3)公開マウント戦略
3-1)マウントの歴史
カメラのマウントは、最初は、レンズを取り付ける枠のサイズでしかありませんでしたが、自動露光、自動焦点が入ってくると、電子制御のための端子が設けられるようになります。
この部分は、リバースエンジニアリングでも、完全に解析できなくなります。
マウント情報が非公開であれば、レンズは純正をつかうか、リバースエンジニアリングのサイドパーティ製をつかうことになります。
デジタルカメラになって、電子制御が複雑になったので、デジタルカメラ以降に作られたマウント規格では、サイドパーティが、互換レンズを作ることが困難になります。
デジタルカメラでは、絞りリングのないカメラ本体で絞り制御をする製品も増えていますので、自動露光を互換にするハードルは下がっていますが、自動焦点は複雑になって、リバースエンジニアリングでの復元には限界があります。
そこで、マウント規格の公開あるいは、マウント規格情報の提供が問題になってきます。
デジカメ専用の電子マウントの規格は以下です。
2003年:フォーサーズ
2008年:マイクロフォーサーズ
2010年:ソニーEマウント
2012年:フジフィルムXマウント
2014年:ライカLマウント
2018年:キャノンRFマウント
2018年:ニコンZマウント
これ以外に、既に、ニコンCマウント、キヤノンFE-Mマウントがありますが、撤退しています。
フォーサーズとその後継のマイクロフォーサーズは公開マウントです。
ソニーのEマウントも、途中から、サイドパーティに情報を公開しています。
ライカのLマウントは、ライカ、パナソニック、シグマのアライアンスがあり、その中では、マウント情報を共有していますが、非公開です。
2018年にキヤノンとニコンがミラーレスのマウントを出す前には、一眼レフのマウントであって、この2社のマウントには、サイドパーティのレンズが多数ありました。
それ以外のメーカーのレンズでは、サイドパーティのレンズの選択の幅は狭かったです。
この状況に対して、ソニーは、Eマウントの仕様をサイドパーティに公開しました。
その結果、サイドパーティのレンズの選択の幅は、キャノン、ニコンの順でしたが、2015年ころから、ソニーが一番多くなりました。
3-2)公開マウントの拡大
2022年になって、フジフィルムのXマウントとニコンのZマウントがサイドパーティに、マウント情報を提供しています。
(1)フジフィルムのXマウント
シグマ、トキナー、タムロン、コシナが富士フイルムからライセンスを受けてXレンズを投入しています。
トキナーのレンズは、中国のViltroxのOEMという噂があります。
(2)ニコンZマウント
コシナが発表したZマウント APS-C対応 単焦点レンズ「NOKTON D35mm F1.2 Zマウント」は、ニコンのライセンス契約の下で開発・製造したレンズです。
2022年9月には、タムロンもZマウントレンズを出しています。
トキナ―は、Zマウントの計画がなく、シグマは、2022年12月現在では、ニコンと調整中のようです。
ライセンス契約しないでViltroxがZマウント用AFレンズをリリースしています。
3-3)レンズの価格への影響
サイドパーティのレンズは、純正より高価です。
ソニーのEマウントのF2.8の標準ズームは、30万円くらいしますが、シグマの製品であれば、10万円です。
この価格差は、昔から半額、3分の1程度で、あまり変わっていません。
サイドパーティのレンズは安いけれども性能が悪いというのが定説でした。
しかし、現在のシグマのF2.8の標準ズームは、アートランク(最上ランク)になっています。
つまり、描写性能には差がないと考えられます。
一般には、差が小さいと考えられていますが、ほぼ、99%差がないと考えてよいと思っています。
薬の効果の判定をする場合には、2重盲検テストを行います。
写真の場合にも、2種類のレンズで撮影した写真を並べて、どちらがよく写っているかという盲検テストをすれば、性能が比較できます。
実は、そのような科学的なテストは行われていません。
利害関係者以外で、このようなテストが出来る場所は、国内では、暮らしの手帳しかないです。
写真は、WEBで一番みられていますので、このテストはWEBで行うべきです。
解像度は1000x1000ピクセルが多用されていますので、この水準で行うべきです。
さて、Xマウントのレンズの下取り価格は値下がりすると思われます。
フルサイズのEマウントでは、プロ以外では、30万円もする純正レンズはあまりうれていません。
Xマウントのレンズも同じようになると思われます。
キャノンは今の所うれているので、マウント情報は公開しないと思います。
キヤノンのビジネスモデルは、プロの写真家に向いています。
一番数の多いプロの写真家は、街の写真屋さんです。
写真屋さんは、素人が手を出せないような高価なカメラとレンズを揃えることで、素人には撮れないしっかりした写真がとれると思われています。
このビジネスモデルが、キヤノンのカメラの性格を決めています。
人物写真が主なマーケットです。
一方、最近一番売れたカメラは、フジフィルムのチェキです。
一番売れたレンズは、中国企業の監視カメラ用レンズです。
筆者は、結局、キャノン以外は、マウント情報の公開戦略にシフトするだろうと考えます。
同じ設計のレンズをマウントを変えて発売すれば、設計費を安くできます。
これは、売れているカメラ台数の少ないXマウントや、Zマウントでは、避けられない戦略です。
フイルム時代には、キヤノン、ニコンと並んで、カメラがうれていたペンタックスは、カメラの販売台数が余りに減ってしまって、シグマやタムロンなどのサイドパーティも撤退してしまいました。ペンタックスのAPS-CのF2.8の標準ズームは、フジフィルムと同じ15万円位でしたが、最近、モデルチェンジをして、定価は5割高で20万円を超えています。こうなると、レンズの開発費用が回収できなくなります。
まとめると、キヤノン以外のカメラメーカーは、レンズのラインアップを増やすため、マウント情報をサイドパーティに公開すると思われます。
一方、純正レンズとサイドパーティのレンズの性能に差はなくなっていますので、純正レンズは、売れないままにするか、定価を下げることになると思われます。
過去にも、オリンパスの75-300mmのレンズは、競合レンズがなかった時には、強気の7万円の定価でしたが、競合レンズが出てきた結果、定価を半額くらいに改訂しています。
中華レンズの性能があがってきていますので、レンズの価格も大筋で見れば、家電製品と同じように下がってくると思われます。