8)ODの問題の行方
オーバードクター(OD)問題が、繰り返されています。
8-1)政府の手引き
時事通信は次のように伝えています。
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博士号を取得した専門人材の就職を支援するため、政府がまとめる企業や大学向けの手引の骨子案が2024年11月20日、明らかになった。
企業に対し、博士人材に見合う初任給の設定を求めたほか、大学と企業のトップ会談や共同研究所の設置を通じて産学連携を一段と強化する方針も盛り込んだ。
21日に開く経済産業省と文部科学省の有識者会議で骨子案を示す。来春にも手引をまとめ、企業や全国の大学などに配布する方針だ。
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<< 引用文献
博士号に見合う初任給を 専門人材の就職支援で手引案 政府 2024/11/21 時事通信
https://news.yahoo.co.jp/articles/6ad31ee6acf47edea37fbf8a583fbedb95d2d556
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英語版のウィキペディアは資本主義を次のように説明しています。
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資本主義は、生産手段の私的所有と営利目的のその運用に基づく経済システムである。資本主義を定義する特徴には、私有財産、資本蓄積、競争市場、価格システム、財産権の承認、 自己利益、経済的自由、能力主義、労働倫理、消費者主権、経済効率、営利動機、信用と負債を可能にするお金と投資の金融インフラ、起業家精神、商品化、自発的な交換、賃金労働、商品とサービスの生産、そして革新と経済成長への強い重点が含まれる。市場経済では、意思決定や投資は富や財産の所有者、資本や金融市場における生産能力を操作する能力によって決定されますが、商品やサービスの価格や分配は主に商品やサービスの市場における競争によって決定されます。
ナンシー・フレイザーは、 多くの著者による「資本主義」という用語の使用について、「主に修辞的なものであり、実際の概念としてよりも、概念の必要性に対するジェスチャーとして機能している」と述べている。
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2024年2月に、博士号を持つ高度な専門人材の確保で日本が大きく遅れをとっている、経団連がそんな調査結果をNHKが報道しています。
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博士人材の活用などの実態について経団連が調査結果をこのほどまとめました。
従業員1000人以上の企業を中心に全国の120社余りが回答したのですが、なかなか厳しい実態がわかったんです。
2022年度に理系の博士人材の採用がゼロだった企業は、23.7%。
さらに、今後5年程度先の採用方針を尋ねると、「増やしていく」と回答した企業は新卒、経験者いずれも2割以下にとどまりました。
調査を担当した経団連の長谷川知子常務理事は、次のように指摘しています。
「産学官が連携し、それぞれ役割を果たさないと博士人材の育成・活用は進まない」
産学官が連携することが必要だとしています。
企業の中にはインターンシップに力を入れたり、大学の中にも新しい教育プログラムを導入するなど、実はさまざまな取り組みが行われています。
しかし、その周知やお互いの理解が不足しているのが現状で、その改善も必要です。
さらに、取り組みを広げるための政府の支援も欠かせません。
経団連は調査結果を踏まえた提言の中で「教育は国家百年の計」と表現していました。
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<< 引用文献
博士人材が足りない!2024/02/21 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/special/sakusakukeizai/20240221/629/
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「産学官が連携することが必要だ」というのは、長谷川知子常務理事の意見に過ぎません。
理系の博士人材を活用できないお馬鹿企業であれば、中期的には、市場から撤退するリスクが高いです。
そのような企業に無理をして採用してもらっても、解雇になるのは、時間の問題です。
因果モデルで考えれば、ODが就職できない理由は、専門知識が訳に立たない(科学的に間違っている)という仮説も成り立ちます。
経団連の調査は、日本企業に限定されています。しかし、ODの就職先は、日本企業に限定されません。高度人材には、国際労働市場があります。
実際に、役に立つODは、GAFAMなどの海外企業に就職しています。
経団連は、高度人材の国際労働市場が存在しない前提で推論しています。
時事通信によると<政府は2024年10月30日、(岸田政権から継続する)「新しい資本主義実現会議」を首相官邸で開き、総合経済対策に盛り込む賃上げなどに関する重点施策を取りまとめました。>
<< 引用文献
石破首相「賃上げ最優先」 経済対策の重点施策、政労使協議へ―新資本主義会議 2024/10/30 時事通信
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024103001010&g=eco
