日本のカメラメーカーが全滅する理由

オリンパスがカメラ部門の退職者を950人募集するようです。

ニコンも赤字回復は難しいでしょう。

カメラメーカーだけでなく、日本では、業界の縦割りが進んでいて、その分野で生計を立てていると、分野の中で、同じ情報が廻っているだけで、自分はすっかり専門家だという天狗になってしまいます。

カメラ関係の情報も、部外者からみれば、ありえないようなクレージーな状態になっています。それは、何かというと顧客満足度を無視していることです。

フィルム時代のカメラは、大きな機種更新は10年に1回程度で、レンズはそれより長く使えました。デジタルになって、カメラは2年ごとに更新されます。2年たつと価格は半額で、4年たつと中古では下取り価格はゼロになります。レンズは、電子制御になって、手振れ防止が、本体と連動している場合には、5年から10年で、新型がでて、旧型の下取り価値がゼロになります。電子制御がなくとも、レンズの設計技術とレンズ素材が進歩していますので、古いレンズは新しいレンズに勝てません。

こうした状況のなかで、課題は、どうしたら顧客満足度をあげられるかということです。

カメラメーカーのWEBや数は減ってしまいましたが、カメラ雑誌は、新製品がどれだけ優れているかという記事であふれています。記事を書いているのは、ほとんどがプロのカメラマンで、カメラメーカーの利害関係者です。アカデミックの世界では、利害関係は、バイアスがあるので、論文を投稿できません。一方、カメラ関係の記事は利害関係者の書いた記事しかありません。記事は、2年ごとに、新型のできるだけ高価なカメラを買えば、良い写真が撮れるという扇動にあふれています。

写真の歴史に残る名写真はフィルムカメラで撮影されたものです。これは、現在のデジタルカメラであれば、高級コンデジの画質です。高級機材でよい写真が撮れるわけではないのです。

こうしてカメラ業界の勧めで、大金を払って、カメラを購入しても、良い写真が撮れるわけではないので、カメラの対する顧客満足度が低下します(注1)。その結果、顧客が離れて、スマホでいいということになります。この状態に対するカメラ業界の分析は、コンデジの画質に、スマホの画質が追いついたので売れなくなったというものです。そこには、顧客満足度の視点はありません。

RAW画像の編集ソフトで現在、売り上げ1位はアドビという会社です。かつて、アドビのソフトは高性能でしたが、高価で簡単に購入できるものではありませんでした。その結果、製品の性能は良いが、売り上げが低迷して、会社が傾きます。そこで、アドビは販売戦略を変更して、サブスクリプションモデルでソフトを販売して業績を回復します。高価なソフトを売りつけて、バージョンアップ毎にバージョンアップ費用を徴収するというビジネスモデルは、現在のデジカメにそっくりです。この方法では、2年もして、新バージョンが出ても、顧客は、費用節約のために、古いバージョンのソフトを使い続けて、顧客満足度が低下します。しかも、メンテナンスは古いバージョンも行う必要があるので、メンテナンス費用が減りません。サブスクリプションモデルでは、最新バージョンだけのメンテナンスで済みます。顧客は、不要になれば、1か月単位で契約解除ができます。顧客は、常に、最新版が使えるので、高い満足度が得られます。

サブスクリプションモデルでの販売は1か月500円から2000円程度です。この顧客の支払い費用に対して、顧客満足度を最大にするサービスが設計され、提供されます。月額1000円で、2年更新で、2年で、24,000円、4年で48,000円になります。月額2000円で、2年で、約5万円、4年で約10万円です(注2)。このくらいの価格設定で顧客満足度を最大化することが現在の標準的なビジネスモデルです。赤字であるから、フルサイズの高価なカメラを売ろうとする戦略は、顧客満足度を低下させますから、顧客が離れて、将来の売り上げは確実に低下します。これは、かつて、アドビ社がたどった道です。

ハードウェア中心でサブスクリプションモデルがどこまで可能かはわかりません。非常に高価ですが、iPhoneサブスクリプションモデルの製品があるようです。センサーや、画像処理GPUの交換サービスができるかもしれません。望遠レンズやマクロレンズなど普通の人が頻繁に使わないレンズのレンタルなどを組み合わせることができるかもしれません。なお、IC製品の場合には、スマホもそうですが、大量に販売できるという前提であれば価格が劇的に下がります。これは、ICチップの問題です。ソフトウェアは言うまでもありません。つまり、レンズなど量産効果が効かないハード中心のサービスの在り方を大幅に見直す必要があります(注3)。

まとめますと、耐久消費財でなくなった製品に対して、売り切りモデルでは、顧客は満足度が低下して、離れてしまいます。製品進歩がなくなれば、コモデティ化して、価格のみの競争になります。一方、製品性能が上がっている場合に、顧客満足度を最大化するビジネスモデルは、サブスクリプションモデルと思われます。このボリュームゾーンは月額1000円です。スマホの通信料が現在7000円くらいですが、恐らく、半額くらいまでは下がるでしょう。つまり、ビジネスモデルとしては、デジタルカメラやレンズが耐久消費財ではなくなってしまったので、月額1000円から3000円くらいで、顧客満足度を最大化するデジタルカメラに関連したサービスモデルを構築しないとカメラメーカーは持ちません。これらのサービスは、単独に展開するのではなく、アドビやアマゾンのオプションサービスにしてもよいと思います。サブスクリプションモデルがなく、むやみに高級機材を売りつけて、顧客満足度を低下させるメーカーの将来がないのは自明です。

注1:

良い写真が撮れるカメラの条件は、センサー性能やレンズ性能がよいことだけではありません。この点は、別の機会に論じたいと思います。ただ、少なくとも、現在のカメラメーカーが、センサーやレンズ性能以外に、良い写真が撮れて、顧客満足度があがる指標を見ているとは思えないのです。

注2:

昔のカメラは高価でしたが、10年から20年使えたので、月額に換算すれば、支払い可能範囲でした。また、耐久消費財だったので、中古の価格も崩れませんでした。

 

注3:

レンズ付きフィルムのレンズの例もありますから、レンズは量産効果が効かないというは大昔の話で、プラスチックレンズで共通規格化すれば、レンズの価格が劇的に下がるかもしれません。部品の種類を減らさないと価格は下がりにくいと思います。