トリクルダウン効果はあるか(3)

#### トリクルダウンの範囲

今回は、トリクルダウンの影響する範囲について考えています。

最初に社会会計行列で、波及効果を考える場合の前提を復習します。

モノを生産する場合、工場であれば、生産量は、次の3つの要素で決まると考えています。

生産量=f(生産施設、材料、労働力)

ここで、生産施設、材料、労働力に各段の制約はないと考えます。たとえば、労働力は不足すれば、労働者を雇えば、充足可能であることが前提です。

これは、雇用側のモデルですが、労働者も、失業すれば、職安などを通じて、次の就職先を探せばよいと考えるので、一般的な前提です。つまり、代替可能性が仮定されています。

発展途上国の場合には、安い労働力を原資にコモデティを生産します。この場合には、代替性が効きますので、トリクルダウンの波及効果は大きくなります。しかしながら、一人当たりGDPが増加し、先進国になると、コモディティの生産では、レッドオーシャンになってしまって、立ち行かなくなります。おそらく、これが日本経済の置かれている現状と思われます。解決策として提案されているブルーオーシャン戦略は、コモデティからの脱却です。

ブルーオーシャンの場合には、コモデティではなくなりますが、これは、寡占市場を意味します。漫画の場合、類似の競争相手になる作品はありますが、非常に限られているため、寡占市場になります。

規模の経済を使ったり、談合をして、独占市場を形成することは禁じられていますが、コンテンツやアルゴリズムで、寡占市場ができることは合法です。コモデティ化をさけて、ブルーオーシャン戦略をとることは、競合企業のない製品やサービスを提供することになりますから、その限定された市場についてみれば、寡占または独占市場を形成していることになります。このような場合には、競合企業がありませんので、トリクルダウンは限定的になります。

別の視点では、独占の利益が生じやすい産業があるとも考えることができます。たとえば、石油や金などの鉱物資源に依存する産業は、産地が限定されるので、自ずと独占的な市場が形成されます。このような場合にも競合相手は現れないので、トリクルダウンの効果は小さくなります。最近では、中国の資源開発活動で、アフリカで、資源関係の会社に従事する人の所得があがる一方で、それ以外の職業の人の所得があがらず、貧富の差が拡大しています。一人当たりGDPの平均値でみると中進国なみの数字に達している国もあります。

まとめますと、トリクルダウンの効果が広く及ぶ産業は、コモデティ産業です。独占や寡占が生じやすい産業では、トリクルダウンの効果は広くは影響しません。まして、先進国になると、人件費が高く、コモデティは生産できませんので、トリクルダウン効果はありますが、影響範囲は狭くなります。