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時事通信は次のように伝えています。
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経団連が2025年春闘に向けて策定する経営側の指針「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)の原案が5日、分かった。23年と24年の春闘で実現した大幅な賃上げについて「社会全体に波及させ、定着させることが、経団連と企業の社会的責務だ」と明記。働き手の約7割を雇用する中小企業や、非正規労働者の賃上げがそのカギを握っていると強調した。
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<< 引用文献
賃上げ定着、「社会的責務」 春闘指針の原案判明―経団連 2024/11/05 時事通信
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024110501063&g=eco
>>
春闘の前提には、国際労働市場は、存在しないという前提があります。
日本の大企業では、海外の売り上げや、労働者の数が、日本国内を上回っている場合も多くあります。海外では、年功型雇用も、春闘もありません。つまり、2つの労働市場を抱えている企業があります。2種類の雇用の労働生産性が一致することはないので、どちらかが、非効率になっているはずです。春闘を問題にすることは、2種類の雇用が併存するという不合理をタブー視していることになります。<23年と24年の春闘で実現した大幅な賃上げについて「社会全体に波及させ、定着させることが、経団連と企業の社会的責務だ」>という発言は、こうした背景をもとに理解する必要があります。
過去の2年間の実質賃金は、インフレの影響でさがり続けています。
<< 引用文献
9月の実質賃金、0.1%減 2カ月連続マイナス、物価高に追い付かず 2024/11/07 時事通信
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024110700353&g=eco
>>
これから、同じデータは、次のように書くこともできます。<23年と24年の春闘で実現した実質賃金の賃下げについて「社会全体に波及させ、定着させることが、経団連と企業の社会的責務だ」>
この2つの表現は、経済学では、等価です。
「中国製造2025」では、海外の高度人材の誘致、中国人の頭脳流出の回帰が積極的に図られています。国際労働市場を無視すれば、中国との技術開発競争で、負けると思われます。
テレビ新潟は、次のように報道しています。
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東京電力が再稼働を目指す柏崎刈羽原発を日本経済団体連合会=経団連が2024年11月21日に視察しました。経団連の十倉会長は「関東圏の経済を支える電源立地」としたうえで「一刻も早い柏崎刈羽原発の再稼働を大いに期待している」と話しました。
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<< 引用文献
東電が再稼働を目指す柏崎刈羽原発を経団連が視察 「一刻も早い原発再稼働を大いに期待」《新潟》2024/11/21 テレビ新潟
https://news.yahoo.co.jp/articles/1b33f18ee29509b4ad18a1ddbcbdf7e31ec873f0
>>
統計学を習得した人であれば、「一刻も早い原発再稼働」と「一刻も早い原発事故リスクの再開」は、同時に起きることがわかります。
経団連は、「一刻も早い原発事故リスクの再開」を無視して、「一刻も早い原発再稼働」ができると考えているのでしょうか。
これは不可能なので、科学的には、経団連は、「一刻も早い原発事故リスクの再開」も期待していると言えます。
経団連には、発言の自由があります。しかし、統計学と経済学のメンタルモデルがあれば、経団連の発言を解釈しなおすことができます。
8-2)インターネットの影響
「ホイッグ史観」を例に、インターネットの影響を考えます。
日本語のウィキペディアで、「ホイッグ史観」を調べると次のような内容がでています。
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定義
栄田卓弘によるホイッグ史観の定義は以下の通り[1]。
(中略)
歴史
(中略)
日本への影響
(中略)
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参考文献
和書・論文
[1]栄田卓弘「ハーバート・バタフィールドとウィッグ史観」『社會科學討究』第39巻第3号、学術雑誌目次速報データベース由来、1994年、955-983頁、
(省略)
訳書
ハーバート・バターフィールド著・越智武臣他訳『ウィッグ史観批判──現代歴史学の反省』未來社、1967年。
非日本語文献
Lois G. Schwoerer, ed., The Revolution of 1688-1689: Changing perspectives, Cambridge University Press, 2003(Paperback, first published 1993). ISBN 0521526140
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これは、日本語のウィキペディアで広くみられる現象ですが、引用文献のコピペではじまります。これは、訓詁学の権威の方法になっています。科学的には、間違った記載法です。
