エコシステムの切り替えとバスストップ方式~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(エコシステムの切り替えに有効な方法は、バスストップ方式です)

 

デジタルシフトが起こる場合、パラダイムシフトへの対応が問題になります。

 

パラダイムシフトという表現がよく用いられるので、ここでは、最初にパラダイムという用語を用いましたが、エコシステムの切り替えという表現もできます。

 

消費者としては、ガソリン自動車からEVへの切り替えの時期も、エコシステムの切り替え問題です。

 

過疎地域では、人口減少と高齢化によって、ガソリン自動車の台数が急激に減少して、ガソリンスタンドが減少した結果、EVへの切り替えは、都市部よりも早く進んでいます。

 

さて、デジタルシフトによって、エコシステムの切り替えが発生する場合の問題点を考えます。

 

教育であれば、学校で、教室で、人間が講義する方法から、リモート教育になり、あるいは、メタバースの中で、アバターが講義するようになるのかもしれません。

 

デジタルシフトによって、現在行われている仕事の半分以上は、エコシステムの切り替えに遭遇します。

 

現時点で、デジタルシフトによって、何が起こりそうか一番わかっている事例は、自動運転です。そこで、タクシー運転手と自動運転を例に、エコシステムの切り替え時に発生する問題を考えてみます。

 

1)課題=いつ何をすべきか

 

自動運転が時間の問題で、達成されそうなことはわかっています。

 

その時は、タクシー運転手は、高い確率で、失業するでしょう。

 

しかし、取り合えず、今日は、タクシー運転手として働いて、収入を得ることができます。

 

失業する時点は、わかりませんが、仮に5年後とします。

 

そうすると、5年後の失業確率は1になります。現在の確率をゼロとすれば、大まかに考えれば、時間が経過するにつれて、失業確率が上がっていきます。

 

再教育にかかる時間を2年とします。

 

この2年間は収入がゼロになります。あるいは、半分働いて、半分教育を受けるとすれば、4年間は、収入が半分になり、その間に教育を受けることになります。

 

問題は、そのような移行システムが、ないことです。

 

これは、企業の早期退職を見れば明白です。本来なら、4年程度の移行期間を経て退職すれば、ソフトランディングできますが、そのような話は聞きません。

 

早期退職は、働いている人にとっては、エコシステムの入れ替えになります。

 

エコシステムの入れ替えには、余裕を持って予告することが大切です。

 

5年後に早期退職を募集する。その間に、再教育を受けるための補助を出す方が、退職金の割り増しより、ソフトランディングになると思われます。

 

年功型雇用を、ジョブ型雇用に切り替える場合にも、切り替えのスケジュールを事前に公表することで、移行がスムーズに行われると思われます。

 

2)バスストップ方式

 

エコシステムの切り替えのために、事前に切り替えのスケジュールを公表した企業の話は聞いたことがありません。読者は、それは、理想であって、現実にはできないと思われるかも知れません。

 

しかし、データサイエンスの常識は、真逆です。切り替えのスケジュールを事前に公表しないで、エコシステムの切り替えができると考えることは極端な理想論です。

 

バスが進んでいくと、バス停があります。ここで、バスをエコシステムと考えると、バスは、バス停に止まるたびに、顧客を入れ替えます。つまり、システムの修正が行われます。

 

このように、事前に予告した時間に合わせて、システムの修正をする方法(バスストップ方式)は、ソフトウェアの管理では、一般的な方式です。バスストップ方式が普及する前には、大きなバージョンアップがあった時に、ソフトウェアを更新していました。インターネットが普及する前は、ソフトウェアのバージョンアップは、MTなどの磁気媒体を使っていたので、容易ではなかったのです。

 

インターネットが普及して、ソフトウェアのバージョン管理は、インターネット経由で行うことが基本になりました。ウイルス対策などのパッチは随時配布されますが、大きなバージョンアップは、事前に期限をきめたバスストップ方式を使っています。

 

古いバージョンのソフトウェアは、数年前から、メンテナンスの最終期限が決められていて、ユーザーは期限までに他のソフトウェアに切り替えることが推奨されています。

 

バスストップ方式は、理論的に生み出された訳ではなく、試行錯誤と経験から生み出されています。しかし、エコシステムを切り替える方法としては、これよりも有効な方法はないと思います。

 

3)デジタルシフトとバスストップ方式

 

デジタルシフトでは、古いエコシステムから、新しいエコシステムへの切り替えが必須です。この場合、ヒストリアンが多いためか、バスストップ方式を採用している例を知りません。しかし、OSを入れ替えるように、エコシステムを丸ごと入れ替えるデジタルシフトでは、バスストップ方式より有効な方法はないと思われます。



個別の案件で、紙をデジタル化するのは、バスストップ方式ではないので、大局的な効果はありません。バスストップ方式の特徴は、期限を決めて、古いエコシステムを廃棄する点にあります。古いエコシステムを廃棄すると問題が多発しますので、時間的な余裕をもって、事前に、予告することで、混乱を避ける必要があります。

 

繰り返しになりますが、バスストップ方式は、現在考えられる最も軋轢が少ないデジタルシフトの方法です。

 

バスストップ方式をとっていない場合には、デジタルシフトが進んでも、途中で止まってしまい、完了に至ることはないと思われます。