シベリウスのバイオリン協奏曲は、バイオリン協奏曲の中では、最近でも人気があると思われます。交響曲は、1990年頃から、色々な指揮者が取り上げて、一時、人気曲になりましたが、最近は、一時期ほどは、取り上げられなくなっていると思われます。交響曲の場合には、競争相手が多い、激戦区ですから、それもやむを得ないと思われます。一方、バイオリン協奏曲では、コルンゴルドが完全にメジャーになりましたが、それ以外には、20世紀に作られたバイオリン協奏曲に、シベリウスの競争相手は、あまり多くないと思われます。バイオリンは、ロマン派の時代に人気のあった楽器で、ブルッフの頃に、多く作られていますが、その頃の作品は、シベリウスのバイオリン協奏曲の競争相手ではないからです。ショスタコービッチやプロコフィエフの作品も名曲ですが、盛り上がりにおいては、シベリウスにかてません。
ところが、最近、アニヤ・アニヤ・イグナティウスという女流バイオリニストの演奏をきいて、驚きました。ヌブーのように、バイオリンの音色が変化するのです。録音は、アニヤ・イグナティウスの方が、ヌブーより少しまえです。これは、ちょうど、グールドのゴールドベルグが、ロザリン・トゥーレックのコピーであるのと似た事情のように思われました。つまり、ヌブーの演奏スタイルは、アニヤ・イグナティウスの演奏スタイルに似ているのです。アニヤ・イグナティウスは、シベリウスのバイオリン協奏曲を2回録音しています。古い演奏ですからYou tubeで聞くこともできます。バイオリンの音色の変化が楽しめるのは、古い録音の方で、新しい録音には、音色のひらめきはありません。つまり、アニヤ・イグナティウスの2種類の録音を聞いて、若くして、飛行機事故で亡くなった、ヌブーが、仮に長生きしても、あの音色の変化を維持するのは容易でなかったのではないかと思いました。もちろん、ブラームスのバイオリン協奏曲にも名演を残しているヌブーですから、シベリウスのバイオリン協奏曲を再録音しても、名演は残したと思いますが、その時には、音色の変化に頼った表現ではなく、別のスタイルになっていたのではないかと思いました。