムをシフトするのは、なぜ、難しいか。

  2. 新しい世代は、新しいパラダイムをどこで仕入れるのか。

順に、説明します。

1.を説明できる仮説には、次があると思われます。

刷り込み理論の一般化

第1は、刷り込み理論です。これは、生態学者のローレンツが提案したアイデアで、生物の認知は、最初に出会ったデータでセットされたパラメータに従うというアイデアです。計算論的思考で言えば、あるアルゴリズムのパラメータは、最初に学習したときに最適化されたパラメータを引きずるというものです。ニューラルネットで、恐竜の画像の識別学習をしたと考えます(学習1)。その後で、同じシステムで、例えば、鳥の画像認識(学習2)をしたと仮定します(システム1)。もう一つは、全く、新しいシステムで、ゼロから、鳥の画像認識(学習2)を学習したとします(システム2)。この2つのシステムで、どちらが、良い結果を得られるかという課題です。図式的に整理すれば、次になります。

システム1=学習1+学習2

システム2=学習2

ここで、パラメータαを導入します。

システム=αx学習1+(1-α)x学習2

ここで、α=0.5が、システム1、α=0が、システム2になります。完全な、刷り込みでは、α=1となり、後継学習の効果はありません。

実は、学習内容(システム)には、使いまわしのきく部分があり、その部分の識別が重要な課題になります。つまり、学習1を使いまわしのきく部分と、使い捨ての部分に分けて考えることが必要です。

パラダイムシフトがなければ、αは1に近くてもかまいません。パラダイムシフトがある場合には、使いまわしの出来る部分を無視すれば、αは、ゼロに近いことが必要です。つまり、古い知識は、積極的に捨てて、新しい知識に入れ替える必要があります。(注1)これは、IT関係で、食べている人にとっては、必須のライフスタイルですが、他の分野では難しいでしょう。

留意点は、学習1と学習2の関係です。恐竜は古いエコシステムの世代で反映しますが、その後、絶滅します。恐竜の後継者は、鳥類です。つまり、恐竜が絶滅した時点で、学習1の内容は不要になります。パラダイムや、エコシステムの交代はこうした状況を指します。

二兎を追う者は一兎をも得ず

第2は、経験的なルールである「二兎を追う者は一兎をも得ず」で解釈する方法です。これに限らず、ことわざは、適用する相手を間違えなければ、成立します。問題は、適用する相手の選択法になります。ただ、経験的には、この格言は適用範囲がひろいと思われます。例えば、大前研一は、政治家などの指導者の政策について、優先順位を付けて、トップを1つに絞らない場合には、成功した(達成できた)例はないと言い切ります。簡単に言えば、古いエコシステムを残しながら、徐々に新しいエコシステムに交代するような計画は、やる前から、成功する見込みはないということです。これは、退路を断つということとも通じると思います。

解決方法

クーン流に言えば、古い世代が淘汰されなければならないことになります。組織で言えば、いったん、全員を首にして、世代交代に耐える人だけを、再度採用する方法です。この方法は、一見、無茶に見えますが、過去には実例があります。航空業界です。過去に、航空会社は、会社を破綻させて、新会社をおこし、社員を、ゼロから採用しなおしています。その時の、給与は、以前の半分です。実は、航空会社は、この手を、2回使っていて、最終的には、パイロットやアテンダントの給与は、4分の一に下がります。これに耐えられなくて、破綻したのが日本航空です。

デジタル庁など作らずに、省庁再編したいのであれば、この手を使えば、1年以内に、確実にIT化ができます。コストも下がります。コロナでつぶれる会社が出てきているので、今後は、この手法を使う会社が出てくると思います。

今回は、ここまでです。次回は、「2.新しい世代は、新しいパラダイムをどこで仕入れるのか。」を考えます。

 

注1:

古典を学習すればよいというのが伝統的な教材の選び方です。ただし、最近、個人的には、アリストテレスを読むより、「Pythonによるデータサイエンス入門」みたいな本を読んだ方がずっと良いと感じます。「過学習」や「交差検証法」は、アリストテレスよるずっと有益な概念であると感じます。