アーロン・クロスニックのディーリアスのバイオリンソナタをめぐって

ディーリアスのバイオリンソナタは好きな曲ですが、録音は多くありません。最近のYou tubeを見ると思いのほかに、演奏する人が増えています。一方、最近では、古い演奏を耳にすることもあって、特に、アーロン・クロスニックの演奏を聴いて大変感心しました。これは、1975年の録音で、CDでは出ていないようです。

アーロン・クロスニックの演奏は、ディーリアスのバイオリンソナタの2番と3番に小品を2曲追加したもので、1番は含まれていません。アーロン・クロスニックの録音はおそらく、このLPくらいしか残っていないと思われます。クロスニックをGoogleで検索すると、ジョエル・クロスニック(Joel Krosnick)がヒットします。この人は、ジュリアード弦楽四重奏団チェリストだった人で、膨大な録音に参加しています。一方のアーロン・クロスニックはジョエル・クロスニックとは兄弟だったそうです。

ディーリアスのバイオリンソナタで、最近の録音で入手しやすい演奏は、タスミン・リトルの1997年の録音と思われます。グラモフォンのCD評を見ていますと、リトルは、13歳の時に、エリック・フェンビーにアドバイスを受けたとあります。ディーリアスに詳しくない方に補足しておきますと、ディーリアスは1934年に亡くなっていますが、晩年は失明したため、ディーリアスの晩年の曲は、ディーリアスの口実筆記で、エリック・フェンビーが作曲しています。フェンビーは1997年に亡くなりますが、ディーリアスの死後、半世紀以上も後になります。普通の作曲家であれば、演奏者は作曲家に、演奏を聴いて、アドバイスを受けたことが、演奏の正統性を保証することになりますが,ディーリアスの場合には、フェンビーが作曲家の代わりになるわけです。

ディーリアスのバイオリンソナタは番号付きが3曲、番号なしが1曲あります。第3番の録音について、Delius Societyのディスコグラフィーを表1に要約して示します。最初の録音は、なんと、Baxです。1944年のAlbert Sammonsが名演と言われています。そのあと、1972年にフェンビーが録音するまでは、ほとんど録音されていません。フェンビーは、1973年にRalph Holmesと、1978年にYehudi Menuhinと第3番のソナタを録音しています。そして、この間に、David Stone、Aaron Krosnick、Wanda Wilkomirskと録音が集中してなされています。

ところで、アーロン・クロスニックのことを検索していたら、クロスニックのLPがアマゾンに中古で出ていました。そして、そのレビューをみて、たまげてしまいました。なぜならば、レビューアが、アーロン・クロスニックその人だったからです。

ここに、そのレビューの和訳をのせます。


私はこのレコードのバイオリニストです。 私はこの曲を、今までプレイした他の曲のベストの演奏と同じくらい完璧に演奏できたと思います。 演奏は1975年にフロリダ州ジャクソンビルで行われました。妻はカワイピアノで演奏し、私は当時ゴフリラーバイオリンで演奏していました。 ディーリアスの病気の間に代筆をした故エリック・フェンビーの前で私はこの曲をライブで演奏しました。フェンビーはその演奏が好きだったので、私は少なくともフェンビーの支持を得ています。 私はこの録音を誇りに思っています。 価格がこんなに高いのはうれしいです。 Musical HeritageがLPカタログをCDに置き換えたため、現在のところコピーはほとんどないと思います。 興味のある人のために、私の略歴と録音の背景を申し上げます。私はハワード・ボートライトとジョセフ・フックス、そしてイヴァン・ガラミアンとアルチュール・グリュミオーにヴァイオリンを学びました。グリュミオーのもとではベルギーのフルブライト奨学生として1年間勉強しました。 この録音の時、私はジャクソンビル交響楽団コンサートマスターであり、ジャクソンビル大学のヴァイオリン教授でした。 録音費用は、ジャクソンビルのディーリアス協会から寄付されました。(Aaron B. Krosnick2014年1月6日)


ジャクソンビルはディーリアスがフロリダにわたって、本格手に作曲を始めた場所です。現在の人口は80万人くらいですが、ディーリアスがいたころは、人口1万程度の田舎でした。ジャクソンビルでは、The Delius Festivalsを毎年開いています。ジャクソンビル大学はフェンビーに名誉博士号を送っています。1974年のThe Delius Festivals に、フェンビーは招かれ、"The Life and Music of Delius"という講演を行っています。この年のThe Delius Festivalsの演目には、次があります。

Violin Sonata No. 2 (A. Krosnick, violin; Mary Lou Krosnick, piano)

つまり、アーロン・クロスニックは、1974年のThe Delius Festivalsで、ソナタを、フェンビーの前で演奏して、賛同を得たというわけです。したがって、Delius Societyの録音が1973年は間違いで、The Delius Festivalsの演奏の翌年の1975年に録音されたものと思われます。

アーロン・クロスニックにとっては、この録音は一期一会の録音と思われます。非常に良い演奏です。ディーリアスのソナタでは、ラプソディックなところを、空回りしないように演奏することが非常に難しいのです。この演奏は、ラプソディクではありますが、それが、過度にならず、ディーリアスの曲をいつくしんでいる様子が手に取るように感じられるのです。

Facebookをみると、アーロン・クロスニックは、まだ、ご健在のようです。

 

表1 バイオリンソナタ第3番の録音(Delius Societyから)


May Harrison, Arnold Bax Rec.: 1937 Albert Sammons, Kathleen Long Rec.: Jan. 1944 Ernest Michaelian, Viola Luther Hagopian Rec.: 1954 LP Ralph Holmes, Eric Fenby (recorded on Delius’s piano) Rec.: March 1972 David Stone, Allan Schiller Rec.: Feb. 1973 Derry Deane, Eleanor Hancock Rec.: 1973 LP Aaron Krosnick, Mary Krosnick Rec.: 1973 LP: Musical Heritage Society MHS3221 Wanda Wilkomirska, David Garvey Rec.: 1973-74 Yehudi Menuhin, Eric Fenby Rec.: Oct. 1978 Susanne Stanzeleit, Gusztav Fenyo Rec.: Feb. 1994 Davyd Booth, Michael Stairs Rec.: Aug. 1994 Alexander Barantschik, Israela Margalit Rec.: Oct. 1994 Louise Jones, Malcolm Miller Rec.: 1994 Michel Wagemans, Joaquin Palomares Rec.: 1996 ? Tasmin Little, Piers Lane Rec.: Feb. 1997 Galina Heifetz, David Allen Wehr Rec.: June 1997 Buckhard Hofmann, Alan Newcombe Rec.: Sept. 2003 Midori Komachi, Simon Callaghan Rec.: Feb. 2014


 

 

  • The Delius Festivals The Delius Association of Florida, Inc.

http://thompsonian.info/delfest.html

  • Delius Society Discography Chamber Music

https://www.delius.org.uk/resources/discography/chamber-music/

  • Delius Violin Sonatas Gramophone

https://www.gramophone.co.uk/review/delius-violin-sonatas

  • Frederick Delius : Works for Violin and Piano / Aaron Krosnick, Violin / Ma

https://www.amazon.com/product-reviews/B003H8XVV2

  • Aaron B. Krosnick

https://www.facebook.com/AaronKrosnick