兵庫県知事選でパワハラ問題などで失職した前知事の斎藤元彦氏が再選しました。「SNSの勝利」「マスメディアの敗北」などとも言われています。
日本ファクトチェックセンターの古田大輔氏の解説の一部を引用します。
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NHKによると、何を投票の参考にしたかという質問への答えで1位が「SNSや動画サイト」で30%、新聞24%、テレビ24%、知人・家族5%を上回りました。また、「SNSや動画サイト」と答えた人の70%以上は斎藤氏に投票したと伝えています。
また、読売新聞の出口調査によると、「SNSや動画投稿サイト」を投票の参考にしたと答えた人の9割弱が斎藤氏を支持したと言います。
9年間の2015年に日本新聞協会が実施した「全国メディア接触・評価調査」では「投票の参考にしたい情報源」(複数回答)という質問に対して、1位「新聞記事」51.4%、2位「テレビ番組(政見放送)」43.8%、3位「選挙公報」30.8%、4位「テレビ番組(政見放送以外)」30.7%で、ずっと離れて「新聞社以外のニュースサイト」13.2%、「動画投稿サイト」はわずか0.9%でした。
マスコミを含む既得権益VS改革者という物語の語り口=ナラティブはこうして生まれています。
「斎藤氏は被害者で改革を嫌うマスコミや既得権益層がいじめている」という語り口(ナラティブ)は検証の対象になりません。そう考えるのは個人の自由です。検証対象となる言説は、全体的な語り口ではなく、検証可能な事実について個別具体的に見る必要があります。
JFCは2つの検証記事を公開しました。
1つは「斎藤氏はパワハラをしておらず、新聞やテレビは根拠なしに報じている」という言説の検証です。県職員アンケート(約9700人対象)では140人が目撃や経験をして実際に知っていると答え、「実際に知っている人から聞いた」「人づてに聞いた」を合わせると回答者の42%が見聞きしていました。
また、斎藤氏自身が証人喚問や選挙演説などで厳しい叱責をしたことや机を叩いたことなどを認めており、「心からお詫びしたい」「反省しないといけない」などと述べていることから「パワハラをしていない」という言説は「根拠不明」と判定しました。
2つ目は「稲村氏が当選すると外国人の地方参政権が成立する」という言説です。本人は公約に掲げておらず、自身のサイトでも否定しました。また、一般永住者の地方参政権の保障を政策に掲げる緑の党との関係がこの言説の背景にあったため、「緑の党の前身の活動に参加していたが2010年の尼崎市長就任時に会員を辞め、2012年に設立された緑の党の活動には関与していない」とも表明し、緑の党も同様の声明を出したことから、言説は誤りと判定しました。
実際には職員アンケートの信頼性やパワハラなどを告発した元県民局長をめぐる情報などについて、不確かだったり、根拠に欠けたりする情報は大量に拡散していましたが、検証が追いつかない状況でした。
兵庫県知事選に限らず、最近の選挙は、世界に共通する2つの流れがあります。「ソーシャルメディアでの選挙情報の拡大」と「マスメディアの信頼性と影響力の低下」です。
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<< 引用文献
「斎藤氏の支持者がデマを熱狂的に信じた」という言説の落とし穴 兵庫県知事選・前編・後編【解説】2024/11/18 日本ファクトチェックセンター 古田大輔(Daisuke Furuta)
https://www.factcheckcenter.jp/explainer/politics/explainer-hyogo-election-2024/
https://www.factcheckcenter.jp/explainer/politics/explainer-hyogo-election-2024-2/
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ウィキペディアには、項目「兵庫県庁内部告発文書問題」があります。
ウィキペディアの編集方針では、誰かに聞いた話は、信頼できるデータにはなりません。
日本ファクトチェックセンターは、次の根拠をとっています。
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県職員アンケート(約9700人対象)では140人が目撃や経験をして実際に知っていると答え、「実際に知っている人から聞いた」「人づてに聞いた」を合わせると回答者の42%が見聞きしていました。
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「実際に知っている人から聞いた」「人づてに聞いた」という回答者の42%は、ウィキペディアの編集方針では、カウントに入りません。
