1)生活賃金とは
この記事を書いている2026年1月5日現在、イランでは、現地通貨のリアル安、ドル高、物価の高騰が続き、デモが起きています。政権が転覆する可能性が議論されてます。
デモが起きている原因は、通常の賃金では、生活ができないためです。
デモや暴動が起きるリスクは、通常の賃金では、生活ができるかを点検すれば、わかります。
若干の余裕がある普通の生活ができる賃金を生活賃金といいます。
経済的に安定して生活できるギリギリの賃金をLISEP(The Living Income Standard for Economic Security)といいます。
つまり、生活賃金とLISEPを基準にして、賃金分布(所得分布)を調べれば、デモや暴動が起きるリスクを評価することができます。
太平洋戦争で、日本がアメリカに負けた理由は、経済力で負けていたからです。
イランは、ミサイルを持っているかも知れませんが、経済力で負けるとハイパーインフレになって、負けてしまいます。
政府は、軍備を拡張すれば、戦争に勝てるというパールハーバーの幻影を信じているように見えます。
軍事費を簡単に捻出できない国は、すでに、経済で負けているので、無理をして、軍備を拡張しても、パールハーバーの日本か、現在のイランのようになるだけです。
アベノミクスは、経済の敗戦でしたので、勝負は既についていると理解すべきです。
もちろん、太平洋戦争時の政府と軍部が、敗戦をみとめなかったように、現在の日本政府も、経済の敗戦を認めません。しかし、事実は、経済の敗戦を示しています。
経済の敗戦を認めず、敗戦の原因を取り除かないので、これから起きることがわかります。
話を生活賃金に戻します。
日本には、生活賃金とLISEPのデータはありません。
これは、政府が、データを非公開にしているためです。
アメリカでは、生活賃金とLISEPは、公開データを活用して、大学や民間が推定してます。
日本政府の公開データは、平均値だけです。しかし、分布が正規分布ではないので、平均値は代表値ではありません。つまり、これでは、何もわかりません。
データ公開の水準は、太平洋戦争のころと変わりません。
これが、日本では、生活賃金とLISEPが話題にならない理由です。
ここでは、アメリカの生活賃金のデータを円ドルレートを使って換算しています。
生活賃金の予測は、イランのように、デモと暴動がおきるリスク評価にもなっています。
2)生活賃金の予測
円安が、生活を直撃していることがわかりました。
そこで、AIと相談して、2030年と2035年の円ドルレートの推定を行いました。
推定結果は、以下です。
2030年:1ドル=173円
2035年:1ドル=200円
この推定は、日本の産業競争力が回復しないという前提(シナリオ)にもとづいています。
日本の産業競争力が回復しないというシナリオを採択する理由は、トレンド予測ではなく、推論エンジン仮説と因果推論に基づいています。この説明は、かなり複雑になるので、今度、順次行うことにして、ここでは、上記の円ドルレートシナリオをつかったシミュレーション結果を示します。
シミュレーション結果をよむために、最低限必要な用語説明をします。
A層とB層:
二重経済の所得の上位層をA層、所得の下位層をB層と呼びます。
生活賃金(Living Wage):アメリカの「リビングウェッジ(Living Wage:最低限の人間らしい生活を送るために必要な賃金)」を基準に、日本で同等の生活水準を維持するために必要な年収(円建て)を試算しています。
アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)が算出している「Living Wage Calculator」の全米平均データ(単身者・税前)をベースに、各年代のインフレ率を加味したドル建て賃金を、上記のレートで円換算します。
シミュレーションは、リフレ派が主張する2%のインフレを前提にしています。
つまり、以下のシナリオは、リフレ派が主張する今後の日本の姿であると理解できます。リフレ派のインフレで経済成長するという主張は科学的な間違いなので実現することはありません。その説明は複雑で、認知負荷が大きいので、このあとで、時間をかけて説明します。
日本における「ドル建て生活賃金」の推移と予測
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項目
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Case 1:2013年
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Case 2:2025年
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Case 3:2030年
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Case 4:2035年
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想定為替レート
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1ドル=97.6円
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1ドル=156.3円
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1ドル=173円
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1ドル=200円
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US生活賃金(ドル)
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約32,000ドル
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約45,000ドル
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約50,000ドル
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約55,000ドル
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日本での必要年収(円)
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約312万円
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約703万円
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約865万円
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約1,100万円
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日本の平均年収との比較
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平均(414万)以下で到達
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平均(460万推計)で不足
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平均では絶望的
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1,000万超えが必須
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※US生活賃金はMITのデータを元に、2025年を4.5万ドルとし、過去はデフレ・未来は2%のインフレを織り込んで算出しました。
試算から見える「残酷な真実」
- 「普通の生活」の定義が1,000万円超えに
2013年当時、日本での年収300万円台は「決して裕福ではないが、最低限の生活は送れる」レベルでした。これは当時のアメリカのリビングウェッジ(約3万ドル=約300万円)と概ね一致していたからです。
しかし2035年、アメリカ基準の「最低限の生活」を日本で送ろうとすると、年収1,100万円が必要になります。これは現在、日本で上位数パーセントしか到達できない「パワーカップル」や「エリート層」の年収です。
- 「B層の脱落」と「生活水準の海外格差」
2025年現在、日本の中央値年収(370万円)は、アメリカの生活賃金(リビングウェッジ、約703万円相当)の約半分しかありません。
これは、日本の会社員が「1日8時間」働いて得ている生活の質が、アメリカの基準で見れば<「1日4時間分」の価値しかない>ことを意味します。日本居住サブスクの「月額料金(税・社会保険)」を払った後に残る手取りでは、iPhone、エネルギー、Netflixといった「グローバル標準のサービス」を維持することが極めて困難になります。
- 2035年の「1,000万プレイヤー」は、かつての「300万プレイヤー」
2035年に年収1,000万円に到達したとしても、為替が200円であれば、その購買力は2013年当時の年収500万円程度にまで目減りしています。
「会社で頑張って年収を上げる」という努力が、単に「沈みゆく船(日本円)から必死に水を掻き出し、なんとか浸水を食い止めているだけ」の状態になり、生活が楽になる実感を伴いません。
結論:日本は「高コスト・低所得」の国へ
このデータが示すのは、日本がもはや「先進国水準の生活」を国民全体に提供できなくなりつつあるという現実です。
- 2013年: 日本の給料で、世界基準の生活ができた。
- 2025年: 日本の給料では、世界基準の生活を諦める必要がある。
- 2035年: 日本の給料で世界基準を維持するには、国内トップ層になるしかない。
備考:
アメリカと日本では、世帯データの集計方法が異なるので、日本の生活賃金はアメリカの生活賃金より若干小さい値になります。差は数%なので、厳密さを追究する場合以外では、同じと考えて差支えはありません。