「テクノリバタリアン」を読む(6)ランダム化試験とパンドラの箱(5/24改訂版)

(RCTの影響を考えます)

 

ロナルド・フィッシャーは、1925年にStatistical Methods for Research Workersを、1935 年に「実験計画法」を出版します。ランダム化試験(RCT)は、この本がスタートです。

 

アンダース・ハルドはフィッシャーを「現代統計科学の基礎をほぼ独力で築き上げた天才」と呼びました。

 

リチャード・ドーキンスはフィッシャーを「ダーウィン以来最も偉大な生物学者」と呼びました。

 

フィッシャーは、正規分布を中心とした頻度主義者で、ベイズ統計の顕著な反対者でした。

 

ベイズ統計が実用化されたのは、今世紀に入ってからです。

 

フィッシャーが、ベイズ統計の顕著な反対者であったことは、背景を考慮して評価する必要があります。

 

「実験計画法」(RCT)は、長い間、作物試験の手法と思われていました。

 

30年前、RCTは、作物試験の手法ではなく、基本的な統計学の手法であると認識されてきました。

 

RCTの基本は、サンプリングバイアスの排除です。RCTが不可能な場合には、分布を考えて、サンプリングバイアスを排除して、実験をできるだけRCTに近づける必要があります。

 

これが、エビデンスに基づく手法です。

 

エビデンスに基づく手法は、EBM(Evidence-Based Medicine、科学的根拠に基づく医療)から始まって、あらゆる分野に、普及しています。

 

「確率的および因果的推論の算法を発展させることで、人工知能に基礎的貢献をした」として、2011年のACMチューリング賞を受賞したジューディア・パールは、RCTに替わる方法はないといいます。

 

パールは、RCTを近似する方法を検討しています。

 

Association for Computing Machinery はパールの因果性についての業績について「統計学、心理学、医学、社会科学において、因果律についての理解に革命をもたらした」と評しています。

 

入門解説には以下があります。 

 

 因果推論の科学 「なぜ?」の問いにどう答えるか

 

著者 ジューディア・パール , ダナ・マッケンジー , 松尾豊・監修解説 , 夏目大・訳 2022 文藝春秋

 

The Book of Why: The New Science of Cause and Effect(2018)Judea Pearl,Dana Mackenzie

 

WEBをみると、アメリカの心理学科の卒業生が、学生時代にならったことが、その後の科学的根拠に基づく心理学研究の結果、ほとんど間違いで取り消されているとぼやいています。

 

エビデンスに基づく手法は、RCTのパンドラの箱を開けてしまいました。

 

橘玲氏は、テクノリバタリアンは、数学が全てであるといいますが、これは、RCTのパンドラの箱が開いて、世界が変わったという背景のもとに理解する必要があります。

 

加谷 珪一氏は、専門家のインフレの分析について次のようにいっています。

日本でも物価上昇が顕著なってきた当初、多くの専門家が原油価格の高騰など、一次産品の値上がりが原因であり、その影響は一時的なものにとどまると主張していた。教科書でいうところのコストプッシュ・インフレであり、大規模緩和策で想定していたインフレとは異なるという理屈である。

 

コストプッシュ・インフレ、ディマンドプル・インフレという言葉は、学生などが分かりやすいように教科書で用いられている分類に過ぎず、インフレというのは基本的に複合要因と考えるべきだ。

<< 引用文献

円安で国内消費は「壊滅状態」に…日本経済をぶっ壊す「スタグフレーション」のヤバい現状 2024/05/21 現代ビジネス 加谷 珪一

https://gendai.media/articles/-/130306

>>

 

これは、専門家は、原因が複数ある因果モデルが理解できていないことを意味しています。

 

専門家は、科学的な 因果推論ができないことを示しています。

 

あるテレビ番組では、最近、針治療に効果があることがわかったと説明しています。

 

EBMを使った2重盲検試験では、針治療の効果は否定されています。

 

つまり、番組で、治療に効果があるという結果を出した試験は、プラシボ効果であった可能性が高いと言えます。

 

これは、針治療です。漢方薬に西洋医学と同じ薬用成分が含まれる場合には、漢方薬には、効果があります。

 

過去にも、被験者が4名程度の試験で、実験をして、効果を論じる番組を製作していたチャンネルもあります。

 

統計学の常識では、サンプルが4つで、効果が出ることはやらせ試験以外ではあり得ません。

 

注意しなければならないことは、薬を飲んで効果があったことは、薬の効果の証明にはならないことです。

 

人間の身体には、自然に治癒する力があります。

 

薬を飲んで効果があった場合は、実は、薬を飲まなくても効果があった場合かも知れません。

 

あるいは、自然治癒を前提としない場合でも、症状は変化します。

 

ベイズ統計では、事前情報がない場合には、症状が悪化する確率が50%あり、症状が改善する確率が50%あると考えます。

 