つまり、「斎藤氏はパワハラをしている」というエビデンスを提示した県職員は、140人、1.4%に過ぎません。
平均値±標準偏差2σ 95.5%
平均値±標準偏差3σ 99.7%
つまり、3σでは、「斎藤氏はパワハラをしている」ことになりますが。2σでは、「斎藤氏はパワハラをしていない」ことになります。
これを見ると、「マスコミを含む既得権益VS改革者という物語」は、単純に、否定できないことがわかります。
エビデンスの階層では、「EBL1 個人の経験談・専門家のエビデンスに基づかない意見」は、もっとも、信頼性が低いです。
マスコミに、出て来る情報は、EBL1であり、科学的には、ほとんど価値がありません。
古田大輔氏は、ネット動画で単純な情報が拡散すると指摘しています。
しかし、ウィキペディアの「兵庫県庁内部告発文書問題」を読めば、(その情報には、まだ、疑問が付くものが多いですが、)圧倒的な情報量(45000字)になっています。
新聞の発行部数が減って、廃刊が相次いでいます。
テレビを見る人も減少しています。
新聞とテレビの情報は、ネットに比べれば、情報量が圧倒的に少なく、情報の更新がなく、数式と専門用語が使われていないという弱点があります。
さらに、その内容は、「EBL1 個人の経験談・専門家のエビデンスに基づかない意見」に止まっています。
つまり、ネットに比べて、新聞とテレビをつかうメリットはほとんどありません。
テレビと新聞は、ネット情報には、フェイクが多いというキャンペーンを張っています。
しかし、そのキャンペーンは、「マスコミを含む既得権益VS改革者という物語」を拡大するだけです。
共同通信の調査では、年収の壁見直しに賛成する人は69%にのぼります。
<< 引用文献
年収の壁見直し賛成69% 企業団体献金禁止を67% 2024/11/17 共同通信
https://news.yahoo.co.jp/articles/23149bf31063efecc07b27bc8490b3746a258e0b
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年収の壁の見直しには、問題が多くあります。
ここでは、生産性の向上問題は放置されています。
しかし、若年層を中心に、収入の少ない世帯では、生活に困窮していて、それが、低い出生率の原因の1つになっていると思われます。
年収の壁の見直しは、この生活の困窮を解消する方法の提案です。
この提案に対して、財務省は、税収が、7兆円減るという回答をしています。
しかし、この回答は、生活の困窮を解消する方法の提案ではありません。
問題を放置して、すり替えています。
マスコミは、大本営報道をしていて、財務省の回答が、生活の困窮を解消する方法の提案になっていないという問題点を指摘しません。
これをみれば、「マスコミを含む既得権益VS改革者という物語」を信奉する人が出てきても、当然と思われます。
「マスコミを含む既得権益VS改革者という物語」が正しいか否かは分かりません。
しかし、「マスコミを含む既得権益は正義の味方」であるというメンタルモデルは、既に崩壊しています。
これは、「年功型雇用とそれに伴う転勤」が、正しい労働形態であるというメンタルモデルの崩壊にもつながっています。
こうしたメンタルモデルの崩壊は、社会が、デジタル化するためには、避けて通ることのできない道です。
追記:
日本ファクトチェックセンターの古田大輔氏は、立花氏の応援に効果があったといいます。
大手マスコミは、「斎藤陣営のSNS戦略が功を奏した」と分析しています。
日刊現代で、ITジャーナリストの井上トシユキ氏は、斎藤氏の選挙戦略を次のように分析しています。
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斎藤陣営のSNSを見ていても積極的に拡散はしていません。斎藤支持者の間では、「お騒がせ」イメージの強い立花氏の応援を快く思っていない呟きも目立っていたほどです。SNSの影響をもたらしたのは、街頭演説を見た名もなき「勝手連」の拡散力と「アンチマスコミ」の存在でしょう。
大手マスコミはSNSを信じて情報を得る人の心理も理解し、SNSの利点も称えて、共存を訴えればいいのですが「SNSにはファクトチェックがない」などと自分たちの正義を主張するあまり、視聴者や勝手連の人たちには「ほら、やっぱり都合のいいことしか報じない」と陰謀論にされてしまう。この流れは変わらないでしょう。
<< 引用文献
兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも 2024/11/19 日刊現代
https://news.yahoo.co.jp/articles/53ebd4e1b505456d52004a06732f35b75f3e504e