日本語のウィキペディアの見出しは、「ホイッグ史 Whig history」です。
最初に、「ホイッグ史 Whig history(またはホイッグ史学、Whig historiography)」と書かれています。
つまり、「ホイッグ史観」は、本来は、「「ホイッグ(党)史 」が語源になっています。
日本語のウィキペディアの「ホイッグ史観」で、英語の引用文献は、1本だけです。
インターネットが普及する前であれば、英語版のウィキペディアはありませんでしたので、日本語のウィキペディアの「ホイッグ史観」のように、日本人の専門家の話を傾聴することが、知識を得る唯一の方法でした。
しかし、2024年現在、インターネットがあり、英語版のウィキペディアの「ホイッグ史」にアクセスすることができます。英語版のウィキペディアの「ホイッグ史」は、自動翻訳で、日本語に変換することができます。
つまり、ここに、2種類のデータがあります。
第1は、日本語のウィキペディアの「ホイッグ史観」(2500字)です。
第2は、自動翻訳された英語版のウィキペディアの「ホイッグ史」(10000字)です。
この2つでは、間違いやデータ不足の多い、第1を選択する理由はありません。
つまり、インターネットの普及は、翻訳専門家を不要にしています。
これは、一例ですが、教科書も、日本語版を使うより、自動翻訳でも、英語版を使うべきであると考えます。生態学と生物学の著名な英語の教科書で、日本語翻訳が出ているものもあります。翻訳が、原著の改訂に追いついていませんので、古い紙の日本語訳と新しい自動翻訳を比べることになります。後者をとるべきです。
ロイターは、次のように伝えています。
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[20日 ロイター] - オープンAIとNPO(非営利組織)のコモン・センス・メディアは20日、人工知能(AI)とプロンプト作成を分かりやすく説明する教師向けの無料トレーニングコースを開始したと発表した。
コースは幼稚園から高校までの教師が対象で、授業内容の作成や会議の効率化など、さまざまな教育用途におけるチャットボットの使用法を解説する。コモン・センス・メディアのウェブサイトで閲覧できる。
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オープンAI、教師向けに無料AI活用講座 教育支援を強化 2024/11/21 ロイター
https://jp.reuters.com/economy/industry/3BIZA33JDRJOJF4THMRRJQ7DFY-2024-11-21/
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政府は、教育は、国内で閉じているという前提で、政策を考えていますが、高度人材養成については、インターネットを無視する時代遅れの前提になっています。
8-3)何が残るか
前⽥裕之氏は、「経済学はどこに向かうのか」という講演で、「エビデンスの階層」を提示しました。
表1 エビデンスの階層
階層 内容
EBL4 メタアナリシス
EBL3 RCTやエビデンスに基づく研究
EBL2 観察研究
<< 引用文献
経済学はどこに向かうのか 前⽥裕之
https://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/fy2023/lm20231102.pdf
>>
前⽥裕之氏は、経済学は、近い将来、データサイエンスにのみ込まれるだろうと言う人もいるといいます。
これは、いい換えれば、すべての科学は、4つのエビデンスレベルのどこかに位置づけられるということです。
「エビデンスの階層」が主張することは、EBL3とEBL4以外は、科学ではないということです。
つまり、EBL1とEBL2の学問は、近い将来になくなるだろうということです。
EBL2は、過去と同じことがおこる場合には、有効です。因果が不明で、EBL2を採用する場合もあります。しかし、その場合には、人間は、AIに必ず負けます。なので、あえて学問として、EBL2を取り上げる必要はありません。
8-4)ODの就職
今回の検討は、ODの就職でした。
企業が、EBL1とEBL2のODを採用するメリットはありません。
AIが進めば、EL2の仕事は、ほとんどが機械に置き換わります。
これは、自動運転で、運転手が失業する状況です。
この状況になると自動車学校(運転手の学問)は、消滅します。
同様に、EBL1とEBL2の学問を教えている大学の講座はなくなると思われます。
自動車学校と同様に、多くの現職の大学の教員が失職すると思われます。
もちろん、政府は、博士号を取得した専門人材の就職を支援しています。
同様に、政府は、失職しそうな多くの現職の大学の教員に補助金をばら撒くかもしれません。
しかし、そのようなことをすれば、日本経済は、火の車になって、政権が転覆します。
2024年現在、日本は、生産性で、シンガポール、韓国、台湾に勝てません。
経済成長と技術開発で、中国に勝てません。
日本の後方には、インド、マレーシア、タイ、ベトナム、インドネシアが追いかけています。
企業が、EBL1とEBL2のODを採用すれば、これらの国に逆転されます。
2024年11月には、政府は、103万円の壁引き上げの議論をしています。
ここには、「中国製造2025」のような技術開発の議論はありません。
東南アジアの発展途上国は、「中国製造2025」をモデルに、技術開発に力を入れています。
日本は、所得の再配分とつけ回しの議論ばかりしています。
5年後、10年後の日本には、現在の政策の結果が効いてきます。