この場合、薬の効果がゼロでも、症状が改善する確率が50%あることになります。

 

薬の効果と関係なく、症状が改善する確率を考える必要があります。

 

なお、RCTを使ったEBMによる薬の効果の検証は、大変ハードルが高いものです。

現在使用されている薬のうち、エビデンスがあるのは10%程度と言われています。

 

これは、EBM以前に、認可された薬があること、エビデンスの確認されていない使用が行なわれていることを示しています。

 

これは、胃がんに効果がある薬を、大腸など他の部位にも流用する方法です。類似の器官であれば、効果は期待できます。なので、流用されています。

 

最近では、欧米の大学では、Business analyticsを教えています。

 

これは、パールの因果推論の科学を実務に応用する内容です。

 

ビジネスの問題の多くは、データサイエンスの問題に置き換え、数値解をえることが可能です。

 

Business analyticsは、高等学校で、数学と統計学を学習していることを前提として、講義が進みます。

 

Business analyticsは、日本の文系では、歯が立たない可能性が高いです。

 

橘玲氏は、テクノリバタリアンを、数学オタクのように描写しています。

 

しかし、データサイエンスの基準でみれば、加谷 珪一氏の指摘のように、ずれているのは日本の専門家であって、テクノリバタリアンは、いたって普通の数学能力のように見えます。

 

RCTのパンドラの箱が開いたということを理解していない教育カリキュラムは、今後、その内容の大半が間違いであったことが判明する運命にあると思われます。

 

橘玲氏は、アメリカは、1970年代に、終身雇用を、ジョブ型雇用に転換したという説明がでてきます。(p.258、あとがき)

 

終身雇用(年功型雇用)では、働かないで、給与をもらう人が必ず出てきます。雇用と仕事は、マッチしません。

 

終身雇用では、スキルアップしても、給与が増えないので、スキルアップすることは経済的にマイナスになります。

 

新聞には、定年退職をした従業員を再雇用するときの給与を現役並みにする企業があると書かれています。

 

しかし、これは、ジョブ型雇用ではないので、欧米の企業に比べて、労働の効率が悪くなります。また、賃金は、スキルの対価ではないので、スキルアップは行なわれません。

 

橘玲氏は、「みんなが(表面的には)平等な社会では、能力の格差を暴くことは最大のタブーになる。日本は、自由を恐れ、合理性を憎んでいる社会である」(P.260、筆者要約)といいます。

 

これは、日本では、科学より、法度制度のミームが優先することを意味しています。

 

橘玲氏は、「テクノリバタリアン」のあとがきで、日本が、リバタリアニズムを受け入れないと世界から取り残されると結論づけています。

 

つまり、問題は政治思想にあるという主張です。

 

筆者は、問題は、科学を無視した法度制度のミームにあると考えます。

 

マイクロソフトは、人工知能(AI)機能を高めた技術で一新を遂げた「AI特化パソコン」を開発しています。

 

調査会社カナリスは2025年にAI特化パソコンの出荷台数は1億台を超え、全パソコン出荷台数の40%を占めると推計しています。

<< 引用文献

情報BOX:AI特化パソコンとは何か 2024/05/22 ロイター

https://jp.reuters.com/economy/industry/TZ2VBV4XHJM4DJZD4FOR3NVYYU-2024-05-22/

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マイクロソフト(MSFT.O), opens new tabは、中国を拠点とするクラウドコンピューティング人工知能(AI)事業の一部従業員に対し、国外への転勤を検討するよう求めている。

 

対象となる従業員は大半が中国籍で、約700─800人が米国、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランドなどへの転勤の選択肢を提示されています。

 

<< 引用文献

マイクロソフト、中国の一部従業員に国外転勤を提示 2024/05/17 ロイター  Kanjyik Ghosh, Akash Srira https://jp.reuters.com/business/WBXQN5F6BZNHBJNAMYLFGEFSBI-2024-05-16/

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マイクロソフトは、今後、日本のオフィスで、人材を募集します。

 

政府は、AIの開発に制限をもうける計画です。

 

橘玲氏は、オープンAIの例を引いて、AIの開発を極限まで進める「加速主義者」のグループが、AIが、人間の管理能力を超えることを警戒する「破滅主義者」のグループをおさえて、最終的に主導権をとることが明白であるといいます。

 

日本で、AIの開発に制限を設けても、中国の例のように、開発部隊を日本から移動させるだけで、開発を止めることはできません。

 

AI特化パソコンは、ジョブ型雇用では、これを使いこなすことで、驚異的な生産性の向上が可能になります。

 

しかし、

定年退職をした従業員を再雇用するときの給与を現役並みにしても、生産性はあがりません。

 

つまり、この方法では、国際競争から、取り残されます。

 

これは、数学の計算の問題に過ぎないです。

 

経営は哲学だと主張しても、数学的に不可能なことは実現しません。