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古田大輔氏、大手マスコミ、井上トシユキ氏の説明は、異なります。
その理由は簡単で、3者とも、帰納法による仮説を提示しているだけで、検証をしていないからです。
統計学の基準でいえば、どれが間違っているかではなく、3者とも検証されていない仮説を提示しているだけなので、どれも正しい仮説である可能性は、かなり低い(恐らく3者とも間違っている可能性が高い)と言えます。
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斎藤氏のパワハラ疑惑に関する県職員のアンケートでは約4500件の回答のうち約300件が実名で答えていた。
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<< 引用文献
兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」2024/11/18 日刊現代
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/363583
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日本ファクトチェックセンターの古田大輔氏のデータでは、県職員アンケート約9700人中の140人が目撃や経験をして実際に知っていると答えています。古田大輔氏は、このアンケートは無記名になっていたと言いいます。
日刊現代のデータでは、「斎藤氏のパワハラ疑惑に関する県職員のアンケートでは約4500件の回答のうち約300件が実名で答えていた」といいます。
約300件は、実名で答えた人の数です。
この約300件が、パワハラを目撃や経験をしたのかは不明です。
日刊現代の表記は、不正確で、誤解が生じる可能性があり、不適切です。
母集団は、約9700人か、約4500人が不明です。
約4500件に重複した回答は含まれるのでしょうか。
古田大輔氏、次のように言っています。
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「斎藤氏は被害者で改革を嫌うマスコミや既得権益層がいじめている」という語り口(ナラティブ、筆者注:仮説)は検証の対象になりません。そう考えるのは個人の自由です。検証対象となる言説は、全体的な語り口ではなく、検証可能な事実について個別具体的に見る必要があります。
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これは、ファクトチェックは、データの信頼性をクロスチェックすることを意味します。
古田大輔氏は、次のように言っています。
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政治団体「NHKから国民を守る党」の立花氏は「自分の当選は考えていない。斎藤氏をサポートする」と公言し、64万人の登録者がいる自身のYouTubeチャンネルで選挙期間中に66本の動画を公開しました。
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「立花氏が、66本の動画を公開した」ことが、ファクトです。
「斎藤氏が、再選した」こともファクトです。
古田大輔氏と大手マスコミは、この2つのファクトの間に、因果関係がある(仮説)と主張しています。
「立花氏が、66本の動画を公開した」(原因)=>「斎藤氏の得票が増えた」(結果)
投票を前のアンケートによる得票予測を得票の指標と見なせば、この2つの事実に間には、相関があります。しかし、相関は因果ではありません。
井上トシユキ氏は、この2つの間には、因果関係がないといいます。
マスコミは、相関を因果に読み替えた言説を流布します。
しかし、相関と因果は区別が必要です。
チョコレートの消費量と温暖化(平均気温)の間には、相関があります。
これを、因果に読み替えることは可能です。
チョコレートの消費量(原因)=>平均気温の上昇(結果)
この因果モデルが正しければ、チョコレートの消費量を減らせば、温暖化は止まります。
大手マスコミの「斎藤陣営のSNS戦略が功を奏した」という分析は、因果ではなく、相関に基づいています。
そこには、因果のエビデンスがありません。
ファクチェックは、因果のエビデンスを無視しています。
その点を、「語り口(ナラティブ)は検証の対象になりません。そう考えるのは個人の自由です」と割り切ることはできません。
「チョコレートの消費量を減らせば、温暖化は止まる」といったナラティブが広まれば、世界は、混乱に巻き込まれます。
現在、SNSに対して行われているナラティブには、因果のエビデンスが、全くありません。混乱の原因は、SNSだけでなく、マスコミにもあります。